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16.魔導具作りに励む

 次の日の朝、鏡台に向かったわたしの顔は、それはもう酷いものだった。

 眠れなかったせいで、目の下にはクマが薄く出ている。白目は充血しているし、顔の肌艶だって良くない。

 これは全部、勇者(クズ)のせいだ。

 おかしいなぁ、呪いには掛かっていない筈なのにあの赤眼が意識から離れない。好きなものならともかく、あの眼はちょっと遠慮願いたい。

 それだけ繋がってしまった縁が濃いのだろう。これは厄介かもしれない。



 わたしは朝から温泉を楽しむと、目元を重点的に温めた。クマはまだ残っているけれどこれくらいなら化粧で隠せる。少しすっきりしたわたしは、いつもよりも念入りに身支度を整えた。勇者(クズ)に負けてたまるか。



 掃除と朝食を済ませたわたしは、魔導具の材料を記した羊皮紙を手にアルトさんを探していた。自室にも修練場にも図書館にも温室にも居なかったので、どこを探せばいいのかもうお手上げだ。地道に探していくしかないか、と思ったら聖堂から出てくる群青色の髪を見つけて思わず走り寄った。


「おはようございます、アルトさん!」

「おはよう。……眠れなかったのか?」


 クマは隠せている筈なんだけど。不思議そうに首を傾げると、アルトさんはその親指でわたしの目元をなぞった。


「疲れた顔をしている。今日はゆっくり休んだほうがいい」

「そんなわけにもいかないんですよぅ。今日は魔導具を作ろうと思って! アルトさんに時間があったら手伝って欲しいんです」

「勿論。しかし魔導具も作れるのか」

「父が作った魔導具を複製するだけですけどね。材料を集めに行きたいんですけど、町に出るのは危険でしょうか」

「勇者一行は昨日のうちに町を離れている。大丈夫だろう」

「おおう、居所確認もばっちしですか」

「それで何が必要なんだ?」

「ええとですね……土台になる腕輪と指輪が沢山と……魔式を埋め込む鉱石も沢山……。あとペンダントトップも土台にひとつ欲しいです……。手に入りますかね……」


 羅列していって不安になってきた。手持ちのお金はあるけれどそれだけの品物が揃うだろうか。鉱石はいざとなれば採掘しにいけばいいけれど……。


「土台は銀でもいいのか? 鉱石の種類に指定は?」

「なんでも大丈夫です。とにかく数が欲しくて」

「それなら俺が用意してやれる。どこで作る?」

「え? えっと、わたしの部屋で……」

「では部屋で待っていてくれ」


 アルトさんはわたしの頭にぽんと手を載せると、その場から去っていってしまった。

 用意が出来るとはどういう事だろう。でも手に入るなら有難い。代金はしっかり払うとして、とりあえずは魔導具作りに集中しなければ。

 わたしは自室へと駆け出した。



 わたしが部屋に戻って程無くして、扉をノックする音が響いた。

 扉を開けるとそこにいたのはアルトさんで、麻袋を腕に抱えている。


「どうぞ」

「失礼する。どこに置く?」

「今日は床で作業をしようと思って。そこに置いて貰っていいですか?」


 大き目の敷物を用意してある。そこを促すと、アルトさんは膝をついて敷物の上で袋を傾けた。ごとん、と硬い音をして転がり出るのは銀の塊が二つ。わたしの両手を並べたものより大きいだろう。そしてごろごろと転がり出るのは、色も大きさも様々な鉱石たち。


「……これ、どうしたんですか?」

「俺は銀細工師だ。好きな形に土台を作ってやる」

「アルトさんが何者なのか、益々分からなくなりました……」

「俺はただの護衛だよ」


 そう言って肩を揺らすけど、勇者の攻撃を振り返りもしないで避けて、息切れしないで人を抱えたまま走る身体能力を持ってる銀細工師って何者って思っても仕方がないだろう。


「この鉱石も、銀細工の一環で?」

「いや、これは西方の山で採れるんだ。ヴェンデルの西方視察に着いて行った時、沢山採れ過ぎたからって貰ったものだ」

「えー、凄い。わたしも採ってみたいですねぇ」

「落ち着いたら連れて行ってやる」

「本当ですか? ありがとうございます。……この代金はちゃんとお支払いしますからね」

「いや、不要だ」


 アルトさんの言葉は聞こえない振りをして、手頃な大きさの鉱石を選ぶ。碧色が多いがその色合いは様々だ。


「何を作ればいい?」

「そうですね、まずは腕輪を四つ。このくらいの石を嵌めこみたいんですが……。デザインはお任せしてもいいですか?」

「分かった」


 土台の腕輪は任せる事にして、わたしは指先に魔力を篭める。水を纏った風の刃で鉱石を削って狙い通りの形にしていく。これはそんなに難しくない。あっという間に碧石がオーバルの形に加工された。表面も滑らかに研磨して、うん、いい出来。

 続いて魔式を書き込んでいくんだけれど…正直、これが苦手なのだ。父の本通りに書き込めばいいだけなのだが…まぁやるしかない。


 ふと顔を上げると、アルトさんが敷物の上に胡坐をかいて両手に銀を練っている。銀細工師は魔力を銀塊に注いで、その形を自在に操るのだ。こんなに近くでその技を見るのは初めてで思わず目を奪われる。

 アルトさんの手の中で、まるで生きているかのように銀が動く。指先を振るとそれに呼応するように細く伸びて蔦の形を成していった。アルトさんはいつもよりも楽しそうに銀を相手にしている。


 いつまでも見つめていては魔導具作りが終わらない。なんせ途方も無い数を作らなければならないのだ。いや、作ると決めたのはわたしなんだけど。

 深く息を吸って、ゆっくりと吐く。わたしは指先に魔力を篭め、集中して鉱石に魔式を書き込んでいった。


土日は2回更新します。

19時にも更新しますので、宜しくお願いします!

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