46:聞いてませんけど⁉
湖畔に着き、テオ様にエスコートしてもらいつつ馬車から降りると、むせ返る程に甘く柔らかな空気と景色が広がっていました。
キラキラと透き通る湖と、色とりどりに咲き誇る花々、全てが光り輝いて見えます。
「素敵なところですねぇ」
「……ん」
辺りを見回しつつテオ様に話し掛けますが、またもや適当に返事されてしまいました。
少し歩いた所にある大きな木の根元に毛布のような敷物をし、軽食や飲み物の準備をしてもらいました。
「我らは崇高なる議題について討議する。下僕共はこの地より去れ」
「えぇと、二人きりで話したいから、なるべく遠くにいて欲しいとの事ですわ」
「「畏まりました」」
ちょと無理矢理な意訳で誤魔化しましたが、『崇高なる議題』の意味が全く解りませんでした。
皆がある程度距離を取ったので、テオ様にお茶を渡しつつ、何をお話したいのかと尋ねました。
「ん……」
「テオ様?」
馬車を降りる少し前からずっとこの調子で『ん』や『あぁ』しか話されません。
受け取ったお茶も、香りや味を楽しむ事もなく、ぐいっとお酒でも煽るかのように一気飲みして、スッとカップを返してきました。
せっかくの綺麗な場所で、ピクニックで、初デートで、心が弾んでいたのに……。
「テオ様、帰りましょう」
「っ、は⁉ 何故…………」
「だって、楽しくないのでしょう? 私とデートする気はないのでしょう?」
「ちが……う」
何が違うというのでしょう。
馬車から降りてからは、こちらも見ず、返事も適当で、二人きりになってもそれは変わらなくて。
こんなの、デートじゃ無い!
「ミラベル……」
ふにゅりと唇が重なりました。
テオ様が腰を抱き寄せ、首の後ろに手を添えて、そっと押し倒してきました。
敷物の上に寝そべった私にテオ様が覆い被さってきて、さらに唇を重ね、執拗に貪られました。
「……誰にも渡さない」
キスの合間に真顔でぽつりと洩らされた言葉に、背筋とお腹がゾクリとしました。
テオ様の手が頬を撫で、胸を通り過ぎ、脇腹を撫で、スカートをたくし上げようとした所で、ハッと我に返り、テオ様の左手首を掴んで拒みました。
「何故止める」
「っ……皆の目がありますから」
「そう、だな……」
納得した! 良かった! と思った瞬間、ぐらりと視界が揺れ、テオ様に抱きかかえられていました。
テオ様が私を横抱きにしたままぐんぐんと進み、湖畔の側にひっそりと佇んでいる別荘へと入ってしまいました。
別荘はクリーム色の壁紙と紺色のフカリとした絨毯で、本来ならば落ち着いた雰囲気で、窓辺から静かに湖畔を眺めるような場所なのでしょう。
ですが、私達が入った瞬間、エントランスにいたメイド達が慌てて奥に引っ込んだり、別荘内の安全確認をしていたのであろう騎士達が敬礼したりと、雑然かつ騒然としていました。
「テ、テオ様、こちらは」
「大丈夫だ。元々泊まる予定だったから部屋の準備はされている」
――――聞いてませんけど⁉
テオ様に止まって欲しいと頼みましたが、嫌だと言われてしまいました。
人前でお姫様抱っこなど、とても恥ずかしいのですが。
泊まる予定だったらしい部屋に入る時、テオ様がちらりと廊下にいた騎士やメイド達を見渡されました。
「こちらから呼ぶまで誰も近づくな。護衛は部屋の外にロブ一人でいい」
そう言うと、バタンとドアを閉めました。
ゆったりと歩いて、私をベッドに下ろすと、先程の続きが……執拗なキスが再開されました。
ここらへんから、全年齢版と大人版で『あはんで、あはん』な違いが出始めます。
次話も明日21時頃に更新します。