37:パフォーマンスだった?
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――――なるほど!
セオドリック殿下のお話を聞いて色々と納得です。
それでお兄様もお父様もエスコートを請け負ってくださらなかったのですね。
そして、それはお母様の企み八割ってところですわね。
「他の男の色など纏うな……」
「……? 纏った覚えはありませんが?」
「あの護衛の男の色だった」
「ロブですか?」
えっと、ロブの色とは…………あ!
「あれはただ、ドレスの色に合わせただけなのですが」
「私が贈った色も合っただろう!」
「まぁ、多少、ギリギリ? 諦めれば? でも、デザインが致命的なほど合いませんでしたので」
「……」
あぁっ、思った事をハッキリと言い過ぎました。セオドリック殿下の顔が『無』です。
「いえ、その、デザインはとても素敵でございましたです、はい」
「…………」
「せ、セオドリック殿下――――」
「あの男はミラベルとなんの関係も無いのだな?」
「ロブですか? なんの関係も無くは無いですが。ロブは私専属の優秀な護衛ですし」
「…………」
殿下がまたもや『無』な表情のまま顔を近づけて来られて、ちゅ、とキスをされました。謎のタイミング過ぎて避けようがありませんでした。
「……このような関係では無いのだな?」
「しっ、しませんよ!」
「んっ」
何故か満足そうな表情をされました。
「いったい、何なのですか!」
そもそも、何故ずっとこのような格好をさせられているのか……。
膝から下ろして欲しいと言ったのに、さらりと無視されました。
「ミラベルは、怒ると頬の色が濃くなる……可愛い」
蕩けるような笑顔で頬を撫でられ、ボッと火が付いたように体が……特に顔が熱くなりました。
セオドリック殿下はくつくつと笑いながらさらに私の頬を撫でていました。
「……殿下」
「テオと」
「……」
「ミラベル、ずっとそう呼んで欲しかったんだ。呼んで?」
「っ……あー、もうっ! テオッ!」
「ん、何だ?」
「てっ、テオ……様が、厨二病を続ける理由は解りました。知らなかったとはいえ、色々と言って申し訳ございませんでした」
セオドリック殿下が嬉しそうに微笑むので、頑張って『テオ』様と呼ぶようにしましょう。
それよりも、ちょっと……いえ、かなり気になっている事があるのでそちらを知りたいのですが。
「では、あの『厨二病』セリフの求婚は、パフォーマンスだったのですか?」
それぞれの護衛や侍女、そのほか覗き見なのか通りすがりだったのかの人影がチラリと見えたり、木陰に潜まれた方々など、割と何人もの視線がありましたし。
「ちっ、ちが、う……ちがうんだ」
あの光景をぼぉっと思い出していましたら、テオ様が苦しそうに声を洩らすのでハッとして、テオ様の顔を見ました。
湯気が出るんじゃ……? というくらいに真っ赤になっていらっしゃいました。
「て、テオ様?」
「あれは……違うんだ」
「……間違いの、求婚だったと?」
思ったよりも低い声が出てしまいました。
すると、テオ様がビクリと肩を震わせ、一気にまくし立てて話し出されました。
「違うっ! 違うんだ。自分を鼓舞しようとして、客観的に解説したり、自分がミラベルに好かれてそうなところを挙げていたんだ。そしたら、目の前にいたミラベルが…………庭に儚げに佇むミラベルが可愛くて! プロポーズはちゃんとした言葉で言うつもりだったんだ! だがっ、頭が真っ白になって、訳わからなくて。ずっと当たり前に使っていたから『魔王』が出て来てっ…………あんなことになりました。ごめんなさい」
「…………」
最後は絞り出すように謝られました。
ちょっと涙目のテオ様が耳まで真っ赤にして、ちらりとこちらに視線を向けられました。
何故かどんどんと困惑した表情になっていらっしゃいます。
「ミラベル……そんなに、嫌だった?」
「……ぇ?」
「泣くほど嫌だったのか?」
頬を触ると、濡れていました。ボタボタと涙が溢れていました。
「っあ…………いえ」
あのプロポーズはパフォーマンスでは無かったと、テオ様の本当の気持ちだったのだと、知る事が出来てホッとしました。
きっとその安心から涙が溢れ落ちたのだと思います。
次話も明日21時頃に更新します。