第4話 『大事件』
2歳になった。
だいぶ文字も読める様になって来た。
生前、英語などはあまり覚えなかったのだが、
この世界の言葉は、覚えやすい……
と言うより、覚えないと生きていけないのでは?
という思いが強かったのだ。
考えてみると、ここは異世界なので、
識字率とかはどうなのだろうか。
読める様になった俺の方が珍しいかもしれない。
重宝されて、良い仕事とかにつけるかもしれない。
ちなみに俺の部屋にある本は教育用なのか、
歴史の本が置いてある。
読んでみると分かるが、
この世界の歴史は中々面白いのだ。
筋トレをしながら読んだり、
暇つぶしに読んだりしている。
-----
【創世記】
今から五万年前、この世は全て海だった。
神は自らの体を二分し陸の神と空の神を、
作り出した。
二分された神々は交代で、
この世を統治するはずだった。
しかし、神は野心を持ってしまい、
互いに争いを始めたのだ。
戦いは7日7晩続き、
地上に住んでいた生物は死に絶えた。
勝った方の神は、自らの複製を作り出し、
弱った自らの代わりに地上を治める者として、
人間を地上に配備させた。
人類史の始まりである。
-----
神なんて信じてない俺からすれば、
ただの物語なのだが、
見るだけなら、本当に面白い。
この本を見るに、ここは前世の世界と同じで、
24時間ぐらいが1日のようだ。
だが、この本も飽きてしまった。
この後は人類種の地上支配までの道のりが、
書いてあるのだが、
その話は今度しよう。
他に本はないかな…?
そういえば祖父の部屋に、
大量の本が置いてあったな…。
1冊ぐらいなら良いだろ。
だって祖父は俺に甘いし。
ごめんなさいっていえば、
許してくれるだろ。
ってことで俺は今、祖父の部屋にいるんだが、
正直意味がわからないような、
凄く難しい本が並んでいる。
しかも分厚いし、
数十冊あるな…
難しい本の中に、一つの輝きを放つ---実際は茶色だが---本があるのを、俺の目は見逃さなかった。
魔術教本〜基礎編〜
くっくっく…やっぱり来て正解だったな…。
俺は本を持って、部屋まで走って戻る。
実際は走ると言うより、抱えてゆっくり歩いている様にしか見えなかったと思う。
自分の体の半分くらいの大きさの本なのだ。
少し重い。というか重たい。筋トレに使えそう。
途中侍女に見つかりかけたが、
扉の陰に隠れてやり過ごした。
さてさて、お楽しみの時間だ。
埃を被っていたが、気にせずに開く。
-----魔術教本-----
魔法の基礎知識と、基本の魔法。
この世界ではほとんどの制度で、
階位制を採用しており、
魔法も第1階位から、第8階位までの魔法が存在する。
例外として、第0階位もあるが、
使える者はかなりの少数である。
炎、水、風、土、光、闇
が基本の属性で、
これらの魔法は混ぜて、
威力の高い魔法を生み出す事も出来る。
第8階位魔法を起点として、
発達させていくのが基本なので、
第7階位以上の魔法には、
名前が付いてない事が多い。
ただし過去の英雄が使った魔法や、
特定の職業になるための魔法などは、
例外として名前が存在している。
魔法の威力は、個人の魔法適性や、得意属性に左右され、
使える限度は、個人の魔力総量に左右される。
また、武器などの媒体に魔力を通すことで、
武器の強化や身体強化も行える。
魔法の行使には、詠唱が必要だが、
ある程度覚えると魔法の名前を言うだけで発動は可能で、
この本には覚えやすい第8階位魔法を記そう。
炎魔法の 火粉
水魔法の水球
風魔法の風切
土魔法の土壁
光魔法の光出
闇魔法の暗黒
の6種が基本だ
-----
ちなみにこの間、母が使っていた回復魔法は、
