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「ある家族の一日」

作者: 石橋千晶

自分自身の一日をテーマにしました。

「ある家族の一日」 石橋千晶

私は体の自由が利かない重度体幹機能障害つまり「脳性麻痺」という障害を生まれつき持っている。

脳性麻痺と言えば、脳に麻痺があるから知的障害と間違えられやすいし、どちらも重複している障害者も

多いが、私の場合は、脳の中の運動機能の神経だけが麻痺しているので、両親や周囲は、普通の接し方だ。

申し遅れたが、私は石川ちあき。神戸市に住んでいる44才。専業主婦。

主婦と言っても日常で出来ることは少なく毎日、ヘルパーさんの協力で生活は成り立っている。

夫は同い年のもと。特別支援学校の臨時職員。

朝は5才の娘のもえを保育園に行かせないといけないので目覚ましをかけているが、朝に弱いもえを起こ

すのは一苦労。グズグスしながらヘルパーさんに朝食の用意や身支度をしてもらい、やっと「行ってきま

す」とヘルパーさんに保育園まで送って行ってもらう。ヘルパーさんが家に帰宅してもらうと家の掃除や

洗濯、夕食の調理をしてもらい、必要に応じて買い物やちょっとした息抜きに散歩をし、入浴を手伝って

もらい、もえの保育園の迎え、もえの入浴、主人が帰宅するための夕食準備を済ませ、ヘルパーさんは帰っていく。

あとは3人の時間なので、もえやもとの話を聞いたり、もえと遊んだりしてから寝る。

これが我が家の一日。


ある日、少しずつ私の状態のことが分かった来たもえが

「お母さん、お母さんはなんで体が動きにくいの?」

ああ、もえはこういうことを聞くまでに成長したのか、と思いながら、

「もえは自分の思っている通りに体が動かせるでしょ?それは脳の中にある運動するところが、もえの

思う通りに手や足を動かしなさいっていう命令を出して、もえは自由に体を動かせるんだ。でもお母さん

は、赤ちゃんの時から、その命令を出すところに傷があってね、体を動かしにくくなっているのよ。」 なるべく5才のみえに分かりやすく、そう言った。

「じゃあ、病院で手術してもらったら治るかなぁ。」と、もえ。

「うーんとね…脳の中はいっぱいいっぱい大事な神経っていう線みたいなのがあってね、運動の神経の

傷だけを治すことは難しいの。」

「そっか…動きにくい体の母さん、可哀想やね。」

ともえが残念そうに言うので、

「でも、お母さんは体が動きにくいのに、もえは産まれてくれたやん!母さん嬉しかったし、今ももえが

母さんの体のことまで心配してくれて、すごく嬉しいんよ。」

「ほんま?じゃ、もえがお母さんの体を治すよ。あとお母さんのお手伝いもするから任せて!」 私の涙腺は緩んだが、必死でこらえ、

「ありがとう、と言いたいところだけど、まずもえは自分のことがしっかり出来て、お片付けもちゃんと

出来ることから始めんとね。」

黙って聞いていた英二が、

「そうやで、もえはまず自分のことをして出来るようになってから、母さんのことや。でももえが母さん

の世話が出来るようになったら、ヘルパーさんあまりいらんなぁ。」

 というので、

「そんなことないよ!もえだってもう少し大きくなったら、自分のやりたいことが出て来るんだから、

もえを私の犠牲にはしたくない!」

もとは、

「冗談やろ?母さんはすぐ本気になるから話しても面白くないねん!」

と突っ込むもとに、

「父さんも母さんも仲良くしてよ!」

と泣きそうになるもえ。私は、

「あ、もえごめん、ごめん!父さんとは色んなところで考え方の違いがあるから話してて興奮しただけ

よ。」

もとはふてくされていたが、もえが納得すると、気を取り直し一緒に遊んだ。


夫婦というものはもともと他人同士。その他人同士の2人が一緒なるのだから、色々と違いがあって難し

いし、お互いがお互いのことを理解し受け入れようとしないと夫婦を続けていくことは不可能だろう。

だが、子供であるもえはそんなことは関係ないのだ。


曇り空だった夜空が、月明かりになった。

すくっと立ち上がったもとが

「さあ、ちょっと夜のドライブでもしますか?お二人さん。」


私ともえは、顔を見合わせ、すぐにもとの方を向き、

「うん!!」と言って、車椅子の私をぎこちなくもえが押して、玄関を開け、車へ直行した。


これが石川家の、ある一日である。


おわり


共感してもらえる方がいれば幸いです。

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