63.友人とのお出かけはとっても楽しい①
わたしとレオナさんは、大神殿からすぐ側の町に遊びに来ていた。
大神殿より真直ぐの一本道を降りた、丘の麓。以前勇者の斬撃で傷がつけられた外壁も綺麗に修復されている。
わたしとレオナさんだけではない。もちろん護衛のアルトさんと、今日はライナーさんも一緒だ。
「さて、まずお茶にします? それともお買い物?」
「お買い物がしたいですねぇ。欲しいものは特に無いんですけれど」
欲しいものが無くても見るだけで楽しいのだ。盛り上がる女子とは正反対に、アルトさんとライナーさんは不可思議そうにこちらを見ている。
欲しいものがないのに買い物?
そんな感情が顔にばっちり出ているぞ。
「いいですね! 私は髪用の香油が欲しいです」
「香油もいいですねぇ。わたしも別の香りを買っちゃおうかな」
「……ライナー、見たいものがあるなら見てきていいぞ。恐らく時間がかかる」
「いえ、アルト様を一人でここに置いていくわけには……」
きゃっきゃとはしゃぐ、わたしとレオナさん。
アルトさんとライナーさんは少し顔色が悪いけれど、急かしたりしないのが優しいと思う。レオナさんもいるし、大神殿にも近いから護衛はいらないと言ったんだけれど、それでもついてきてくれるアルトさんは本当に律儀だ。
いつも荷物持ちになって帰ってくるアルトさんに何か思うところがあったのか、今日はライナーさんも一緒だ。兄がついてくる事に対してレオナさんは「荷物持ちがいるって事は、いっぱい買っていいのね」なんて呟いていたけれど。
流行りの雑貨屋さんには、女の子がいっぱいいる。わたしも可愛いものは大好きだし、雑貨屋さんを見るのは大好きです!
男衆二人は流石に可愛らしい装飾がたっぷりのこの店には入れないようで、外で待ってくれている。ちらほらとだけど、女の子と一緒に来ている男性も居るからそんなに気にしなくてもよさそうだけど。
「クレアさん、どっちの匂いがいいと思います?」
可愛らしい香水瓶を見ているわたしの元に、レオナさんが二つの小瓶を持ってくる。蓋を開けて貰って匂いを確かめると、片方は薔薇、片方はジャスミンの髪油だった。二つともいい匂いで迷うのも頷ける。
「うぅん、わたしならジャスミンを選びますねぇ。薔薇もいいんですけど、ジャスミンも新鮮かなって」
「じゃあジャスミンにしようっと。クレアさんもお揃いなんてどうですか?」
「ふふ、お揃いにしちゃいましょうか」
わたしが頷くと、レオナさんは上機嫌で小瓶を取りに行ってくれる。まだやんわりと甘いジャスミンの香りが残っていて、自然とわたしの表情も綻ぶばかり。
髪油を持ってふらふらと店内を見て歩くと、色硝子で出来たキャンドルホルダーが目に入る。こっくりと深い青。青の他にも黄色、緑、紫、赤、ピンク、グレー……様々な色が並んでいるのはとても綺麗だった。
自分用にも欲しいけれど、皆にもいいんじゃないかな。今日は来れなかったヴェンデルさんにもお土産にして。
何色がいいか迷ったけれど、青、黄色、緑、ピンク、グレーを選ぶとわたしはそのまま会計へ。一つずつ個包装して貰って、色は分からないようにした。何色が手元に来ても綺麗だし、楽しみになるんじゃないかと思ってのことだ。
さて、レオナさんは……と思うと、彼女は大きなくまのぬいぐるみも購入していた。それを担いで歩くのはきっと兄神官なんだろうなと思うと、思わず笑みが零れた。
思ったよりも雑貨屋に長居をしていたらしい。
外で待ってくれていたアルトさんとライナーさんの頬が赤くなっている。露天で売っている温かな飲み物を飲んでいるようだけど、それでも申し訳なく……んん? お酒の匂い?
不思議そうにそのカップを見ていたのが分かったのか、アルトさんが中を見せてくれた。
「グリューワインだ」
「温まりますよ。クレアさんも飲みますか?」
にこにこと笑うライナーさんは、やっぱりくまを担いでいる。首に花柄のリボンを結んだぬいぐるみは非常に可愛らしく、とても注目を集めている。
「いえ、わたしは遠慮しておきますー。……お二人の顔が赤いのは、寒さじゃなくて酔ってるからじゃないですよね?」
じとりとわざとらしく睨んでやると、二人は笑うばかり。まぁわたしだって、こんな赤ワイン一杯でこの人達が酔っ払うとは思えないけれど。いや、ご相伴したことはないのだが……なんだか強そうだとは思う。そしてライナーさんは泣き上戸になると思う。
「これくらいじゃ酔わない。もういいのか?」
「はい、次のお店に行きましょう」
「……あ、まだ回るんですね」
力強く次のお店である洋服店を指差すと、ライナーさんががくりと項垂れた。アルトさんはそんな素振りを見せないけれど、彼は単に慣れただけなのだ。わたしや、わたしとレオナさんのお買い物の度にはいつも護衛でついてきてくれているから。
「ほらほら、兄ぃはワイン飲んでていいからさっ」
そう明るく笑うレオナさんが眩い。彼女はわたしの手を取ったので、二人で洋服店まで駆け出していく。その少し後をアルトさんがついてきていて、ライナーさんはもうグリューワインのお代わりを買い露店へと向かっていた。
ああ、楽しい。わたしはきっと、今日の事を忘れない。
19時にも更新しますので、宜しくお願いします。