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96.一角獣作り

 わたしに客人がやってきたのは、新しい年を迎えて数日経ったある日のこと。毎日着けるようになったリボンカチューシャが自分でも馴染んだと思うし、レオナさん達にも揶揄われる事がなくなった頃だった。



「こんにちは、イーヴォ君」

「……よぉ」


 応接室で待っていたのは、相変わらず垂れ目の癖に目付きの悪いイーヴォ君。今日は前髪を全てオールバックにしているから、余計に眼光が鋭い気がするし、魔族特有の額にある角が目立っている。彼はひとりだけで、ヒルダの姿は無い。

 わたしとアルトさんは、イーヴォくんと向かい合ってソファーに座る。神官見習いの女の子が紅茶を用意して、部屋から下がっていった。


「ひとりなんですね。ヒルダは?」

「ヒルデガルド様はお忙しい方だからな、抜け出しては来られなかった。……残念に思っていると言伝を預かってる」

「そうなんですねぇ、やっぱりわたしが遊びに行った方がいいでしょうか。でも忙しいのに邪魔になっちゃうかな」

「お前なら歓迎するだろう」

「ふふ、それなら嬉しいです。それで……今日はもしかして、月華石が手に入ったんですか?」


 呪われてしまった、魔王領のオアシス。それを浄化する魔導具作りをヒルダに頼まれていたのだけれど、月華石は中々出回らない。それでもさすがは魔王様といったところか。こんなにも早く手に入れてくるとは思わなかった。


 イーヴォくんは頷くと、テーブルの上に白く輝く鉱石を置く。細長くごつごつとしている鉱石は、まだ加工をしていないのに不思議な光を帯びている。

 その隣に置いたのは、美しい銀塊。これは最高級の銀なんじゃないか……なんて思ってアルトさんを窺うと、その口端が上がっている。


「作ってもらえるか」

「もちろん。アルトさんは今からでもいいですか?」

「ああ、構わない」


 わたしはカップを手にし、紅茶を一口飲むと気合を入れた。

 ヒルダはわたしのお友達ですからね、手助けできるなら早く作ってあげたいのだ。


 わたしはテーブル横の少し開けたスペースに、空間収納から取り出した敷布を広げる。靴を脱いでそこに上がると、慣れた様子でアルトさんもそれに続いた。イーヴォ君は珍しそうにわたし達を見ている。……魔導具作りを見るのは珍しいかな?


「イーヴォ君、気になるなら近くで見ていてもいいですよ」

「……おう」


 相変わらずぶっきらぼうだけど、どこか嬉しそうにしているのは伝わってくる。アルトさんも同じように感じているのか、わたし達は目を合わせてこっそり笑った。

 イーヴォくんも同じように敷布に上がるけれど、広いものだから場所的にも問題ない。


 わたしは収納から羊皮紙を取り出すと、わたしとアルトさんの間に広げる。


「さて、やりますか。今回のはアルトさんが大変そうですねぇ……装飾が細かいです」

「問題ない。細かい作業は嫌いじゃないんだ」

「確かにアルトさんの作る銀細工って、いつも細かいところまで作られてますもんねぇ」


 わたしの胸を飾る薔薇といい、髪飾りのリナリアとキキョウといい、本当に細工が細かいのだ。そんなアルトさんだから、一角獣も見事なものを作ってくれるでしょう。

 となると、心配なのはわたしだけれど……わたしだっていくつも魔導具を作ってきて、多少なりとも腕が上がったと自負している。


 アルトさんが手を伸ばして、銀塊と月華石をテーブルから取ってくれる。わたしは月華石を受け取ると、深呼吸を繰り返した。さて、やりますか。


 月華石はそれ自体が魔力を帯びている。反発されないように、少しずつ加工していった方がいいかもしれない。

 わたしはいつものように、水を纏わせた風刃で、羊皮紙に書いてある通りの大きさに月華石を削っていく。大体、わたしの手と同じくらいだろうか。結構大きなものになりそうだ。

 先が細るよう尖らせて……よしよし。


「……すげぇな」


 イーヴォ君は興味津々といった様子。称賛の声に得意げに胸を張るけれど、イーヴォ君が見ていたのは、アルトさんの手元で自在に姿を変える銀だった。

 そっちかい。いや、わかるけれど。……アルトさんの魔力を帯びて、薄く青に光る銀はとても綺麗なのだ。


「興味があるなら教えてやるぞ」

「……ないわけじゃねぇけど、俺はそこまで細かい魔力操作ができねぇからな」


 二人のやりとりを聞いていると、その穏やかな雰囲気に口元が綻んでしまう。

 さて、わたしも負けないように頑張ろうか。


 わたしは指先に魔力を篭めると、羊皮紙にある設計図の通りに魔式を刻んでいく。神の力を借りるだけあって複雑だし、その大半は神への賛辞だ。

 あの絶不調の時にアラネア(蜘蛛)を作った時の事を思えば、これくらい何とも無い。心は落ち着いているし、何だか満たされていると思う。魔力だってたっぷりあるし問題ない。

 ……それでも難しい式なのは変わらないので、わたしは集中して月華石と向かい合ったのだった。


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