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67:何故に私まで。




 ふと、人の気配を感じて目蓋を押し上げると、視界いっぱいにテオ様がいらっしゃいました。


「チッ、起きたか」


 どうやら、待ち長すぎて眠っていたようです。


「ん……テオ様、大丈夫でしたか?」

「何がだ?」

「王太子殿んっ……」


 急に声を奪われました。

 テオ様の唇によって。


「……っ、他の男の名前を呼ぶな」


 他の男と言われましても、そもそも敬称ではありませんか。他にどう呼べと⁉

 お名前で呼ぶのは憚られますし、そもそも絶対にテオ様が荒ぶられますし……。


「……お義兄様?」

「っ⁉ 絶対に駄目だ! 何だそれは! 破壊力しかないじゃないか!」

「えぇぇぇぇ……」


 とても呆れた声が出てしまったのは、仕方がないと思います!




 ちょっと寝乱れていたガウンの衿を正し、起き上がりましたら、テオ様がじぃぃっと私の胸元を見てきます。


「湯に入ってくる…………一緒に――――」

「お先にいただきました」

「チッ」


 チッ、とか言われましても。例の夜着を着ろと言ったのはテオ様のくせに。

 暫くプンスコしていましたら、腰にバスタオルを巻いたテオ様が、濡れた髪の毛をタオルでガシガシと掻き回しながら戻られました。

 綺麗なお顔に似合わず、ちょっと雑です。

 あと、あれでは絶対に髪の毛が絡まります。


「きちんと乾かしてもらいましょうよ……」


 テオ様にも入浴を補助するメイドがついています。

 若い女性は嫌だと言って、老齢の元メイド長を専属として置いていらっしゃいます。


「嫌だ。(ばぁ)は時間がかかる」

「無理矢理に雇っているのはテオ様でしょう! 婆やさんが可哀想ですわ。もうっ。ほら、ここに座ってください!」


 テオ様にベッドに座ってもらい、タオルを取り上げました。

 テオ様の前に立ち、ジュックリと濡れたシルバーブロンドの髪の毛を、タオルで押さえるようにして、水気を吸わせました。


 ――――髪の毛が長いくせに、タオル一枚でなんとかしようなどと!


 慌ててもう一枚タオルを用意し、包み込むようにして、水気を吸わせる作業を続けました。

 テオ様は私の腰に腕を回し、胸に額をくっ付けて、乾かすのを邪魔してきます。


「テオ様、乾かし辛いですわ」

「ん……このまま」

「どうしたのですか? 王太子殿下に怒られましたか?」

「……ん」


 ――――あら?


 本当に怒られたようで、凄く落ち込んでいらっしゃるように見えます。

 よしよしとまだ乾ききっていない頭を撫でると、胸の谷間にお顔をギュムッと押し付けて来られました。


「兄上が…………今日で休暇を取り消す、と」

「あら、まぁ。何故ですか?」

「将軍がこちらに向けて出航してしまった」


 将軍。将軍様、何だかつい先程聞いたような気がいたします。


「もしかして、アンジェリカ様のご婚約者の?」

「ん」

「えっ、まさか、戦に?」

「いや。アイツを迎えに、だろう。だが、船団で来ているらしいから、こちらも船団を用意し、海上で出迎えて、一緒にこちらへ戻る事になった」


 ――――あら?


 何だか、とても嫌な予感がします。


「どなたが?」

「私が……」


 あら、やっぱりですのね。

 テオ様がお船に乗られるのですか。

 でも、他国の重要人物の出迎えという大役、大丈夫なのでしょうか?

 言葉的に。


「明日の昼に出航する。…………ミラベルも通訳として連れて行く事になった」

「えっ……」


 ――――何故に私までぇ⁉




 次話も明日21時頃に更新します。


 それから、ここ暫く連載していた「カーターと『星降り願う夜』」本日、完結いたしました。

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