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34:『騎士様と魔王』 side:セオドリック




「…………これだ! 私は魔王になればいいのだ!」


 兄上から頂いた『騎士様と魔王』の物語を読み、魔王の奇天烈さに感動した。侍女達に似通った本を探してもらい、読み漁った。

 その中で古代語などを使うとより一層『イタい』という現象になる事を学んだ。


「私……いや、我だな、うん。我はこの国の尊きデウスである! 者共よ跪けぇ! ……うん」


 部屋で何度も練習した。

 繰り返し繰り返し練習し、皆の前で少しずつ『魔王』っぽさを出していった。

 初めの頃は「あぁ、あの本にハマっているんだな」程度の扱いだった。


 一年、二年と『魔王』っぽさを強めながら続ける内に、ほぼ全員が「第二王子は狂っている」と判断されるようになった。


「テオちゃん、どうしちゃったの⁉」

「テオと呼ぶでない! 我はセオドリックである! いくら我がマーテル()であろうとも、我が誇りは穢させぬぞ!」


 私が『魔王』っぽいセリフに満足すればするほど、母上は悲しそうな顔になり、時折泣いているようだった。

 それでも私は辞められなかった。




 月日が経ち、私の婚約者候補を探すお茶会が開かれるようになった。

 何度目かの『婚約者探しお茶会』のその日、私の渾身の『魔王』ゼリフを一瞬で理解し、通訳してしまう女の子が現れた。

 母上は歓喜し、あろう事かミラベルというふわふわ赤毛の女の子を私の婚約者にしてしまった。

 

 私は拒絶した。

 私の渾身のセリフを理解してしまう者など、側にいられてはたまらない。

 だが母上も頑として譲らなかった。


「何故だ! 我は我のみで孤高の存在である! 我が血潮と栄光を汚す者など不要である!」

「不要…………つまり、ミラベルちゃんは嫌ってことかしら?」

「そう言ったであろう」

「言ってないわよぉ。ミラベルちゃん、セオドリックの言葉、何でも理解してくれるのよ?」


 だから嫌なのだと言っても、絶対に婚約者からは下ろさないと言われてしまった。




 ミラベルは、ふくふくとしたピンク色の頬と、ぷっくらした唇。金色の宝石のように艶々と煌く瞳、ふわふわで日に透けると燃えるような赤色になる髪の毛。

 どこをとっても可愛かった。

 何より、必ず私の目を見て、恐れることなく話す子だった。


「ふん、今日も懲りずにやって来たか。ストゥルトゥ(愚か者)スめ!」

「はいはい、愚かにもまた参りましたよ」


 ミラベルは、いくら私が邪険に扱っても、適当にあしらい、私には一切興味が無い、という風だった。

 いつも人の妙な期待や羨望の眼差しを向けられ、『魔王』を始めてからは、変な者を見る視線や嘲笑にさらされていた私は、ミラベルの私の内部を見るような真っ直ぐとした視線が嫌で嫌で堪らなかった。

 ……それと同時に嬉しくもあった。


「おい、お前と同席すると我は赤き呪いに侵されてしまうのだ! もっと遠くに座れ!」

「殿下、折角のお茶が冷めてしまいますわよ?」


 傷付けようと酷く聞こえる言葉を吐いても、全く意に介さず「恥ずかしがり屋ですねぇ」なんて大人びた言葉を使っていた。


 そして、婚約者になって一年が経つ頃には、私はミラベルに心を開いてしまっていた。

 どんなに後悔しても、綻びた心は元には戻らなかった。

 真っ直ぐな視線が、物言いが、心地よくて、ずっと側にいて欲しいと思うようになっていた。




 ミラベルが思春期を迎えた辺りから、色々と膨らみ出しだ。

 段々と異性に見えるようになってしまった。

 その頃から『我が赤き果実』と呼ぶようになったが、ミラベルはその呼び名が気に入らないらしく、ちょっと不服そうに頬を膨らませていた。

 それも可愛い、と思いはするが伝える事は出来なかった。


 ミラベルが成長するにつれ、色々と指摘される事が多くなった。

 何度も『そうじゃない、これは本当の私じゃないんだ』と言いそうになったが、すんでのところで我慢した。ただ、何度かミラベルの言う『標準語』で話してしまっていた。


 ――――いつか、この気持ちを伝えられる日は来るのだろうか。




 次話も明日21時頃に更新します。

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