喧嘩してわかること・上
闘技場の舞台に上がると、すでに王子様はいた。
「遅かったな孤児野郎。ビビって逃げたかと思った。」
「…遅くなって悪かったな王子。ビビってねぇからさっさと始めるぞ。」
「まぁ待て、その前に格の違いを教えてやるからよーく聞けよ?この剣はな、王家に代々伝わる特別な剣なんだ!銘はレオン・グローリー!まさに俺のための剣だと思わないか?思うだろう!お前の借り物の剣とは違うんだ!こいつでお前をこの学園から追放してやるよ!」
レオン?どこかで…いや、確か王子の名前もそんな感じか。
レオン使いのレオン…よし、覚えた、かも。
「せっかく勝ち取った特別枠を手放すわけない。それに、お前の謝罪をまだ聞いていないからな。」
俺に対する謝罪は別にいらないんだ。俺の尊敬するフォルビア様に謝れ。
尊敬する理由は、尊敬する院長が信仰してるからだけども。
「じゃあ僕が審判をするね!それでは、一年生グレイ・フォールと、同じく一年、レオン・レイフォード殿下の試合を行う!双方構え!」
王子は右手に剣、左手に盾を構える。
確かに剣術に自信があるらしく、構えはしっかりしている。
対して俺は右手に剣を持ち、左手はフリー。
魔術は約束したから使わないが、左手を空ける構えはこれからも取るだろうからそれに合わせてみた。
「…試合…はじめ!」
「はああぁぁぁああ!!!」
開始と同時に王子がこっちに走ってきた。
まあ、型にはハマっているんだろうけどね。
おかげで、剣の軌道は読みやすい。
「ほいっと。」
「なっ!」
剣を弾いて、盾を弾いて、空いた胴体に一発。
これだけで俺が勝つ。依頼通りに完全勝利。
「…まだだ!学園長!身代わり宝石はまだあるんだろ?持ってこいよ!まだ俺は負けてない!」
「…うーん、今のはグレイ君の勝ちだと思うけど、グレイ君は再戦してもいい?」
学園長はしてもいい?とは聞いてくるけどね。
そうやって聞いてくるってことはまだしてほしいってことだろ?
だってレオン王子の態度変わってないもんね。
「いいぞ。何回やっても俺が勝つ。」
実際その次も、その次も俺が勝ったし。
「…ふざけんなよ孤児風情が!俺が、王家が!孤児風情に負けるわけにはいかねぇんだよ!王家に伝わるこの剣にかけてな!」
…いますっごく悪いこと思いついてしまった。
いや、やめとこう。流石にこれは嫌われてしまう。
王子だけならともかく、王家からも嫌われそうだからやめとこ…。
「グレイ君。何か思いついたね?」
「学園長。ダメだ。これはやっちゃダメな奴だ。」
「でもうまくいくかもしれないじゃないか。やってみないと分からないよ?大丈夫。僕が責任取るから。それとも掛け持ちの話は無しにする?」
「…いや。やる。やるけど、どうなっても知らない。」
脅されている…!許してくれ王子!許してくれ王家の方々!みんな学園長ってやつが悪いんだ!
「なんの相談か知らないけどさ!俺から目を離すとはいい度胸だな孤児野郎!」
「おっと。」
今のは危なかった。もう開始の合図とかもいちいちしてないし、目を離すと危険だな。
左拳を握りしめて、集中する。
約束通り魔術は使わないけど、魔力を見ちゃダメとは言われてないからな。
魔術に使う魔力じゃない。剣に宿る魔力を見るんだ。