40:雪崩れ込む流れ。
「んっ……」
「ミラベル」
「……殿下」
「違うと言っただろう?」
「テオ、様」
唇を触れさせながら話すという行為は、何だかとても卑猥な事をしているような、変にムズムズする気分でした。
「今度からは、ちゃんとミラベルの気持ちを教えてくれ。私は強いミラベルが好きだ。が、だからといって我慢しろという事ではないんだ。楽しい事も辛い事も悲しい事も全て、ミラベルと分かち合い、共に歩み、共に生きていきたい」
「っ!」
「ん? どうした?」
――――どうした? って、テオ様の馬鹿!
このタイミングでプロポーズのような言葉を言われて、感動しない、真っ赤にならない者などいるわけ無いのです!
そして漏れなく私も真っ赤になっているはずです。頬が熱くてたまりませんし。
「て、テオ様」
「ん?」
「そろそろ離れて下さい」
「…………」
先程キスして、そっと抱き寄せられたような格好になっていましたので、適度で適切な距離が欲しくなりました。
「……おい」
「はい?」
「…………何か違うだろ」
何故かテオ様が物っっっ凄く不服そうな顔をしていらっしゃいます。
「何がですか?」
「ここから絡み合いつつベッドに雪崩れ込む流れだろう」
「馬鹿ですか?」
「馬鹿というな! …………ふっ、ふははっ! あははは!」
「え、ちょ、テオ様っ⁉」
急にテオ様が笑い出し、ぎっちりと抱きついて来たので何事かと思いましたら、懐かしい、と言われました。
「ふははっ、久しぶりにこんなに笑ったぞ! 馬鹿と言われて嬉しいとはな!」
「ええと、良かったですわね?」
――――で、いいのかしら?
「逢いたかった、ミラベル。ずっと逢いたかった。五年、ずっと待っていた。ミラベル、私と結婚してくれないか?」
「っ――――はい」
この人は何回プロポーズしてくるのでしょうか。何回私の心臓を壊しに来るのでしょうか。私の心臓、これから、大丈夫なのでしょうか……。
テオ様に抱きしめられドキドキとしていましたら、ドアがノックされ、お昼の準備が出来たと言われました。
「チッ。入れ」
――――チッ?
「またお部屋で取られるのですか?」
「うむ。二人で食べたい。……駄目か?」
「い、いえ」
だから、上目遣いで首を傾げで可愛らしさを演出しないで下さい。
サラサラの髪の毛を肩から溢してエロさを演出しないで下さい。
切に、お願いいたしますです。
お昼を食べ終わり、特にする事もないので本でも読もうかと思っていましたら、テオ様が妙に不服そうな顔をされました。
「どうされました?」
「ミラベル、私達は晴れて両思いになったのだよな?」
「そうですわね」
「恋人だよな?」
「……そうですわね」
「その恋人を目の前にして、何故普通に読書を始めようとしている」
「…………暇なので?」
読もうと思って開いていた本をスペンと閉じられてしまいました。
テオ様が温室に行くぞというので、まぁ、花を愛でつつ読書するのもいいか、と思いついて行く事にしました。
本を手に取ったら投げ捨てられました。酷い。
「そういえば、ノックスはお元気ですか?」
「うむ、我が下僕二号は獣達が為の庭にて着々と地位を築いている」
急に厨二病語を話し出したので一瞬びっくりしましたが、そういえば廊下には騎士達がいますものね、と納得いたしました。
取り敢えず、一号は誰なのだとかは聞かない事にします。
聞いたら今度こそテオ様の花を手折ってしまいそうなので。……拳で!
次話も明日21時頃に更新します。




