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68.戦闘②-護衛と守神-

 最初に動いたのはアルトさんだった。

 剣を下段に構えて一気に距離を詰める。走ると言うより跳んでいるように見える程、一瞬の間で勇者の間合いに入ってしまう。切り上げるような一撃は勇者の持つ剣に阻まれた。

 金の柄が美しい、長剣。あれが恐らく聖剣なのだろうが……なんだか不思議な気配がする。


「相変わらず早いね」

「今日は影じゃないからな、逃げ場はやらん」

「誰が逃げるか。……彼女を僕のものにするには、君が邪魔なんだよ」

「そんな邪魔なら喜んでしてやるさ」


 何か言葉を交わしているけれど、その間も高い剣戟の音が響く。段々とそれが早くなっていって、目で追いかけるのもやっとな程。

 しかし戦いを眺めているわけにもいかない。わたしにもやる事があるのだ。結界を張ったまま魔方陣へ近付こうとしても、露出の高い三人が立ち塞がっている。


(あるじ)よ、任せろ」


 グロムが口端に笑みを乗せ、槍の柄で床を叩く。その床から放たれるのは雷撃で、地を這うその雷を彼女達は避ける暇もなかった。低く呻いているけれど、大したダメージではないと思う。しかし足止めには充分。

 わたしは一気に駆け出すと、動けないでいる彼女達の横を通り過ぎて魔方陣と対峙した。邪魔をされるわけにいかないので、魔方陣とわたしをドーム状の結界で包み込む。そしてその結界に魔力を込めて堅固なものにした時、火炎球がぶつけられた。勿論結界に損傷は無く、火炎が霧散するばかり。


「な、っ……!」


 火炎球を放ったリムル(魔法使い)が驚愕に目を見開いている。まぁ結界にも自信があるんでね、そう易々と破られたりはしないよ!


「貴様の相手は我だが」

「ぐぅっ!」


 眉間に皺を寄せたグロムがいつの間にか、三人の間に立っていた。その槍を大きく横振るとリムルは吹き飛ばされてしまう。

 防御魔法を展開していたようで、槍の刃で切り裂かれはしていないものの、打撃のダメージは打ち消せないようだ。腹部を抑えて苦悶に表情を歪めている。


「貴様ァ!」


 激昂して長剣を振りかぶったのはイディア(女戦士)だった。その体も剣も薄く光り輝いている。見ればサーラ(白魔道師)の杖から光が放たれていた。防御魔法と身体強化だろう。

 強化のお陰か繰り出される剣閃は速いし、重いようだ。しかしそれを受け止めるグロムは余裕の表情を崩さない。


光雷撃(ライトニング)!」


 イディアが飛び退いた瞬間、サーラの放った上級雷魔法が放たれる。広範囲に広がるその雷撃は並みの魔物なら一掃出来る程だろう。

 だけれどグロムがしたのは、空いた左手を翳す事だけ。雷撃はグロムに衝突する間際、その掌に吸い込まれていった。


「貴様は阿呆か。我が雷撃を放ったのをもう忘れたようだな。我に雷は効かぬ、が……なかなか良い雷だったぞ」


 吸収した雷撃を味わうように、口端を舌でなぞるグロムは狼だと分かっているのに、色気が凄い。……それはともかく、グロムは三人相手でも問題ないようだ。

 

それならわたしは自分のやる事に集中するだけ。

改めて魔方陣を確認すると結構複雑に組み込まれたものだった。それもそうだと思う。この大地に出口を無理矢理に作り出して、そこから穢れを解き放つ。その穢れで魔物を創造するだなんて、三人がかりになるのも頷ける程の魔方陣だった。

 この魔方陣を使って、封印の魔方陣に転化させよう。新しく魔方陣を描くよりも、これを使った方が手っ取り早い。封印を崩されないよう、何層にも重ねていけば問題ないだろう。


 わたしは空間を小さく開き、中から聖墨を取り出す。変哲もない白いチョークなんだけど、聖水と聖灰から作られているうえに、エールデ様の加護も受けている。

 ここは元々エールデ様を祀る祭壇でもあるのだから、この聖墨は相性がいいだろう。


 わたしは聖墨に魔力を流しつつ、魔方陣を書き換えていった。



 爆発音。

 大地が震える程の衝撃。


 魔方陣に手を加えつつそちらを見ると、アルトさんと勇者がやりあっているところだった。


 勇者はその体よりも大きな氷の塊を生み出すと、それをアルトさんへと向ける。途中で無数の氷柱に姿を変えた氷欠は、切っ先も鋭くアルトさんを狙っていた。

 対するアルトさんは大きな炎の(ドラゴン)を生み出す。氷柱をブレスで焼き払った竜はその巨体で残った氷塊に体当たりをした。刹那生まれる蒸気の爆風をアルトさんは剣で薙ぎ払うと、勢いそのままに勇者へと切り掛かっていた。


 ……剣だけでなく魔法でも戦い始めている。というか、二人の扱う魔法がとんでもなさすぎて、わたしの理解を超えている。アルトさんもまだ余裕の表情をしているから、そちらから魔方陣へ意識を戻す。



 ギギギギギ!


 戻したいのに聞こえてくるのは、耳障りの悪い軋んだ音。今度は何だとそちらを見ると、リムルが沢山の風刃をその周辺に生み出していたからだった。風刃同士がぶつかり合う音が、先程の奇妙な音の正体だった。


「死ねぇぇぇぇぇ!」


 可愛らしい容貌に不釣合いの甲高い声を合図に、風刃は一直線にグロムへと向かっていく。四方八方から襲い掛かる真空の刃に、その向こうの光景が歪むほど。

 グロムは慌てる事なく、その場でくるりと一回転をする。舞っているかのように、優美に。槍の刃先を高く掲げると、風刃はグロムではなくその槍に収束していった。


「は? なに、それ……」


 唖然としたようにリムルが呟く。


「雷で道を作ってやっただけだ」


 何でもないようにグロムが答える。細かな雷で風の道筋を作って、槍の先で一つにまとめたっていうこと? ……いやいやいや、とんでもないな。


 グロムが槍を両手で振りかぶると、大きな一陣の風刃はリムルへと向かっていった。


「くぅっ!」


 その向こうで膝をついていたサーラが結界を展開するけれど、その威力を全て殺しきることは出来なかったようで、結界が割れた瞬間の爆風でリムルの体は人形のように宙を舞っていた。


 ……わたしはとんでもない狼と、召喚契約を結んでしまったようだ。

 現実逃避に魔方陣へと意識を戻した。もうあのとんでもない人達を心配する方が無駄だった。わたしはこっちに集中しよう、そうしよう……。


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