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26.超人が尾行すると距離なんて関係ないらしい

本日2話目です。

7時にも更新しています。

 アルトさんに片腕で抱き締められ、ローブの中に隠されている。

 力強い腕がわたしの背に回って互いの間に隙間など無い。密着した体から伝わるのは、自分のものとは異なる鼓動と体温。

 なんて言えばロマンス小説の一節みたいなものなのだが、実際のところはそんな艶っぽいものではない。

 アルトさんの逆手はしっかりと剣に掛けられているし、その表情は酷く険しく殺気立っている程だ。


「……勇者達がいる」

「わたしには何も見えませんが。アルトさんの視力ってどうなっているんですかねぇ」

「普通だろう。まだ奴との距離はあるが……市場は諦めた方がよさそうだな」


 楽しみにしてたのに! 勇者(クズ)のせいでー!

 しかしどうして勇者ご一行が、この町にいるのか。いま拠点にしているリュナ月教の神殿はこの町にはないと思う。わざわざこの町に来たのなら、何か理由があるはず。


「気配を消したら、彼らの後を追いかけられますか?」

「何で自ら危険に飛び込む真似をするんだ」

「だって気になりません? どうしてこの町にいるのか。……レオナさん達が調べてくれた話だと、どうにも怪しい人物でしょう? ちょっと動向を探っておきたいかな、なんて」


 アルトさんの胸に体を預けつつ、見上げる形で言葉を交わす。端から見ればローブの中で朝っぱらから愛を囁くバカップルだろうが、実際に話している事に色気の欠片もない。


「……危険だと判断したら、すぐに引き返すぞ」

「それは勿論、アルトさんの指示に従いますよぅ。それにそんなに近付かなくても、アルトさんなら見えるでしょう?」

「まあな」


 この常人離れした視力を持つ人がいるなら、距離を取ってでも勇者の動きが掴めるでしょう! 深追いが危険なのは承知しているし、わたしも命と貞操は惜しいので、危なくなる前に退散する事に異論は無い。

 そうしてわたし達は通常なら見失うような位置から、勇者ご一行の後をつける事にしたのだった。



 ご一行は町を離れ、森の中を進んでいく。

 わたしとアルトさんは気配を殺してその後をついていっていた。……といっても、わたしからは勇者達を視認出来ていない。

 アルトさんが小声で実況してくれるから、勇者達の動向を把握出来ている。


「……この先には遺跡がある。方角的にそこに向かっているようだな」

「遺跡ですか。何の遺跡か、知ってます?」

「魔導具を封じているはずだが、効力は分からん。戻れば分かるだろう」

「大した魔導具じゃないといいんですけどねぇ」

「わざわざこんな森を進むほどだ、その期待は外れそうだな。……一人転んだ」


 足場が悪いから、転ぶのも致し方ないだろう。

 わたしも歩くのがやっとなので、アルトさんの腕に捕まって体を支えているくらいだ。本当はおぶるか抱き上げるかを提案されたのだが、丁重にお断りをした。その方がアルトさんにとっても楽なのは分かるが、あまり頼りすぎるのも良くないのでね。


「誰が転んだんです?」

「黒いワンピースの女だ」

「あー、魔法使いですねぇ。レオナさんがリムルって言ってましたっけ。……ていうか、ご一行はこんな森でもあの格好なんですか?」

「ああ、邂逅した時と同じ装いだな」

「露出度高めで挑むような森じゃないでしょうに……」

「怒っているようだな。何か叫んでいる」


 わたしもワンピースに編み上げブーツと、決して山歩きをする格好ではないけれど。それは急に立ち入る事になったから仕方がないと、自己弁護をさせて貰う。

 しかしご一行は違うだろう。森に入ると決めたのなら、それ相応の準備も出来ただろうに。こんな時でも露出を大事にするのかと、呆れてしまう。


勇者(クズ)はどんな感じですか?」

「パーティーを気にしている様子は無いな。一人でさっさと進んでいる」

「えー、クズじゃないですかぁ。一人で行けるなら、露出魔たちは町に残しておけばよかったのに」

「魔法使いが余程腹を立てているようだな。風刃を生み出している」

「木々を刈り取るつもりですか……」


 なんてことを。勝手に立ち入って、自然を壊すだなんて傲慢すぎる。


「勇者が振り返って何か言っている。『目立つ行動は控えてくれる?』かな」

「アルトさん、読唇術も使えるんですか」

「少しだけどな。魔法使いが風刃を消した。大人しく歩くようだな」


 もうアルトさんが何を出来ても驚かないかもしれない。出来ない事を知った方が驚いてしまうかも。

 それにしても勾配がきつくなってきた。しかし体力をつける為にも歩かねばならぬ。まぁアルトさんの腕に支えて貰っているから、この山も歩けているんだけど。


「見えたぞ」

「うぅん、わたしには木々しか見えませんが」

「洞窟が入口になっているんだ」


 山の中腹にある洞窟が、その遺跡の入口となっているようだ。しかし距離がありすぎてわたしには見えない。でも洞窟が入口だなんて、勇者はどうやってその遺跡の存在を知ったんだろう。


「入口には封印がされているはずだが。……白いローブの女が杖をかざした。結界を壊すつもりらしいな」


 白いローブ。白魔導師サーラだろう。レオナさんの代わりに、パーティーに加入したひと。

 先日見かけた、露出過多の姿を思い浮かべると、空気が揺らいだのが分かった。思わずアルトさんを見上げると頷いてくれる。


「結界が壊された。実力に間違いはないようだな。……中に入っていくが、俺達は戻ろう。流石に遺跡内では距離を取れない」

「そうですね、何の魔導具が封じられているか調べたいですし」


 遺跡の中まで追い掛けるのはリスクが高すぎる。

 ここで転移をして勇者に勘付かれるのもまずい。アルトさんの判断に従って山を下りることにした……のだが。山を上るよりも下りる方が難しくて、結局わたしはアルトさんにおぶわれて町へ戻る事になってしまった。なんだか悔しい。


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