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94.酔っ払い

 食事を終えたわたし達は、談話室にいた。

 わたし、レオナさん、アルトさん、ライナーさん、ヴェンデルさんの五人は、テーブルを囲んでお酒を楽しんでいる。


 テーブルの上にはワインをはじめとして、エール、ウィスキーやブランデー、東国から取り寄せたらしい濁り酒なんかも用意されている。おつまみもあるんだけれど、これはおつまみというか食事に近いと思うくらいのボリュームだった。



「クレアちゃんの飾り付け、凄く評判がいいよ」

「ありがとうございます。アルトさんが色々アドバイスをくれたお陰ですよ」


 機嫌よさげにヴェンデルさんが笑うけれど、あの飾りつけはアルトさんのセンスの賜物だ。それでも褒めてもらえるのは気分が良くて、わたしもつられるように笑った。


「せっかくのデートだったのに、残念ですね。最後に変な人に絡まれたんでしょう?」

「デートじゃないんですけど、町がすっかり年越し仕様になっていて綺麗でした! ショーウィンドウも綺麗に飾られていて、あれは歩くだけでも楽しいですねぇ」


 レオナさんが頬を朱に染めながら話しかけてくる。その手にはワイングラスが握られていて、少し酔っているようだ。とろんとした眼差しが非常にけしからん。


「それに、絡まれたっていっても、向こうはわたしに気付いていないですしねぇ。アルトさんには嫌な思いをさせちゃいましたけど」

「別に俺も平気だが」

「舌打ちしてたの知ってますよ」


 指摘すると肩を揺らすばかり。アルトさんがグラスを回すと、大きな氷がカランと澄んだ音を立てた。今はウィスキーを楽しんでいるらしい。

 わたしは濁り酒を頂いている。口の広い手の平サイズの陶器の酒器で飲んでいるのだが、これも東国からのお取り寄せだそうだ。


「うちの王様にも困ったものですね。勇者の言いなりですか」

「勇者のっていうか、シュトゥルムの言いなりだね。日和見主義も程々にしないと危ういな」


 ライナーさんが溜息をつくけれど、応えるヴェンデルさんはどこか楽しげだ。

 わたしとしては、早く戦争が終わればいいと思うんだけど……シュトゥルムがこの世界全てを手に入れようとしているならば、簡単に終わることはないだろう。


「やめやめ。せっかくの年越しの夜だ。暗い話をするものじゃないね」


 ヴェンデルさんの言葉にみんな笑うと、手にしていた酒器を掲げる。それを合図にくいっとお酒を飲み干すと……うん、濁り酒は美味しいけれど、東国のお酒は結構きついな。次は違うものにしようか、それとも少しずつ飲んでいこうか……。


「大丈夫か?」

「ええ、美味しく頂いていますよ」


 ふぅと酒精混じりの吐息を漏らすと、隣に座るアルトさんが声をかけてくる。みんなそれなりに顔を赤くしたりしているけれど、この超人は酔っ払う事を知らないらしい。平然としている。


「美味しいんですが、少しきつめですね。これを沢山飲んだら、明日は治癒魔法のお世話になってしまいそうです」

「今日はみんな飲んでいますからね、治癒魔法を掛けられるだけ元気なのが何人残るか……」

「え、こわい」


 ライナーさんが真面目な顔で言うものだから、思わず本音が出る。わたし達以外の皆さんもお酒を楽しんでいるようだけれど、飲み過ぎる事が前提なのか。

 アルトさんは苦笑いをしながら、わたしの酒器にまた濁り酒を注いでくれる。それをわたしが手にするよりも早く、アルトさんが軽く飲み干してしまった。


「確かに少しきついかもな。辛かったら違うものを飲むか、お茶にしておけ」

「ゆっくり飲むから大丈夫ですよ。美味しいですし」

「そうか」


 視線を感じてそちらを見ると、レオナさんとヴェンデルさんがニヤニヤしている。これはまた恋愛脳が発動したな。


「うふふ、いいですねぇ」

「いいねぇ、なんか初々しくて」


 放っておくのが一番だ。そう判断したわたしは、おつまみに用意されたチーズを口に放り込んだ。




 最初はレオナさんがニコニコと幸せそうに。その次にはフォークを握り締めたままのライナーさんが眠ってしまった。二人とも床に転がって。

 ふかふかの絨毯が敷いてあるとはいえ、体が痛くならないだろうか。そんな事を考えながら、とりあえず二人に毛布をかける。


「ふたりとも……なさけないよねぇ……、これっぽっちで、ねちゃうなんてさぁ……」


 ひっくとしゃくりあげながら言葉を紡ぐのはヴェンデルさん。その言葉はだいぶ覚束ないけれど……大丈夫かな?


「ヴェンデル、お前も横になった方がいい」

「ぼくはまだ、ぜんぜん……よってない……」

「はいはい」


 完全に酔っ払いのヴェンデルさんを軽くあしらって、アルトさんはソファーに寝転がす。わたしが肩まで毛布を掛けると、一瞬で眠りに落ちたようだ。規則正しい寝息が聞こえてくる。


「みなさん寝ちゃいましたねぇ」

「初日の出を見るって騒いでいたのにな」


 そういうわたしも少し眠いし、酔っているようでふわふわする感覚はある。それでも気持ち悪くなる程ではないし、三人の酔っ払いっぷりを見たあとでは、酔っているともいえないかもしれない。

 アルトさんは結構な量のお酒を飲んだのに平然としている。この人のペースで飲んだら、間違いなくわたしも潰れるだろう。


「アルトさんは眠くないんですか?」

「ああ。お前は?」

「眠くないわけじゃないんですけど、せっかくなんで初日の出までは起きていたいですねぇ」

「もう少しで日も昇る。日の出を見てから休むか」


 アルトさんの言葉に、窓から空を見る。遠くの稜線がうっすらと染まってきているようだ。晴れてよかった。

 不意に頭に何かがかかる。不思議そうにそれを取ってみると、アルトさんのコートだった。どうかしたかと首を傾げると、毛布を片手にアルトさんが手招きをする。それに従うと、どうやら部屋を出るようだ。


「よく見える場所に行こう。寒いからそれを着ていろ」

「いやいや、アルトさんも寒いですよね」


 わたしの言葉は聞こえない振りをされてしまった。それ以上問答をしていると、寝ている三人を起こしてしまうかもしれない。わたしは大人しくそれを着たのだけど、全体的に大きい。わたしは手を引かれるままにアルトさんと一緒に外に出たのだった。


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