43:違う方向の痛さ。
「……ん」
「ミラベル」
「…………うー」
「ミラベル?」
「……悪霊退散っっ!」
「うぐっ⁉ っててて…………おい、ミラベル大丈夫か? 何かうなされてたぞ」
「……」
何故、目の前にテオ様が……。
あと、夢見が悪いです。寝る前のポルターガイスト現象のせいでゾンビの夢を見ました。
え? ポルターガイストと関係ない? いえいえ、似たようなものですわよ。え? 悪霊退散? 誰が言ったんですの? 気にするな? なら言わないで下さいませ。
「ところで、何故また鼻を押さえていらっしゃいますの?」
「……いや、特に理由はない」
「何故またもやベッドに入り込んでいらっしゃいますの?」
「……いや、特に理由はない」
「「……」」
シャツの隙間からちらりと見えるテオ様の胸元が何かエロいな、と見つめていましたら、テオ様の右手がすすすと私の胸に伸びて来ました。
「あら? ガントレット外されましたの? 珍しいですわね?」
「……いや、特に理由はないんだがな」
目をキョロキョロさせつつも更に手を伸ばして来られましたので、全力で手の甲をつねりました。
「いーたたたた! いたいいたい! 爪を立てるな!」
「何ですの、この手は」
「……いや、特に理由はないが」
「「…………」」
バッと手を伸ばし、ベッドサイドに置いてある呼び出し用のベルを取ろうとしましたが、テオ様に阻まれてしまいました。
「ちょ! 返してください」
「返したらまた侍女を呼ぶだろ⁉」
「当たり前で――――」
「ふぐぅぅ、ソコ、をっ、踏むぅ……ぬぐぅぅぅぅ……」
ベッドの中でワチャワチャと戦っている内に、テオ様の大事な所を膝でガッチリ踏んでしまいました。
テオ様はベッドから落ち、うずくまって悶絶していらっしゃいました。
「あら……。ごめんなさい、流石にわざとではありませんわよ?」
「…………っ、くっ……わっ、て…………る」
たぶん、分かっている、と仰られたのだと思いますが、言葉にならないほどのようでしたので、テオ様の横に座って、腰をトントンと叩いてあげました。
「……っ」
「…………」
「……うっ……」
時折フルッと震えながら痛みを堪えている姿を見て、段々と申し訳なくなってきました。
「……本当にごめんなさい」
「ふぅ…………いや、私こそ調子に乗りすぎた」
「大丈夫ですか?」
「ん、段々治まって来た」
「「……ふっ」」
どちらともなく、口から息を洩らし、夜中にいったい何をやっているんだか、とクスクスと笑い合いました。
テオ様が当たり前のように私のベッドに入って、こちらに手を伸ばして来ました。
「おいで、ミラベル」
「っ、え……っと……」
「寝るだけだ。何もしない」
多少、というか結構信用ならない気がするのですが、テオ様が眉毛をへにょんと下げて寂しそうな顔をするので、トテトテと歩いて、テオ様の腕の中に収まってしまいました。
「おやすみ、ミラベル」
「おやすみなさいませ」
…………絶対に緊張して眠れないと思ったのです。
だって、目が潰れるかと思うくらいの美貌の持ち主のお顔が目の前にあるのですよ? 同じ枕で、同じ目の高さで、向かい合って!
こんな事になるなら、腕枕を断らなければ良かったです。腕枕ならテオ様の胸辺りに視線が行ったのに。
でも腕枕って、頭の重さで腕が結構痺れるらしく、夜中にコソッと抜いた、とか前世の彼氏が言っていたのをなんとなく思い出しましたので、やっぱり申し訳ないですし、腕枕はナシです。
「……テオ様」
「ん?」
「目を瞑られないのですか?」
「ミラベルが瞑ったらな」
……。
…………。
「テオ様?」
「ん?」
「鼻息が凄く荒いのですが。もしかして、まだ痛いのですか?」
「……まぁ、色んな意味で、疼いて痛いかなっ!」
「……おやすみなさいませ」
「おやすみ……」
――――心配して損しましたっ!
次話も明日21時頃に更新します。