第6話 『愛と訓練』
学校は思ったよりハードだった。
朝のジョギングから始まり、
素振りを500本、
魔法の練習と研究。
最後に先生の話があって終了だ。
そんな毎日が繰り返されるうちに、
一人、また一人と学校を辞める人もいた。
先生は去りゆく者を追わず、
残った生徒のみを育てるつもりらしい。
先生いわく、
この程度で辞める奴は、騎士にもなれない。
という事だそうで去りゆく者を止める生徒もいなかったし、
先生の言う事に、異論を唱える者もいなかった。
毎日の様に繰り返されるスパルタ教育で、
疲れている俺も学校帰りに友達と行く、
村の露店のおかげで、
明日もまた頑張ろうという気持ちが生まれたし、
何より村の露店は、とても面白かった。
ちなみにギーモンに毎日の様にもらっていた銀貨だが、
この世界では、中々価値が高く、
元の世界の感覚で行くと、
約1000円ぐらいになる様だった。
俺が貯めた額は、銀貨約60枚だったので、
約6万円だ。この歳では大金持ちだ。
毎日のようにいろいろな物を買える。
それより毎日のようにお小遣いをくれた、
ギーモンの懐事情が恐ろしくきになる。
やっぱりギーモンはただの老人ではないと、
再認識することになった。
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今日は入学した時に、
約束をしていたハリウスと、
街の鍛冶屋に御守りを買いに行く予定だ。
先程待ち合わせ場所に着いたのだが、
ハリウスはいなかった。
しばらく待ち続けていたが、
来る気配もなかった。
帰ろうかとも思ったが、
もし入れ違いになったら悪いと思い、
魔法の研究をしながら待っていた。
1時間程度の時間が経っただろうか。
口に何かを頬張ったハリウスが、
「悪りぃ!待ったか?昼飯食っててさ」
と呑気にやって来た。
流石にイラっと来たが、
まだ3歳なのだ。
待ち合わせに少しぐらい遅れる事もあるだろう。
「いや、さっき来たところ。さっ行こうぜ」
どうも俺は彼に怒ることができない。
憎めない奴なのだ。
まるでカップルのような会話を交わし、
俺たちは村のはずれにある鍛冶屋へと向かう。
この鍛冶屋は、
炭鉱人が経営しているらしく、
この村の人は全員ここのお店から、
武器などを購入しているので、
品質は折り紙つきだ。
店には剣や防具が並んでいて、
全て妖しい、青い光を放っていた。
どの剣の質もとても高い。
昔ギーモンが持っていた斧も、
ここの商品だと一目で分かった。
「あらあら!かわいいお客様ですこと。」
店の奥から炭鉱人の女性が出て来た。
俺は思わず息を飲んだ。
出て来た女性はとてもかわいらしく、
それでいて美しかった。
母も美しいが、目の前にいる女性は、
それとまた、違った良さを出していた。
一目惚れをしてしまった。
声も出ない俺をフォローするかのように、
「あっ俺!ハリウスっていうんだ!こっちはロメディア!今日は御守りを買いに来たんだ!おねーちゃんはお店の人?」
と元気いっぱいに言ってくれた。
俺と違って、無邪気だ。
心に汚れがない。
正直二人で行って、助かった。
一人で来ていたら言葉を詰まらせて、
彼女を困らせてしまっていただろう。
「元気な自己紹介ありがとう!お姉ちゃんはムーディアって言います!ハリウス君と、ロメディア君だね?御守りだったら、こっちだよ。着いておいで。」
ムーディアは店の中へ入って行った。
一目惚れの反応で、
その場を動けずにいた。
ハリウスが不思議そうな顔をして、
俺の腕を引っ張ってくれたので、
理性を取り戻せた。
ハリウスには先程から助けられてばかりだ。
後で何か美味しいものを奢ってやろう。
中には橙色の髭を生やした中年の炭鉱人がいた。
「おうおう!兄ちゃん達は学生かい?御守りを探してるんだってな!ここに沢山ある!好きなのを選ぶといいぞ!グワーハッハッハ!」
豪快に笑った彼はこの店の店主で、
先程の女性の父親のモーギィアだ。
たまに家に来て、
父とよくお酒を飲んでいたから顔は覚えている。
「ん?アルクのとこの坊ちゃんじゃねーか!いやぁ!超美少年になったなぁ!」
俺の事を男と思ってくれているようだ。
父から何も聞いてないのだろうか?
