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56.友人の部屋に遊びに行く

『我を狙ったあの猟師だが、金を積まれて我を撃ったようだな』

「お金目的ですか。依頼した人は、分かりますか?」

『ローブを深く被っていて顔は見えん。銀の弾丸にも特徴は無い。ああ、亡骸は次の日に村の者達が回収していったから安心するが良い』

「そうですか……。グロム、気をつけてくださいね。また狙われてしまうかもしれないから」

『うむ、承知しておる。してクレアよ、我の番と……』

「クレアは嫁にならない」

『小僧には話しておらん。父親気取りか』

「そこはせめてお兄さんじゃないですかねぇ」


 窓の向こうに目をやれば、ちらほらと玉雪が降ってきている。昨日は暖かかったけれど、今日は一転して厳しい寒さ。わたしは火鉢に手を翳した。


「クレア、用は済んだな。切ってしまえ」

「アルトさんはグロムに対しては辛辣ですねぇ。またね、グロム」

『我はその小僧よりも大人な故、その失礼な振る舞いも許してやろう』


 グロムが笑うと、その声が消える。繋がっていた感覚も無くなって、静寂が戻った。

 いま、グロムと話していたのは念話になる。契約を結んだからか、あの山まで行かなくてもグロムの事を感じるし、話が出来るようになっていた。

 正直これはとても便利だから、魔導具に転化出来ないか考えている。父さんならうまくやってくれたんだろうけど。



「お前もはっきり断れ」

「わたしが断る前に、アルトさんが断っちゃうじゃないですか。本当に合わないんですねぇ」


 指摘してやると気まずそうに目を逸らしてしまう。珍しくてもっと追及したかったけれど、彼の手元を狂わせるのも悪いのでやめておいた。



 ここはアルトさんの部屋である。

 暇を持て余して神殿内をふらふらしていたら、アルトさんが部屋に招いてくれたのだ。以前『友人の部屋を訪ねた事もなかった』と零したのを気にしているのかもしれない。部屋に遊びに行くのは、友人っぽくて何だか楽しい。


 わたしはソファーの隣に置いて貰った火鉢で暖を取りつつ、作業机で銀細工をするアルトさんを眺めていた。

 今回はわたしが頼んだものではない。彼の趣味として作っているのだという。

 アルトさんの魔力が込められた銀は、淡く青に光っている。彼の手の中で形を自在に変えていて、そんな時の彼はいつも楽しそうだ。


「それにしても守神を狙うなんて、とんだ不届き者ですねぇ」

「自然が荒れれば国も荒れる。……ただでさえ戦時下で国も乱れているというのにな」

「その戦争に絡んでるのかもしれないですよねぇ。……守神の加護を失わせて、人や神々の力を失わせる……なぁんて」

「笑えないな。実際、守神が消えて荒れている場所がある」

「依頼したローブの人物からも探れなさそうですし」


 この戦争が終われば、こんな不安もなくなるのだろうか。でもいつになったら、何をもってして、終わりとなるのだろう。

 わたしと勇者の関係もそうだ。勇者を討てばもうわたしは追いかけられない? 人間の英雄となっている勇者を、果たして討てるのか。それまでいつ関わるか分からない、この不安を感じ続けなければならないのか。

 堂々巡りする思考にもうお手上げだ。わたしは火鉢から手を離し、温もりを逃がさないよう手を摩った。


「寒いか?」

「そうでもないんですけど、何だか手が冷えちゃって……」

「何か考えていたな? お前は不安になると手が冷える」


 そう言われたらそうかもしれない。自分でも知らない癖のようなものを指摘され、わたしは誤魔化そうととりあえずへにゃりと笑っておいた。何を考えていたかなんて、知られなくてもいいのだ。


「温めてやろうか」

「遠慮します。もう、アルトさんがそんな事を言うからレオナさんが誤解するんですよぅ」


 わざとらしく睨んでやると、思い当たる節があるのかアルトさんは低く笑った。笑い事じゃないんだけどなぁ。そのほっぺたを引っ張ってやろうか。



 アルトさんは作業机を立つとわたしの隣に腰を下ろす。

 その手には出来上がったばかりの銀細工が握られていた。……髪飾り?


「お前とレオナにだ。お前にはこれを」


 コームの上部にアイビーが垂れて、小さな花が沢山あしらわれた髪飾りだった。銀ひとつで作られたそれは相変わらず繊細な程に細工が作りこまれていて、沢山の花が艶めいている。


「この花は?」

「リナリアだ」

「アルトさんって花にも詳しいんですね」

「春には温室にも咲くだろうから、見に行くといい」


 レオナさんにと渡されたのは、同じコームの土台に小ぶりな花が三つ並んだ髪飾り。丸みを帯びた五枚の花弁が可愛らしい。銀細工だと分かっていても、ふわりとした花弁の触感が想像できるほどだ。


「これはゼラニウムですか?」

「そうだ」

「ふふん、わたしだって幾つかの花は知っているんですよ」


 得意げに笑うと、つられるようにアルトさんも笑った。


「わたし達に作ってくれていたんですね。ありがとうございます」

「気に入ったら着けてくれ」


 穏やかな時間が心地いい。友人と過ごす時間というものは、こんなにも落ち着くものなのか。時折鼓動が跳ねるのは、アルトさんが意地悪だったり揶揄ってくるからだろう。それも楽しいからいいんだけれど。



 わたしはこの後、コーヒーを一緒に楽しんでからお暇した。

 レオナさんの分の髪飾りを渡しに行って、にやにやされたのはもう気にしないことにする。わたしの髪飾りを見て「リナリアですかぁ」なんて頬を上気させていたけれど、恋愛脳に引っかかる何かがあったのだろうか。

 おすすめの恋愛小説を両手に抱えさせられて、わたしは自室に戻ったのである。


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