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74:本当に、惨めだ。 side:セオドリック




「いやぁっ! ちょっと、私のせいじゃないでしょ⁉」

「煩い、黙れ」


 自分が全ての原因のくせに。

 客室で、のうのうと茶など飲みやがって。


 訳の分からない事を叫び続けているが、知ったことではない。

 アンジェリカの髪を鷲掴みにし、地下牢まで引き摺って連れて行った。


 目的の牢の目の前に行くと、中には憔悴しきった体格の良い男が、両手を壁の鎖に繋がれ、口には猿轡を嵌められていた。


「フッ、惨めだな?」

「ふぐぅぅぅ!」

「何だ? 何を言っているのか、わからんな。おい、そっちの牢にこの女を入れろ」

「ですが……」


 男の向かい側の牢には、五人の節操も自制もない犯罪者を用意しておいた。

 頭の悪いこの女と、下半身でしかものを考えていない……まるで私のような、この男には、とっても分かりやすくて、お誂え向きだろう。


「やめて、やめてよ! わたし、何もしていないじゃない!」

「うがぁぁぁぁ!」


 男がけたたましく叫び、鎖を引き千切ろうとするが、出来るはずもなく。

 男の手首に巻いている保護布は血で滲み、口からは血混じりの涎のような汚いものが垂れ流れていた。

 本当に、惨めだ。

 そんな姿を見ても、一国を焼き尽くしたい程に燃え盛っている私の心は、鎮められない。

 何の役にも立たない男だ。


 ――――私、同様に。


「……さっさと入れろ」

「誰か! 助けて! いや、いやよ!」

「セオドリック! 止めろ!」

「…………兄上、邪魔をしないでいただきたい」


 誰が呼んだんだ。

 今は一番忌々しい存在の兄上を。


「セオドリック、ミラベル嬢の側にいてやれ」

「……私は、何の役にも、立てませんので」

「そんな事はない。ただ側に――――」

「側にも近寄らせてもらえない! 抱きしめさせてももらえない! この男と、この女と……私のせいで。私が……ミラベルをっ……」


 ――――追い詰めている!


「セオドリック! ハァ…………ロブ、連れて行け」

「はい。殿下、アップルビー伯爵令嬢の所に参りましょう」


 そうか、兄上に報告したのはロブか。

 いつもいつも、私の邪魔をする。

 忌々しい男だ。


「……ミラベル、と呼べばいいだろう」

「呼んだことはありません」

「『お嬢』だったか?」

「はい……」


 ロブに腕を掴まれ、引っ張られ、とぼとぼと歩いた。

 途中、庭で花を摘み、子犬たちと走り回っていたノックスを捕まえ、ミラベルの部屋の前に戻った。


「……部屋に入らないんですか? というか、俺、ここまで入っていいんですかね?」

「…………お前、近衛だし」

「はいぃぃ? いつの間にぃ?」

「……試験の時」

「はぁ⁉」

「わふぅん!」


 ロブがアホみたいな声を出すもんだから、ノックスが吠え、部屋からはリジーが出て来て、普通に怒られた。


「りじー?」

「っ!」


 ――――ミラベルの声だ。ミラベル、ミラベル! 私のミラベル!


「……っ、これ、を……ミラベルに。あと、ノックスも。私は…………部屋に戻るっ!」

「ちょ、俺に渡さ――――よぉ!」


 ロブが何か言っていたが、知らん。

 走って、部屋に逃げ込んだ。

 何となく、聞こえて来るような気がする、楽しそうな話し声で、私の心臓は潰れそうだった……。




 次話も明日21時頃に更新します。

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