だが、学校では男で通しているし、
ハリウスが横にいるので、
俺としても勘違いされている方が都合がいい。
ハリウスは既に、御守りを手にとって見ている。
集合時間に遅れたくせに、
こういう時だけ行動が早い。
俺もモーギィアに一礼して、
御守りを見ることにした。
御守りは色々な材料で出来ていた。
見たことのある材料もあったし、
聞いたことのない材料だってあった。
その中で俺は、
ベルトに装着出来るタイプで、
見たことのない素材で出来ている御守りを買った。
少し値段は張ったが、格好いいし、
なにより持ち運びが楽なので満足だ。
ハリウスは鉄でできた、剣の形をした御守りを買っていた。
少しお金が足りなかったので、
不足分を俺が払ってやると、
飛び跳ねて喜んでいた。
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帰りに魚の丸焼きを奢ってやった。
ハリウスは買ってあげた魚を、
美味そうにもしゃもしゃと頬張りながら、
帰っていった。
空を見ると陽は既に傾いていたので、
俺も急いで家に帰った。
玄関にはメリッサが出迎えてくれていた。
手を振ると、お辞儀で返してくれた。
俺は複数いる侍女の中で、
メリッサが一番好きだ。
優しいし、美人だし、
何より料理が美味しいのだ。
まずメリッサに抱きつく。
この体は、美女に抱きつく際はとても役に立つのだ。
メリッサは最初の頃こそ戸惑っていたが、
今では頭を撫でてくれる。
第三者が見れば子供が無邪気そうに、
抱きついて、
侍女がなだめているように見えるだろうが、
実際は、ナイスガイが、美人さんに抱きついているのだ。
メリッサは父が待っていると言っていた。
どうやら俺と話がしたいみたいで、
ソワソワしていたのでお急ぎください、
との事だったので、俺も急いで父の部屋へ向かう。
部屋に入ると、部屋中をぐるぐる回る父がいた。
確かに、ソワソワしている。
「よぅ、ロミー!最近、学校はどうだ?」
「楽しいよ。友達も出来たしね!」
友達という言葉で笑顔になる父。
「そうかそうか!そんなら良いんだ!そんでさ、今日呼んだのは、学校からこんな知らせが届いたんだ」
父の手には一枚の紙切れが握られていた。
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学園内武闘大会
ご子息の成長を見てみたいという、
ご要望がございましたので、
学年別の武闘大会を開催する事に致しました。
ルール説明
学年ごとに5人1組となって、
学年ごとの戦っていただきます。
その際戦力が偏らないように、
こちらが指定したチームに所属してもらい、
先鋒、次鋒、中堅、副将、大将、と役割を分け、
先に3勝したチームの勝ちとします。
優勝したグループには、
学園より賞品が与えられます。
優勝を目指して体をしっかりと鍛えましょう。
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「ってわけでよ!俺も見に行こうと思ってな?まぁお前がいるならそのチームの優勝間違いなしだと思うが、明日から俺が少し格闘技を教えてやろうと思ってな!」
父の自信はどこから来るのか分からないが、
なるほど。面白そうな大会だ。
それに元王宮騎士である父に、
格闘技を教えてもらうのだ。
断る理由が見当たらない。
「分かった!明日からよろしくね!お父さん!」
父はうんうんと頷いて、
今日はゆっくり休めと言ってくれた。
と言っても寝れるはずもなく、
こんな大会があるのだ。
折角なら派手な技を考えよう。
という考えに至っていた。
派手といえば第8階位光魔法の光出だが…。
魔力を一点に集中させることは出来るだろうか。
試行錯誤しているうちに、
夜中になってしまったが、
第7階位炎光魔法の光線が生まれた。
光出の魔力を集中させ、
一点放火する技なのだが、
それだけでは威力が弱く、炎魔法も混ぜておいた。
応用の効きそうな技で、
属性を変えることも出来るだろうか?
