最終話:テオ様と私の、たぶん、わりと、感動的な、結婚式。
「絶対に、水色は着ません!」
「ならん!」
「煩いです」
王城庭園をズンズンと突き進みながら、ウエディングドレスの色について、テオ様と言い合いをしています。
テオ様が真横でグチグチグチグチと煩いです。
「我が赤き果実よ、ゆっくりと歩め! いくらユピテルの祝福があろうとも危ない! 神の愛は万全では無いのだぞ!」
「はいはい」
「適当に返事をするでない! 来年にはマーテルとなるのだぞ! 淑やかにするんだ!」
「煩いです」
「煩いと言うな!」
本当にテオ様は煩いです。
存在自体が煩いです。
何故、早歩きの私より優雅に歩いているのに、私をちょっと追い抜きかけて、歩みを緩めたりするのですか!
リーチ差が憎たらしいです。
「大体、皆に標準語を話せる事はバレているのですから、普通に話されて下さいよ」
「嫌だ」
「悪阻で通訳もままならないのですよ!」
……私、妊娠しました。
あの婚約式の日の夜、はっちゃけたテオ様のおかげで、妊娠しました。
まぁ、合意の上なので、テオ様のせいにするのもおかしな話なのですが。
婚約式の翌年末に予定していた結婚式は、年始に前倒しになりました。
お腹が目立つ前にと。
超特急で王妃殿下とお母様と共に準備していますが、時間が足りません。
今は、息抜きのお茶をする為に四阿に向かっています。
「……ミラベルがいなかったら…………普通に話している」
「っ、はぁぁぁ⁉」
結婚式の予定を頭の中でぐるぐると考えていましたら、まさかの暴露をされました。
この、厨二病設定てんこ盛りの殿下は、ほんっっっとうにっ。
―――――イラッとしますわね!
喧嘩したり、仲直りしたり、テオ様が興奮して襲って来るのを撃退したり、撃退されたり、結局続けるらしい厨二病設定の通訳をしたりと、色々している内に、結婚式の当日になってしまいました。
「ミラベル、準備はいいかい?」
「はい、お父様」
お父様と腕を組んで、ヴァージンロードを歩き、テオ様の待つ祭壇前に向かいます。
テオ様は、プラチナブロンドの艷やかな髪を両サイド編み込んで、高い位置でポーニーテールにしています。
どこの王女様かという見た目です。
そして、輝きそうなほど真っ白な布地に、金糸で刺繍された綺羅びやかな軍服を着て、祭典用の真っ赤なマントを着けられています。
真っ黒な軍服を着たがったテオ様を、王妃殿下と共に必死に止めました。
おかげで、とても王子様然としていらっしゃいます。
美しいです。
花嫁の私より美し過ぎて、軽くモヤッとはしますが。
まぁ、いいです。
今更ですからっ!
いつもの事ですからっ!
ちょっとポッコリしてしまっまたお腹は、ドレスのデザインで誤魔化されていますが……まぁ、参列者にはモロバレですわね。
国民の皆様への発表は、何だか上手いこと、されるらしいです。
王太子殿下が「どう頑張っても、計算は合わせられないからね。上手いこと美談でも作っておくよ」と身震いしそうな程の、恐ろしく美しい笑顔で言って下さいました。
このパターンは、何も言わずにお任せするのが最適解です。
「セオドリック殿下、ミラベルをよろしくお願いいたします」
「うむ」
お父様の腕から、テオ様の腕へと、私の手が移されました。
「我、フォレストリア王国第二王子、セオドリック・アドリアヌス・ラドバウト・ファン・デル・フォレスター四世は、ミラベル・メヒテルト・イルセ・デ・アップルビー伯爵令嬢を我がデアとし、永遠に愛す。シー・ウァレース・ウァレオー。このジュラティオは、いかなる時も揺るがぬ」
(超意訳:私、セオドリック・フォレスターは、ミラベル・アップルビーを妻とし、永遠の愛を誓います)
「「……」」
「…………えぇっと、わたくしも、ですわ」
何故に、会場がシーンとしたのでしょうか?
