41:手折る。
右手をニギニギ、ギュッギュで拳を作りつつ、テオ様と温室へと向かいました。
「ノックスも元気そうで良かったです」
「うむ。時々我と共に野山にいる耳の長いディアボロスや、尾が太く良質の毛皮を持ったディアボロスなどを退治しているぞ!」
「うさぎや狐は悪魔ではありませんよ。テオ様は今も狩りなどに行かれているのですね」
貴族界では男性陣が狩りに向かっている間、女性陣や子供達は狩り場手前の庭で帰りを待ちつつ、ガーデンパーティをする慣わしです。が、前世の記憶に引っ張られてしまって、誘われても狩猟会だけは断固拒否でした。
「そういえば、我が赤き果実は絶対に狩猟会には参加しなかったな」
「ええ。動物の息絶える所を見るのは苦手で…………まぁ、食べますけどね」
うさぎも鹿も美味しいですし。そう付け加えましたら、何故かテオ様がガックリと肩を落とされました。どうやら、何かトラウマや譲れぬ想いなどがあるのかと思っていたそうです。
命のサイクル、食物連鎖、分かり切ってはいますが、目の前でとなると何となく辛い。その程度のにわか動物愛護者ですわよ。と言うと、テオ様がケタケタと笑いながら頬にキスを落とされました。
テオ様の琴線が謎です。
お話と多少の戯れをしながら歩いていましたら、目的地の温室に到着しました。
温室には夏の花の苗や前世で言う観葉植物などが沢山あり、爽やかな空気が漂っていました。
「……温室というと、春の花が咲き乱れている、というイメージでしたわ」
「まぁ、そもそもが今は春だしな。この時期は次のシーズンの為の準備段階だから花は少ないんだ」
なるほど、と納得しながら苗を見て回っていましたら、テオ様に腰をぐいっと抱き寄せられました。
何をするのかと、無言で視線を向けましたら、ハーブが植えてある所へと誘導されました。
匂いが薄いタイプのハーブに囲まれた一角に大きめのカウチソファとローテーブルが置いてあり、既にアイスティーや焼き菓子などの準備がされていました。
「何かつまむか?」
「いえ、まだ大丈夫ですわ」
「ん」
テオ様と並んでカウチソファに座りお茶と少しのお喋りをした後、ぽふりと押し倒されました。
「そんなに体を強張らせるな。ここは寝転がってぼーっとするのが気持ちいい場所なんだ。人払いはしているから」
ぼーっとするのが気持ちいい、などと言っておきながら覆いかぶさって来て、またもやキスを繰り出すテオ様を胡乱な目で見つめていましたら、くつくつと笑いながら鼻の頭に、ちゆ、と柔らかいキスをされました。
「これ以上はしないから」
そう言いながら、今度は私を後ろ抱きの状態で寝転ばれました。
先程より密着度合いが酷いのですが? とクレームを出しても軽やかに無視し、今度は首筋や肩にキスを落とされました。
「テオ様、いいかげん――――」
「ミラベル、昨日はあまり眠れなかっただろう? 少し、昼寝をしよう」
お昼寝と仰るならコソコソと体を触らないで下さい。自室のベッドで別々にお昼寝でも良くないでしょうか?
脇腹を艶めかしく撫でる手の甲をつねると、何故か首筋をカプリと噛まれました。
「ちょっと⁉ お昼寝をされるのでしょう⁉」
「んー……気が変わった、と言ったら?」
耳元で妙に低い声で囁かれました。
「笑顔でテオ様の花を手折りますわ」
後ろでテオ様がビクリと身震いされました。
ふふん! 私の恐ろしさを――――「くっ、腰に来た。積極的なミラベル、いいっ!」――――思い知、ると? え? 今、何か変な言葉が聞こえたような?
「だが、雄しべは優しく触るものだぞ」
「……っ!? 誰がそんな卑猥な話をしましたかっ!」
「ミラベルが」
「してません! その素晴らしく形の整った鼻を殴って骨折させますよ、と言ったのですっ!」
テオ様が後ろでギシッと動いて腕を動かしていたので鼻でもガードされたのでしょう。
――――ふんっ!
ちょっと怒りつつ目を瞑っていましたら、後ろからそっと抱き寄せられました。
子供をあやすように、優しく柔らかく頭を撫でて下さったので、心も体もぽかぽかで、深い眠りへと落ちていってしまいました。
遅くなりましたぁぁぁm(_ _)m
次話こそは明日21時頃に更新します。