今後も研究が必要そうだ。
新しい魔法の開発で疲れきってしまい、
その日は泥のように眠った。
目が覚めると、父が俺を覗き込むように立っていた。
驚きで思わず声を漏らしたのだが、
父は笑って、俺を庭へと連れ出した。
週に一回、宗教的問題で学校は休みなのだが、
今日だという事をすっかり忘れていた。
父は俺と久々に一緒に過ごすので、
とても嬉しそうだった。
考えれば最近メリッサやギーモン、
それに母にべったりだった気がする。
「よし!まずは基本を教えてやる!いいか?基本はこう構えるんだ」
父が構えを取る。俺もそれに習い構える。
「基本はこうだ!右!左!アッパーカット!」
俺も真似してやってみる。
「その調子だ!これを繰り返せ!」
右、左、アッパーカット。
その繰り返しを昼まで繰り返しやった。
不思議と力が湧いてくる。
赤ん坊の頃もそうだったのだが、
これはどうやら魔力の上昇らしいと、
最近わかった。
お昼ご飯は母が作ってくれた。
サンドイッチのようなもので、
とても美味しかった。
昼食後も同じ動作をずっとし続けた。
前世でもそうだったのだが、
一見意味のなさそうな事に意味があり、
とても重要なことが多い。
基礎はとても大切なのだ。
父の訓練を終えた俺はクタクタになっていた。
「はっはっは!よく頑張ったな!根を上げないだなんて、お前はやっぱり俺の娘だな!」
と言いながら倒れこむ俺を食堂へ運ぶ。
今日の料理は、父が頼んでいたらしく、
肉がメインだった。筋肉をつけろという意味だろうか。
その日もいつも通り、
母とお風呂に入り、
添い寝してもらった。
朝起きると腕が筋肉痛になっていた。
ちょっときついが、学校へ向かった。
いつも通りジョギング、素振り、研究をして、
先生の話を聞く。今日の話は武闘会のチームわけについてだった。
チームの戦力バランスを考えて、
1階位クラスは、8階位クラスとチームを組むそうだ。
2階位クラスは7階位、3階位は6階位…というようなチームわけだった。
武闘会は結構先の話になるが、
居ても立っても居られないくらいに楽しみだ。
帰ると父が仁王立ちしていた。
「待ってたぜ!今日は蹴り技の練習だ!さっさと飯を食ってきな!」
と、庭で正拳突きを繰り返しながら言われた。
食堂へ行くと、メリッサがパンを運んでくれたので、いつもありがとう と言っておいた。
顔を真っ赤にさせながら、仕事ですので…と言っていた。かわいい。
食事を済ませ、庭へ向かうと、
父素振りしていた。
「おっ!来たな?蹴りはスピードが命だ!上手くいけば一発で相手を倒せる程だ!」
なるほど。スピードか。
父が手本を見せてくれたが、
相当なスピードだった。
それの習って、俺も練習をはじめた。
その日も夜まで練習を続けて、
食事をし、母と入浴した。
寝る前に、腕立て伏せをしたが、
筋肉痛のせいであまり出来なかった。
そんな日が数十日続いて行く内に、
筋肉痛にならなくなったし、
魔力も上がって来ていた。
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いつもの授業を終えて、
先生のお話の時間になった。
どうやらチームが決まったそうだが、
まだ教えてくれないらしい。
帰ると珍しくギーモンが玄関で出迎えてくれた。
今日の昼は、ギーモンが俺の為に昼食を作ってくれたようだ。
「じいじ!これなぁに?」
ものすごく可愛い声が出た。
ギーモンは俺に駆け寄り、
抱きしめながら、
「これはねアップルパイって言うんじゃ。とっても甘いんじゃよ?」
俺は口を大きく開ける。
ギーモンは大喜びで俺の口の中にアップルパイを運ぶ。
俺も祖父の使い方が上手くなったものだ。
それにしても紅茶が欲しくなって来た。
ギーモンに「あーん」と言ってみた。
老人らしからぬ声を上げて、大はしゃぎで口を開けてくれた。
俺を相当に溺愛してくれているようだ。
メリッサは微笑ましそうに、
俺とギーモンのやり取りを終始見つめていた。
ギーモンと学校の話をして、
格闘技も父に教えてもらっていることを話した。
ギーモンは少し考えるようにして、
今度何かを教えてあげると約束してくれた。
食後にギーモンから金貨を貰った。
初めての金貨だったので驚いていると、
「昼食の時のお礼じゃよ」
と言って、にっこりと微笑んだ。
その日のお風呂は、
母と入っていると、父も乱入してきた。
母親に抱きついている俺の頭を、
父は優しく撫で続けてくれた。
お風呂から上がって、
メリッサの元へ向かった。
大体食堂にいるのだが、
今日は俺の部屋の前にいた。
「メリッサ!今度僕がご飯作るね!」
「いえいえ、食べたい物が御座いましたら私が作るので…」
「いや!僕が作る!約束ね!」
最近子どもっぽくふるまうのにも慣れて来た。
メリッサは困った顔をしていたが、
俺の抗議に折れて、材料を買って来てくれる事になった。
その日はメリッサに無理を言って、添い寝してもらった。
眠ったふりをして、メリッサの頰にキスをしておいた。
メリッサは俺の頭を撫でて、
子守唄を歌ってくれた。
そのまま俺は、深い眠りへと落ちて行った。
予定では今回武闘会に入る予定だったのですが、
書きたいことが多くかったので、
結局次回になりました。