何故に、皆様は私をジッと見るのでしょうか?
まさか、結婚式当日も通訳をしろとか言いませんよね?
いえ、まさかですわよね?
多少、ちょこっと、感動しつつ、誓いの返事をしました。
何拍が遅れて、疎らな拍手が起きたあと、徐々に大きな拍手に変わり、国中に響くかのような大きな音で、祝いの鐘が鳴らされました。
「ビバベブ……」
グシュグシュと鼻水を啜りながら、涙目のテオ様が顔を近付けて来られました。
え、コレとキスするのですか⁉ とか、思っていませんよ?
ええ、思っていませんとも……。
ちょっと塩っぱめで、異様に長い誓いのキスの後、テオ様に抱きかかえられ、王城の三階にあるバルコニーへと向かいました。
今日は国を挙げてのお祭りです。
三階のバルコニーから、王城前広場に集まった国民の皆様に手を振ります。
皆様が大きな歓声を上げてくださいます。
今日は、テオ様と私の、たぶん、わりと、感動的な、結婚式の日、なのです。
「愛しているよ、ミラベル」
「私もです。……たぶん」
「ぬぁぁぁ⁉ たぶん⁉」
「煩いですわよ」
「煩いと言うな!」
◇◆◇◆◇
フォレストリア王国の王城の一角にある、王弟宮の庭はいつも賑やかです。
煌めくプラチナブロンドの髪と、蕩けるような金色の瞳を持った三歳の少年――レジナルドは、毎日のように繰り広げられる光景を眺めながら、溜め息を吐きました。
「ロブ、ちちうえ、うるさいです」
「そうですねー」
国王が代替わりし、セオドリック第二王子殿下は、セオドリック王弟殿下に、敬称が変わりました。
セオドリックの第一子であるレジナルドは、彼によく似ており、とても美しく聡明な王子です。
名前は、様々な人を巻き込んで、危うく国民投票などというシステムを取り入れられそうになりつつも、セオドリックの妻、ミラベルの希望通りの『レジナルド・フォレスター』と、割と普通の名前になりました。
そして今は、新たに授かった子供の名前について、多少揉めていました。
「なぁ、我が輝く星よ、お前も『ヒルデガルディアーナ・メヒトル・レアリア・フォレスター』が良いよな? 男だったら『ヒルデブラント・アドリアヌス・レアーノ・フォレスター』がいいだろう?」
――――ながい。
「ちちうえ、おぼえられません」
「…………我が輝く星よ、頭が悪いのガフゴォォッ」
セオドリックが口を滑らせた瞬間、ミラベルの綺麗な右フックがセオドリックの顎先を捉えました。
「おまっ、ちょっと意識が飛びかけだぞ!」
「そのまま召されて下さって構いませんよ?」
「…………ごめんなさい」
――――ちちうえ、よわい。
国軍統括で、国一番の強さだと言われるセオドリックも、妻のミラベルには一瞬で負けてしまいます。
きっと今回も、ミラベルのお腹の中ですくすくと育っている子供は、ミラベルの希望通りの『普通の名前』になる事でしょう。
フォレストリア王国の王城の一角にある、王弟宮の庭で、レジナルドは黒髪の少女の元に駆けていきます。
「ミーシャ、あそぼ」
「いーよー」
遠くでセオドリックが何か叫んでいますが、大体は無視で大丈夫だと、ミーシャの父であり、レジナルドの護衛騎士でもあるロブは言います。
ミーシャの母であり、ミラベルの侍女でもあるザラも、同じく大丈夫だと言います。
レジナルドは今日も、賑やかな庭で、ミーシャと手を繋ぎ、楽しそうに駆け回るのでした。
―― fin ――
はいっ、本日で完結でっす!
最後までお付き合いありがとうございました(*´﹀`*)
また別の作品でお会いしましょう((o(´∀`)o))
(次は記憶喪失のやつの続編を書こうと思っております)
(あ……↑お月様のみの作品だった_(´ཀ`」 ∠)_)




