36:やっと逢える。 side:セオドリック
私はずっと待ち続けた。
多少ズルをして、アップルビー領に手の者を送り込んで、ミラベルの様子を報告させたり、ミラベルが開発したという料理を早馬で傷む前に持ち帰らせたりもした。
楽しそうに、伸び伸びと過ごしていると聞いて、少し寂しく思った。
そして、側にいつも同じ騎士の男がついていると聞いて、怒りに燃えたり、焦燥を感じたり、泣きそうな気分になったりもした。
――――もう、辞めたい。
ミラベルと離れ離れになって三年経った頃、そう思って『魔王』を減らしていく事にした。
兄上の政治的地盤もしっかりとし、私の地盤はガタ崩れなので、私が多少普通にしていても、兄上の転覆を図ろうという者はもういないのでは無いかと。
……だが、駄目だった。
ちょっとでも話が通じると思うと、操ろうとして来る者がいた。
その度に兄上に報告し、対処していくが思うようにいかない。
何故そんなにも私達を対立させたがるのだ。何故、私が兄上を慕っているという言葉が『お労しい』になるのだ。
結局、皆の前では『魔王』のままがいいのだろう、という結論に落ち着いた。
五年経ったある日、ずっと気になっていた事を母上に確認した。
「母上、ミラベルはデビュタントボールに来てくれるのでしょうか?」
「うーん。シーズンのお茶会は全滅だけど、デビュタントボールは流石に来ると思うわよ」
「祝いに宝石を送りたいのですが、それも駄目でしょうか?」
「聞いておいてあげるわ」
「ありがとうございます」
――――ミラベルに、逢いたい。
背は伸びただろうか?
髪の毛は?
声は?
ピンク色の頬は変わってないだろか?
あの金色の瞳で、私をまた見つめてくれるだろうか?
私を見て微笑んでくれるだろうか?
あの時は怒ってごめんと謝ったら、受け入れてくれるだろうか?
跪いて愛を囁やいたら、喜んでくれるだろうか?
時に悪態を吐いたり、怒ったり、ころころと笑ったり、頬を染めて照れたりするミラベルが見たい。
エスコートに差し出した腕に、なんの迷いもなく手を添えて、私を見上げて微笑んで欲しい。
ミラベルはデビュタントボールに参加する為、王都に来るとの事だった。贈る宝石は、母上が用意したドレスと共に贈る事になった。私からと書かないのならばと言われた。
宝石商と話し合い、ジュエリーデザイナーとも話し合い、ミラベルに似合う最高級で最新の物をポケットマネーで買った。
――――また、私の色を纏ってくれるだろうか?
待ちに待ったデビュタントボールの日、城の馬場の近くに潜み、アップルビー家の馬車が来るのをずっと待っていた。
ミラベルの両親からエスコートはいない、伯爵も父親も断ったと聞いていたのだ。
だから、馬場からエスコートしようと思っていた。
――――やっとだ! やっと逢える!
浮足立っていた私の心は、一瞬で打ち砕かれてしまった。
次話も明日21時頃に更新します。




