64:怒らせてはいけない人。
怒らせてはいけない人を怒らせてしまった気がして、ハラハラとしています。
そして、先王の妹の孫娘様は、アンジェリカ様というのですね。
今後はちゃんとアンジェリカ様とお呼びしましょう。
シェンオーなんちゃらは可哀想すぎます。
「取り敢えず、ミラベル嬢は……服を整えなさい」
「っ! 申し訳ございませんっっ」
テオ様にスカートがたくし上げられたままの状態で、ベッドに横座りしてしまっていました。
膝まで丸出しです。完全に露出狂です。
慌ててスカートの裾を整えて、足首までしっかりと隠しました。
「いや、こっちこそごめんね。随分と考えが足りない弟だけど、見捨てないでくれるかい」
「は、はい!」
王太子殿下がホッとしたというように、柔らかく微笑んで下さいました。
その笑顔が、とても落ち着き払った大人なテオ様に見えて、ドキンと心臓が跳ねました。
そんな私の様子を見ていたテオ様が、何を思っていたなんて、わかるはずもなく。
私はただ馬鹿みたいに、王太子殿下に見惚れてしまっていました。
「さて。アンジェリカ、セオドリック、ついて来なさい。少し話し合うよ」
「……はい」
「わたくし、た、たいちょうがすぐれま――――」
「アンジェリカ、私は、ついて来い、と言ったんだよ。理解できなかったのかい?」
「いっ、いえ、その」
「ん? 理解、出来ない、かい?」
王太子殿下の笑みがどんどんと深まっていきます。
アンジェリカ様、お願いですから素直について行って下さい! 私、この空気に耐えられませんっ!
テオ様は苦々しい顔で嫌々と、アンジェリカ様は何かを叫びながら、王太子殿下について行って下さいました。
私は、ホッと息を吐きつつ、部屋に戻ろうとしましたら、いつの間にやら現れたリジーに、このままここにいるように、と言われてしまいました。
「テオ様はいつ帰ってくるか分からないし……」
「そのテオ様が、部屋から出すなと」
「え……」
――――まだ何かに怒っていらっしゃいますの⁉
あ然としていましたら、リジーにアンジェリカ様とテオ様の関係を知らないのか、と聞かれました。
もちろん、知りませんが。
お二人に何かあるのでしょうか?
「えー⁉ ミラベル様…………あ、そうか。領地に戻られてましたものね」
何故か、リジーが憐憫に満ちた顔でこちらを見てきます。
妙にモヤッとします。
リジー曰く、ですが。
私と婚約破棄したという噂が、アンジェリカ様の国に届いたそうです。
それを聞いた先王の妹君様が、祖国との繋がりを強固にしようと画策した結果、孫娘のアンジェリカ様をテオ様の新たな婚約者に据えた、と。
「ミラベル様が領地に帰られて一年経った頃に、あちらの国から書簡が届きました」
その書簡には、『アンジェリカをセオドリックの妃にしなさい』と書かれていたそうです。
テオ様は、私以外は認めないと断固拒否して下さったそうです。
「それで、断ろうとしていた矢先に、アンジェリカ様が、こちらに入国されました」
「え⁉」
どうやら、書簡を送って直ぐに、アンジェリカ様も送り出されたようです。
その時、アンジェリカ様の護衛にあたっていたのが、さきほど王太子殿下が言われていた『彼』、現在の将軍とのことでした。
「ええ⁉」
「何があったかまではわかりませんが、その後、アンジェリカ様とその当時軍人だった将軍様が、婚約する事になりました」
「え? で、なぜ、アンジェリカ様はこちらの国へ?」
どうやら、『将軍と結婚したくない』『不遇されている』など言って、こちらの国に逃げて来たようです。
一応王族に連なるお方なので、追い返すわけにもいかずで、取り敢えず、あちらの国に確認などをしている間、大人しくしているなら、匿う。と王太子殿下がお約束されたそうです。
次話も明日21時頃に更新します。




