45:窓を流れる景色と音を存分に楽しんでいます!
ガタガタと馬車の軋む音、馬の短い嘶き、蹄の音、それらに耳を傾けつつ、ピクニックの目的地である王家が所持する湖畔に向かっています。
ピクニックをする湖畔は、王都から馬車で二時間ほどの距離にあり、都会に近いわりには自然豊かで静かな場所だと聞いています。
初めて行く場所なので、とてもワクワクして窓を流れる景色と音を存分に楽しんでいます!
…………。
……。
……嘘です。全然楽しくありません。
何故かあまりにも空気が重く淀んでいるので、窓を開けて空気の入れ替えをしているだけです。
ぶっちゃけますと、ちょっと肌寒いです。
「「……」」
取り敢えず、何か話そうと思い、口を開きました。
「テオ様――――」
「『テオ様』? お嬢、いつからそう呼ぶように?」
「えっ……と、その、先日から」
「…………ふぅん」
ロブが目付き鋭く聞いて来たくせに、返事は適当で、何だかモヤッとしました。
「何よ?」
「別に何でもないっすけど。…………あー、まぁ、チョロいなとは思いました」
「ぉぃ」
「チョロいぃぃ⁉ 私がっ⁉」
「ぉぃ」
「はい。チョロッチョロのチョロですね」
「なん――――」
「おい!」
なんですって! と叫ぼうとしましたら、テオ様が両手で私の頬を包み、自分の方を向かせ、ガッツリ濃厚なキスをして来ました。
「ふ…………んぅっ」
「ん、ミラベル、他の男を見ないで?」
「っ……ひゃぃ」
人前でこのような行為をしてしまった事や、顔が真っ赤になっているだろう事があまりにも恥ずかしくて、テオ様の肩に顔を埋めました。
テオ様はそれを感じ取って下さったのか、私の顔を隠すように抱きしめて下さいました。
「ロブ、その方はただの護衛であろう?」
「……はい」
「ならば弁えろ」
「っ、はい」
「ミラベルの乱れた姿を見ることは許さん。降りろとまでは言わん。馭者の隣に移動せよ」
「…………承知、しました」
ガサゴソと人の動く音と気配がした後、一度馬車が止まり、すぐに発車しました。
「もう大丈夫だ、二人きりになった」
「……いや、大丈夫とか言われましても。そもそもテオ様が大丈夫じゃなくされたんですが?」
テオ様の肩に顔を埋めたままで話していましたら、テオ様の手の動きが怪しくなってきましたので、サッと離れて向かい側の座席に移動しました。
「……何故、離れる」
「身の危険を感じましたので」
「「……」」
しばらく無言になった後、テオ様が大きな溜め息を吐かれ、私の方に手を伸ばして来られました。
「ミラベル、こちらに座れ。後ろ向きは危ない」
「……はい」
テオ様の横に戻ると、何故か私の頬を無言で撫でてきました。
湖畔に着くまでの三十分、気が向いたように親指で下唇をなぞっては、また頬を撫でる。ただそれだけをされていました。
話し掛けても、気もそぞろに「ん」とか「あぁ」とかだけしか返事をしてくださいませんでした。
何だか変だなと思いましたが、変な事はせずに大人しく撫でているだけだったので、特にツッコミもせずそのままにしました。
次話も明日21時頃に更新します。




