64.友人とのお出かけはとっても楽しい②
7時にも更新しています。
洋服店を二軒、本屋も巡ったわたし達はたっぷりの荷物を抱えて、ちょっと遅めの昼食を取りに町の食堂へ向かった。
収納にぽいぽい入れてしまってもいいんだけれど、人目が気になるのと、やっぱり戦利品を抱えて歩くのが楽しいというか。まぁ抱えているのはわたしではなくて、アルトさんとライナーさんなんだけど。
五人掛けの丸テーブルに案内されたわたし達は席に着く。空席になるはずだった一つの椅子には、もちろん大きなくまのぬいぐるみが座っている。レオナさんはそのくまにリューシュと名前をつけたらしい。名前をもらったくまは、どこか誇らしげにも見える。
ランチメニューは一種類だけだった。わたしとレオナさんはグラタンランチにハーブティー、アルトさんとライナーさんも同じグラタンランチだけれど飲み物はグリューワインを選んでいた。まだ飲むのか。いや、顔色が変わっているわけでもないし、いいんだけど。
向かいのレオナさんがちょっと眉を寄せているから、ライナーさんは気をつけたほうがいいんじゃないかな。
とっても美味しいランチを堪能して、食後のお茶を楽しんでいるとレオナさんがわたしの顔をじっと見つめていることに気付いた。
「……わたしの顔に何かついていますか?」
食べたばかりだから、ついていたら恥ずかしいんだけど。紙ナプキンで口元を拭うも、レオナさんは首を横に振った。まだついてる?
「最近ずっと何かを考えているようだったから心配していたんですけど、今日は大丈夫そうですね」
……ついていたわけではないようだ。
いや、そんな事よりも。確かにわたしは最近、神殿を離れる事だとか、兄天使や勇者の事を考えている時間が多かったと思う。でもまさか、それに気付かれていたとは思わなかった。
更に視線を感じてアルトさんとライナーさんに目を向けると、彼らも同意するように頷いている。
「うぅん……まぁ何も考えていなかったわけではないんですけれど、そんなに分かりやすかったです?」
「心ここに在らずって感じだったな」
「笑っていても、なんだか物憂げというかね」
アルトさんとライナーさんの言葉に、レオナさんも大きく頷くばかり。
優しい彼らは、また心配してくれている。……それが嬉しくて、少し苦しい。
「ふふー、ちょっと勇者の事とか考えちゃってたんですけど、大した事じゃないですよ」
カモミールの香りがふわりと立ち上る。カップを口元に寄せながら、わたしは何でもないと笑って見せた。
「勇者の事……?」
「あんな勇者の事なんて、考えるだけ時間の無駄ですよ」
眉を寄せるアルトさんと、相変わらず辛辣なレオナさん。それが何だか可笑しくて、わたしはくすくすと笑みを零してしまう。
手にしていたカップの中に波が立った。
「難しい事は考えていないんですよ。何が目的なのかなぁとかぼんやり考えていたら、どうにも眠くなっちゃうんですよねぇ」
「……本当にそれだけか?」
湯気の立つカップを傾けながら、こちらを見るアルトさんの眼差しはいつもより鋭い。わたしのすべてを見透かすようなその視線から逃れたいけれど、そうしたらきっと疑われてしまう。
へにゃりと笑って見せるけれど、きっと誤魔化されてはくれないんだろうな。
店員に声を掛けて、デザートを追加していたレオナさんも心配そうにわたしを見つめてくる。待って、レオナさんは何枚目のデザートプレートかな? そこで黙々とデザートを食べ進めているライナーさんといい、この双子の食欲はとんでもないな。
「クレアさんはもっと私達に頼っていいんですよ」
「ええ、貴方は何でも一人で抱え込むタイプのようですからね」
ああ、優しい。流されそうになる自分を抑えて、わたしは首を傾げて見せた。
「頼ってますけどねぇ」
「頼られてないと思うから、そう言っているんだ。遠慮なんてするなよ。不安に思う事があれば何でも零せばいいんだ」
「……ありがとうございます」
どうしてこの人達は、こんなにも良くしてくれるのか。胸の奥が苦しい。
「お友達だからですよ」
わたしの心を読んだかのように、レオナさんが笑う。アルトさんも、ライナーさんも。
それが嬉しくてにっこり笑えた。
「わたしもそう思っていますよ」
それは紛れもないわたしの本心だ。大切なお友達。
柔らかな雰囲気の中に、店員がデザートプレートをワゴンで持ってくる。……ワゴン?
どうやらわたしとアルトさんの分まで注文されていたらしく、私は二枚目となるプレートに挑むことになった。アルトさんは端から戦線放棄で食べるつもりはないらしく、ライナーさんの側にそれを寄せている。
みんなで食べるチョコレートケーキはちょっと苦くて、美味しかった。
本当に優しい人達。
でもわたしのせいで傷付いたら、わたしの事がきっと嫌いになるでしょう?
わたしはそれが恐ろしい。この居心地のいい場所から、追い出されることが怖い。嫌悪されて憎まれて、呪詛の言葉を口に出されるのが怖い。
わたしは忌み子だから。
きっとあなた達を傷つける。