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8.押しの強い人達

本日2話目です。

7時にも更新しています。

 聖堂から出た後、廊下でレオナさんに話を聞けば、母神エールデはちょくちょくこまめに具現化してくるらしい。

 道理で四人から敬意は感じても、驚いた様子が無かったわけだ。いつもの事ってわけね。



 そんな話をしながら案内されたのは、神官長の執務室だった。

 中にいるのは五人。聖堂に居た人達だけで、他に誰もいない。お茶の準備をした神官見習いの少年は立ち去ってしまった。


 神官長の執務室の上には書類が散乱していて、仕事中だったというのが分かる。というか散らかりすぎである。効率が下がると思うんだけど、世の中には散らかっているほうがよいという人も居る。わたしの母がそうだったのだが、そういった人は散らかった中でも、どこに何があるかはちゃんと把握しているのだから不思議なものだ。



「エールデ様はわたしの母の知り合いです」

「母神と知り合いだなんて、君の母上は何者なんだ」


 長テーブルを四人で囲む。

 ソファーにわたしとレオナさん、もうひとつのソファーに神官長。ライナーさんは一人がけのソファーに身を預け、従者は少し離れた執務机に腰を預けるようにして立っていた。


 母が何者かと問われても。

 ううん、これはわたしの身の上を少しばかり話すべきだろう。恐らくエールデ様もそのつもりで、わたしとの仲を仄めかしている。


「母は天使でした。悪魔だった父と恋に落ちた事で、女神の怒りを買って堕天しましたが」


 わたしの言葉に部屋の空気が固まる。

 神官長は唖然とばかりに口を開いているし、双子神官は無表情で固まっている。こんな時でも反応が一緒なんだ。従者も目を瞠っているのが分かる。

 まぁそれもそうだと思う。でも空間系能力に特化しすぎているんだから、普通の人間ではない事くらい分かっていたろうに。

 沈黙を誤魔化すように、入れてもらった紅茶のカップを両手に包む。ほんのりと温かさが伝わってきて心地いい。


「わたしはある理由から、命を救うことを使命としています。生きたいと願う人の場所に赴いて、時に傷を癒したり、時に食事や水を渡すことで命を繋いだり。いくらこの身が危険に晒されようと、これをやめるわけにはいかないのです」


 保護下におかれても軟禁状態になるのは困る。転移して出て行くのは簡単だけど、厚意を無碍にするのも憚られる。出来ればお互いの妥協点を見つけたいところ。

 程好く冷めたカップを口元に寄せる。立ち上る香りを楽しんでから、紅茶を飲んだ。うん、なかなかの腕前。美味しい。


「君が『大人しくしていない』のはエールデ様より聞いているからね、それは分かっている。だからこそ我らが母神も、アルトに護衛を命じたんだろう」


 やっぱりあれってそういう事?

 ていうか神官長、すっかり言葉が崩れきっている。これが素なら、気のいいお兄さんみたいに見えてきますが。


「君が外出する時は、俺が同行しよう」

「いやいやいや! そこまでして頂くわけにはいきません!」


 改めて聞いた従者の声は低く落ち着いている。しかし簡単に頷くものだから、わたしばかりが慌ててしまう。双子神官はいまだに衝撃から戻ってきていない。わたしの味方は皆無なのか。


「大丈夫だから守られなさい。アルトは優秀だよ、勇者(クズ)なんかよりずっと強い」


 とうとう神官長までクズ呼ばわりー!

 この神殿の人達って、どうしてこんなにも押しが強いのか……。決定事項を話されているだけで、わたしの意見は全く反映されないようだ。


「はっ、なんだか凄い衝撃が……。クレアさんのお母上が天使様で、お父上が悪魔様……」


 悪魔に様をつけるのは、レオナさんくらいだと思う。瞬きを何度も繰り返して、意識をはっきりさせているのだろうか。すると見る間にその頬が上気していく。


「異種間での愛の結晶なんですね、クレアさんは……!」

「すまない、レオナは恋愛小説が大好きでな。恋愛至上主義だから気をつけてくれ」


 こちらも動揺の淵から戻ってきたライナーさんが真面目な顔で説明してくれる。

 だから勇者のハーレムは、余計に受け入れられなかったのねぇ。


「まぁとにかく、外出する時はアルトに声をかけるように。レオナ、クレア嬢の部屋を用意してくれ」

「かしこまりました!」

「神官長様、そのクレア嬢っていうのはやめて頂きたいのですが…」

「じゃあクレアちゃん、僕も神官長様っていうのはやめて欲しいな。ヴェンデルというんだ」

「……ヴェンデルさんとお呼びしますね」


 神官長(ヴェンデルさん)は従者を手招きでテーブル側に呼んだ。襟元を下げて紅茶を楽しんでいた従者は、カップを置いて歩み寄ってくる。


「アルトだ」

「……アルトさん、よろしくお願いします」


 この押しの強さに慣れる時は来るんだろうか。

 それでもずっとひとりだったし、仕事以外では誰かと会話をする事もなかったから、こんな賑やかな雰囲気がどこか嬉しい。


 そういえば仮面をつけたままだった。目元を隠す仮面を外して改めて礼をする。

 部屋の空気がまた固まった。解せない。


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