59:テオ様の、婚約者。
目蓋を開けたくありません……。
腰が痛いです。
お股に違和感があります。
全身が怠いです。
お腹は減りました。
……でも、動きたくありません。
そんな私の我儘な気持ちを全て察知したかの如く、テオ様が優しいキスをしてきた後、ベッドの上で食べられる物を用意させよう、と言って下さいました。
――――あら? 口に出てたかしら?
神妙な顔のザラとニヨニヨしたリジーがベッドの上に横たわる私の身だしなみを整えたり、食事の準備をしてくれました。
「お嬢様、昨夜は出過ぎた真似をして申し訳ございませんでした」
「ううん。二人とも、いつもありがとう」
「「っ……」」
何故か二人とも真っ赤な顔で寝室から出て行きました。
「……ミラベル、今の顔は駄目。人にしたら駄目。私だけにしか見せたら駄目」
――――えぇぇ?
私はいったいどんな顔をしていたのでしょうか?
テオ様に聞いても『駄目』しか言われませんでした。
お昼過ぎ、ベッドからどうにか立ち上がって、締め付けの緩いドレスを着ました。
今はテオ様に支えられながら、中庭の四阿に向かっています。
そこは王族のみが利用可能なお庭で、その隣が陛下のペットの犬達がくつろぐ場所になっています。
ノックスに会いたかったですが、ちょっと今は戯れることは難しそうなのでまたの機会にしました。
「っ……ふぅ」
「すまない、傷付けるのは本意ではなかったのだが……」
「テオ様、標準語に戻ってますわよ」
「……ん」
テオ様がとてもシュンとされるので、どうにか元気付けたいです。
「ここは、そうですね……『赤き果実よ、プラーガを与えたるは、我が本意ではなかったのだ』でしょうか?」
うふふと笑ってそう伝えましたら、テオ様もくすりと笑って下さいました。
「うむ、我もそう言うであろうな」
「ですわよね!」
「ん。我のカーリタースは、永遠に我が赤き果実に降り注ぐであろう」
(意訳:私はミラベルを一生愛しているよ)
プラチナブロンドを風に靡かせ、二度見してしまうほどに美しいお顔で、誰もが憧れそうな均整の取れたスタイルで、艶っぽくそんな事を言われました。
特に人払いはしていなかったので、私達について来ていたリジーやメイド、騎士達までもテオ様のエロい雰囲気に中てられ、ザワ付いていました。
――――あぁ、テオ様が無双状態です。
四阿に座り穏やかな時の流れに身を任せ、テオ様とポツポツとお話しながらお茶を飲んでいました。
その時、突如聞こえてきた女性の金切り声と男性の諌める声によって、とても穏やかで幸せな時間が台無しにされてしまいました。
「無礼者! そこを通しなさい!」
「ですから――――」
「私はセオドリック様の婚約者としてこの国に招かれているのよ!」
「ですから、それは――――」
「大体、何なのよ⁉ 普通は到着した私を国を挙げて出迎えるべきなのに!」
――――婚約者? 招かれた?
意味が分かるはずなのに、意味の分からない言葉がどんどんと耳に届いて来ます。
内容的に外国の方のようですが、賓客がいらっしゃるとは聞いていませでした。
それも、テオ様の、婚約者、とは。
手に持っていたカップをテーブルに置き、テオ様に説明を求めようと、お顔をじっと見ました。
「っ⁉」
テオ様が人でも殺せそうなほどの……殺気とでも言うのでしょうか? そんな雰囲気を醸し出していました。
眉間に皺を寄せ、目は鋭く、口は真一文字。
「テオ、様?」
「ん、大丈夫。ミラベルはここにいて」
先程までの怒気やら殺気やらをしゅるりと引っ込めて、ニッコリと笑うテオ様は何故か余計に恐ろしく感じてしまいました。
次話も明日21時頃に更新します。




