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21.今日も今日とて人助けー娘の願い①ー

 今日も今日とて人助け!

 なのですが……現在の時刻は草木も眠る夜中である。窓を叩く雨音が酷く喧しい。外はきっと寒いんだろうな。雨の度に秋が深まる気がする。


 わたしはベッドから降りると、寝着からワンピースに着替えて編み上げのブーツを履く。設えられた洗面台で顔を洗う。手早くすませる為に化粧なんてしない。

 ペンダントを着けて魔力を込める。茶色く変化した髪を高い場所で一つに纏め、茶色い瞳に丸眼鏡をかける。寒いだろうからワンピースの上にショールを羽織り、その上から冒険者風のローブを纏って準備はおしまい。


 静かに部屋を出るも廊下に人の気配は無い。静まり返った廊下を照らすのは、壁に設えられたランプの灯りだ。

 わたしは足音を忍ばせて、アルトさんの部屋に向かった。夜中だろうが早朝だろうが気にするなと言われているけれど、気にするよねぇ。

 ノックをして彼が起きないようだったら一人で向かおう。



 辿り着いた先、アルトさんの部屋の気配を探ると中にいるようだ。時間も時間だし眠っているのだと思う。緊張するな、なんて思いながら小さくノックをする。

 少し待つと室内で人の動く気配がする。起きた? 結構小さい音だったけど。


「クレアか」

「は、はい。すみません、こんな時間に。出ようと思うんですが……」

「すぐに支度する」


 扉を挟んでアルトさんと声を交わす。どうしてわたしだと分かったのか。こんな時間に部屋を訪ねるのはわたしくらいだってことかな? いや、わたしもこの時間に来たのは初めてだけど。いや、色々謎な彼のことだから気配を探って個人を特定するのも難しい事ではないのかもしれない。

 扉横の壁にもたれて彼を待つこと、体感時間で三分くらい。音も立てずにドアが開き、ローブを纏ったアルトさんが現れた。


「待たせたな、すまない」

「全然待ってないです。準備早いですね」

「男だからな」

「性別関係ありますぅ?」


 声を潜めて笑うと、彼も目を細める。

 いつものように髪をヘアバンドで押さえていて、その表情に眠気は伺えない。寝起きがいいんだな。ローブの下の装備は見えないが、間違いなく剣は携えているだろう。彼はそういう人だ。


「では、お願いします」


 そう言うとわたしはアルトさんの手を取り、勘の働く場所へと転移をした。

 寝起きだからか、彼の手はいつも以上に温かかった。




 転移で飛んだ先は、古ぼけた民家の前。周囲もそのような家ばかりで、不穏な気配がこの一帯を覆っているようだった。外だけれど幸いにも雨は降っていない。


「……ここはどこでしょうねぇ」

「国を出たようだな。…あの街灯に施されているのはレイル国の紋様だ。……遠くに王城が霞んで見えるな。ここは下町といったところか」

「めちゃくちゃ目がいいんですね」


 あの街灯なんてアルトさんが指すのは、随分と遠い場所にある。わたし達の姿を照らすには遠いだけの場所。そんな場所の装飾が見えるだなんて、この人の謎がまた一つ増えた。

 霞んでいるなんていうけれど、わたしには王城なんて欠片も見えない。


「助けを求めている人は、この家にいるようです。ちょっとノックしてみますね」


 ――コンコンコン


 ノックをすると室内で人の動く気配。こんな時間だというのに起きていたかのような動き。……中にいるのは一人じゃないな。


「室内には二人。恐らく子どもと、女。……女は酷く衰弱しているようだな」


 わたしの気配探知より正確なんだが。本当にこの人何者なのー。そりゃあ部屋を訪ねたのがわたしだって事くらい、簡単に分かるわ。

 驚くというより呆れてしまってわたしに、どうかしたかと首を傾げてくるが、あんたのせいだよなんて言えるわけも無く。わたしは小さく首を横に振った。



 そんな事をしていると警戒も露わに、ギィと軋んだ音をたてて扉が開いた。薄く開いた隙間から此方を覗いているのは、アルトさんの言うとおり幼い子どもだった。薄汚れた服、ぼさぼさな髪、こけた頬、その瞳には涙がいっぱい溜まっている。


「……だれ」

「生きていて欲しい人がいるでしょう? わたし達は助けにきたの」


 わたしの言葉に子どもが目を瞠る。安心させるようにフードを取って微笑みかけると、子どもの目から涙が零れた。


「どうしてしってるの。……母ちゃんがしんじゃいそうなんだ……」

「あなたが、生きていて欲しいって願ったから。その願いに応えてわたし達はここに来たのよ。お母さんに会わせてくれる?」


 聡そうな子どもだ。本来ならばもっと警戒して、わたし達を信用したりしないだろう。貧民の子どもはそうでないと生きていけない。だけど目の前の子どもは、こんな夜更けに現れた二人組に縋るような目を向けてくる。

 子どもは扉を大きく開いて、わたし達を中に招き入れた。そっと足を踏み入れると、埃っぽさが鼻をつく。家具は殆どないし、灯りのランプもない。

 わたしは片手で空間収納を開くと、中からランプを取り出した。指先を振って火を灯すと、アルトさんがそのランプを持ってくれる。一連の流れに子どもが驚いたように目を丸くしているが、先を促すと奥へ進んでいった。



 奥といっても部屋はふたつしかない。

 子どもが扉を開いた先、ベッドに横たわる女性は今にも息を引き取りそうな程に衰弱していた。


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