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100.今日も今日とて人助けー金ピカ鎧と二人の騎士③ー

7時にも更新しています。

 わたしの脳裏に、穢れから魔物を創造していた勇者の姿が思い浮かぶ。

 まさかこの国でも同じような事をしている? いやいや、まさか……。


「この森に、守神はいないのか?」

「……そういえば、お見掛けしていない。以前は大きな鷹がこの森を守って下さっていたのだが」


 アルトさんの声に反応したのは、黒髪騎士だった。

 細かい傷すべてを癒したわけではないんだけれど、体力があるからなのか、さすが騎士というべきか動くのに問題はないようだ。


『守神が倒れたその地には魔物が溢れているだろうな』


 グロムの言葉が蘇る。

 そうだ、グロムも魔力を帯びた銀の弾丸で撃たれていた。そして彼は他国でも守神が狙われていると言っていた。

 もしこの森の守神が討たれていて、もしそれが意図的なものだとしたら。


 人魔戦争なんて騒ぎじゃない。

 この世界がどうなってしまうか。この世界の危機に神々がどんな立場を取るかは分からないけれど……最悪、滅びの道を進むかもしれない。

 そして神々が再度この世界を創造する。


 そんな事になったら、わたしの願いは永遠に叶わない。

 両親を地底牢獄から解放するという願い。


「クレア」

 

 囁くように名を呼ぶ優しい声に、はっと我に返る。また考え込んでしまっていた。

 わたしはへらりと笑って見せるも、アルトさんは溜息をつくばかり。まぁ隠せるとは思っていないけれど。


「帰りましょう、アルトさん。もうこの場所に用はありません」

「待て! その魔導具をどこで手に入れたのか教えろ!」


 わたしの声が聞こえていたのか、金ピカ鎧が大きな声を出す。非常に喧しい。


「君達、良かったらその魔導具について詳しく教えて貰えないだろうか」


 緑髪騎士が金ピカ鎧の前に出て、金ピカ鎧をその背中に隠してくれる。交渉するにしても、あの金ピカ鎧の偉そうな様子では難しいと判断したのだろう。


「魔導具について話せる事はない。悪いがもう行く」


 アルトさんは棘のある声で短く答えると、わたしの手を握る。わたしよりも高い温もりに力が抜けていく。知らない間に、体が強張っていたらしい。

 わたし達は小さく頷き合うと、それに呼応するかのように魔導具の結界が音もなく消えた。


 目を瞠った三人がこちらに手を伸ばすよりも早く、わたしとアルトさんはその場から駆け出していた。


 背後で聞こえる怒声は金ピカ鎧だろう。ぐんぐん距離が離れているから何を言っているかまでは聞き取れない。その気配が遠ざかっていく。追いかけてくる様子はないようだ。

 山を駆け降りるのは正直しんどいけれど、アルトさんがしっかりと手を繋いでくれている。足元が悪いから躓いてしまいそうだけど、もしも転んだとしても、彼なら余裕でわたしを支えてくれるだろう。そんな絶対的な安心感があった。



 わたしの手を引くアルトさんの歩調が少しずつ緩んでいく。それにつられるように、わたしも足を止めた。正直なところ、もう疲れて走っていられなかったのだ。ぜえぜえと肩で息をするとアルトさんの笑い声が降ってきた。


「なんで、そんな……っ、ごほっ……余裕なん、ですか……」

「お前の体力が無さすぎるんだ」


 アルトさんは笑いながら、わたしの背中を撫でてくれる。この体力おばけについていけるわけがないと分かってはいたのだけど、ここまで平然とされるのも腹立たしい。


「わたしの体力が無いのも認めますけど、アルトさんの体力値がとんでもないんですからね」


 盛大に肩を竦めるて見せるも伝わっているかはあやしいところ。

 そんな事よりも。魔物の気配が近付いてきている。


「アルトさん、この森ってどうなってしまうんでしょうか」

「守神の加護がない場所だからな、このままだと澱みに沈んで穢れる一方だろう」

「こんな場所が増えていったら……この世界は」

「滅びるかもしれんな」


 アルトさんの声が固い。

 その表情はいつもと変わらないように見えるけれど、その瞳は翳っている。


「世界を滅びから救うのが勇者だと、わたしが読んだ冒険小説には在りましたけど」

「この世界の勇者はアレだからな」


 大袈裟なまでの溜息に、思わず笑いが漏れた。

 柄ではないし、そんな力もわたしにはないんだけれど……わたしに出来る事があるのなら、やらなければならないのかもしれない。

 でもまぁ、まずはそれよりも。こんなところに長居をする理由はない。あの金ピカ鎧がもし追いかけてきたらまた面倒だ。


 わたしの思考を読んだアルトさんが、繋いだままだった手に力を込める。わたしはそれに小さく頷くと、意識を集中させて大神殿へと転移をした。その刹那にアルトさんに視線を向けると、こちらを見ていた彼は優しく笑ってくれたから、きっと大丈夫だと思えた。


 何があっても、大丈夫。

 繋いだ手の温もりは、いつの間にかわたしのものと同化している。

 それに気付いた時、胸の奥がぎゅっとなるような不思議な感覚がした。


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