31:打ち返して差し上げます。
セオドリック殿下のお膝の上に座らされ、後ろ抱きにされています。
向かい合わせで座らされるの⁉ とか、ドキドキ……いえ、ヒヤヒヤしました。
殿下は私のお腹の前で手を組み、肩に顎を乗せ、何やらふんふんとご機嫌に鼻歌を歌っておいででした。
「セオドリック殿下、鼻息がフンフンフンフン煩いですわ」
「お前は……小さい頃から変わらないな」
「殿下に言われたくありません。そのまま金属バットで打ち返して差し上げます」
「クリケットのバットを金属製にするな」
いえ、野球の……と言おうと思った所で、そういえばこちらには野球は無いのだと気づきました。
「剣並みに重くなるだろうし、完全に凶器だな」
「中を空洞にして軽い素材を詰め込めば、そこまで重くはなりませんわ」
「……ふむ。金属バットにする利点は?」
「さぁ? 子供でも飛距離が出せるから、では?」
「何故、疑問形で話すのだ。発案者が他にいるのか?」
元の世界でクリケットの金属バットなど見た覚えも聞いた覚えもありませんし、そもそも興味もありませんのでルールを知りません。
「知りませんわ。何となく、そういうものがあれば面白いなと思っただけですわ」
「ふむ。我が赤き果実はそういった突飛な思考で数々の料理を思いついているのか」
「……柔軟な、と表現して下さいません?」
というか、何故私が料理を開発していると知っているのでしょうか。
「む? 報告を受けているからな」
どうやらお母様やお兄様から色々と聞き出しているようです。
「手の者に色々と持って帰って来させて食べたぞ。我は唐揚げが一番好ましいな。いや、チーズインウィンナーも捨て難いな。うぅむ……」
「持って帰…………お腹壊しますわよ?」
「大丈夫だ、早馬で持ち帰らせた!」
何という無駄遣いでしょうか。あと、誇らしそうにするところではありませんわよ。
ところで、この体勢はいつまで続けたら良いのでしょうか?
先程からセオドリック殿下がコソコソとお腹や脇腹を擦ったり、首筋の匂いをスンスン嗅いだりと、変態度合いが危険水域にまで達しています。
「赤き果実よ、ティーカップを取ってくれ」
「この体勢で飲むのですか? 背中に溢さないで下さいよ?」
「ならば口移しで飲ませるが良い」
「…………」
「……駄目か」
「当たり前に駄目です! ちょ、いたっ……いたたたっ!」
駄目だと言うと、殿下が妙にいじけて私の肩を噛み出しました。
ちょっと痛かったので、妥協案を出しました。
殿下の膝の上で横向きに座り直し、テーブルの上に置いてあるティーカップを取り、殿下の口元に運びます。
「はい、溢さないで下さいね」
「ん! ……ふぅ。こういうの、いいな。恋人っぽい」
「……良かったですね」
「そうだ、ミラベルにも飲ませてや――――」
「いらないです」
取り敢えず、脳内ピンクの殿下はぶった斬って、自分のカップを取り、自分で飲みました。
ケチだとか、何とか聞こえましたが、意味不明なのですべて無視しました。
次話も明日21時頃に更新します。
 




