入学成功?入寮失敗?
結論を言うと、やっぱり戦い方を間違えた。
考えてみれば当たり前のことだけど、試験の結果を決めるのって観客じゃなくて試験官達なんだよね。
観客には魔術を使う印象がついたかもしれないけど、ナントカさんには身のこなしの方が重要に見えたらしい。
失敗したなぁ、なんて考えながら、試験の結果が出る明日までの仮宿を探しに出ようとしたら、受付の兄ちゃんに呼び止められた。
「グレイ!ナイトを倒したらしいじゃないか。お前の言った通り、賭けは勝てそうだぞ。」
「それはよかった。ってことは、俺は入学できそうってことか?」
「もちろんさ。今まで試験官が負ける事なんかなかったからな。あと、学園長からお前を呼び止めるように連絡が入ったんだ。この建物の特等観客席にいるらしいから、学園長のとこに行ってくれるか?そこの転移門から行けるところだ。」
「ありがとう。行ってみるよ。」
学園長から呼び出しらしい。
まぁこのタイミングってことは入学に関係あるだろうな。
えーと、転移門の先…っとぉ!
「やぁ!君がグレイ君だね!呼び止めてごめんねぇ!!いやいや、君みたいな子を待ってたんだよ!凄いじゃないか!!」
い…勢いが凄い…。
「あ、ありがとう。あなたが学園長さんかい?」
「そうだよ。僕が学園長のリード・ジョンソンさ!なんで君が呼ばれたか分かるかい?」
「いや、多分入学に関係あることだとは思うけど。」
「まぁその通り。普通なら結論を出すのは早いんだけど、試験官に勝てる時点で入学は決まったような物だからね。合格通知を出してしまおうかと思って呼んだんだよ。」
「そうだったのか。俺、試験官のナントカさんから剣術科に誘われたんだけど、俺としては魔術科に入りたいんだ。なんとかならないか?」
「僕の目から見ても君は剣術を学ぶべきだと思う。だけど、魔術を学びたいならそれもすればいい。ぶっちゃけると魔術は初級が使えるなら、あとは知識量と魔力量が大事なんだ。そして、特別枠の生徒は平民が入ってもいいように学園内での買い物とか寮の費用とか全部タダにしてある。」
「それは助かるけど、魔術となんの関係が?」
「図書室の使用料もタダってことさ。つまりは魔術書読み放題。だから剣術学んで欲しいなー。剣術科は実技重視だから、体を使いすぎないように午後は休みなんだよねー。なんなら暇な教師捕まえて魔術学べばいいしなー。」
意地でも剣術を学ばせる気だな。
まぁ、全部タダにされてまで張れるような意地はない。
「…わかった。暇な時間に魔術を学べるなら魔術科に拘る必要はない。将来剣も使える魔術師だって売り込めばいいからな。」
「交渉成立だね!じゃあ明日には正式な合格通知を送るから、せっかくだし今日から寮に入っていきなよ!ちゃんと君の分含めて一人一部屋用意してあるんだ!」
「宿を探す手間が省けるな。ありがたく入らせてもらう。」
こうして、俺の学園剣術科への入学、及び男子寮への入寮が決定した。
決定したまではよかったのだが…。
「おいお前!孤児のくせに学園に入ってくるらしいな!そんなの学園長が許しても俺が許さないからな!」
寮まできたら、門の前に生意気な奴がいた。
ただ、貴族はみんなこんな感じって院長から聞いてたから、あんまり不快感はない。
むしろ俺が強さで入学するって知っていながら啖呵を切れるのはいいな、友達になりたい。
悪魔時代に友達なんていなかったけど、いろんな人にモテるために友達作りはいつかやらなきゃいけない。
今こそがチャンスなのでは?
「学園長が許したら学園には入れるだろう。それよりあんたの名前は?俺はグレイって言うんだ。よろしく。」
最初の印象は大事だって『友達を作るために』って本にも書いてあった。
今の返答はそんなに悪い印象じゃない…はずだ。
「そうか、グレイ。俺のことはレイフォードと呼べ。誇り高き王家の家名だぞ。孤児に家名を呼ばせるだけありがたく思えよ。ま、お前には名乗れる家名なんてないだろうけどな!」
あぁこいつ王族なのか。そりゃ凄い。
だけど、俺にだってついさっき付けた姓があるんだ。
それを名乗れないなんてことはないぞ。
「俺はグレイ・フォールだ。女神フォルビア様からとったいい家名だろ?」
「は?孤児が貴族様の真似事してんじゃねーぞ!お前みたいな孤児に信仰される神様なんてどうせ大したことないな。俺はフォルビアなんて聞いたことないぞ。」
…へぇ。まぁフォルビア様の名前を知らないのはいい。
貴族様の真似事だと言われるのも別にいい。
生意気なのも貴族様だと思えば軽く流せたけどよ。
だけどなぁ…人様の信仰を貶したらよ…!
「…あぁ!?喧嘩だぞお前!!」