光属性の魔法だそうだ。
時間が経つのを忘れ熟読していると、
廊下で足音がした。
慌てて俺は魔術教本をベッドの下に隠す。
本を盗んだのがバレたかもしれないと思った。
入って来たのは母親だった。
そういえば母の名はメーネ・ハーキュリーズと、
言うそうだ。
侍女に聞いたのだから間違いない。
ちなみに父の名は、
アルク・ハーキュリーズだそう。
祖母はいないのかと聞くと、
俺が生まれる前に、亡くなったそうだ。
なんだか少し寂しい気分になった。
会ってみたかったなと思う。
「あぁ!埃まみれになっちゃって!ママと一緒にお風呂に入りましょうね?」
本についていた埃が、
いつの間にか俺についていた様だ。
失敗したなと思ったが、
結果的には成功だ。
なぜなら、この世界でお風呂に入るのは初めてだ。
この世界で、お風呂は裕福な家しか置いてないと、
この間、読んだ本に書いてあったので、
半分諦めてたのだが、まさかこの家に置いてあるとは。
日本人としてやはりお風呂は嬉しい。
いや、それは表向きの理由だ。
母は美人なのだ。
一緒にお風呂に入れるのは、
前世の記憶がある俺にとって、
ご褒美なのだ。答えはもちろんイエスだ。
入らないわけが無い。
「分かった!入ろ!」
食い入る様に言ってしまった。
ちょっとグイグイ行き過ぎたか…?
いや、母は嬉しそうに俺についてくる。
大丈夫。今の俺は2歳だ。
大人ではないかと怪しまれることもないだろう。
だが道がわからないので、
キョロキョロしていると、
体が宙へ浮く。薔薇に似た香りが広がる。
母に持ち上げられたのだ。
「ロミーったらハシャギすぎよ?」
ふふふっと笑ってお風呂へと向かう。
思えば今まで寝ている間に体を拭かれ、
起きる頃には、着替えも終わっていたので、
自分の体を見たことがない。
筋トレもある程度しているので、
同年代---といっても2歳だが---と比べればたくましい体なはずだ。
だが、この世界の服は前世の洋服に比べて、
難しい構造をしているようだ。
脱ぎ方が分からないので、
「まま!脱ぎ方分かんない!」
と可愛らしい声を出しておいた。
これで俺の中身がナイスガイって事は、
バレないだろう。
母は嬉しそうに俺の服を脱がしてくる。
俺も嬉しい。母も嬉しい。
ウィンウィンな関係なはずだ。
「まぁ!可愛いのに力が強そうな体ね!」
母も嬉しそうに服を脱ぐ。
俺はその様子を見つめている。
自分の体など後回しだ。
俺の精神が大人である事を知れば、
母の表情はどうなるのだろうか…。
金色の髪をたなびかせ、ワガママボディを、
俺に見せつけてくる。
気が遠のきそうに眩しい。
地球に来ればすぐにでも、
ハリウッドの女優にでもなれるだろう。
俺は母に向かって走り出す。
母を抱きしめる。母も俺を抱きしめる。
裸の付き合いだ。やはり良い匂いだ。
母はそのまま俺をお風呂へと運ぶ。
事件はお風呂の中で起こった。
いや、母親は知っているので、
当たり前の事だったのだろうが…
ないのだ。
どうやら俺は勘違いをしていたようだ。
前世が男だったから、
この世界でも男だろうと、
そう思っていたのだ。
甘かった。
俺が女として生まれる可能性だって、
十分あったのだが、
前世読んでいた小説では、
男は普通、男に転生する物語が多かったので、
勝手にそう思い込んでいたみたいだ。
思えば、今まで俺が親に“僕”の一人称を使った時、
不思議な顔をしていたのも、これで辻褄があう。
俺が青褪めた顔をしているのを見て、
「大丈夫?お顔が真っ青よ?折角の可愛いお顔が台無しよ?」
と俺の頭を撫でてくれた。
母に抱きついて、俺は泣いた。
母はまず、不思議な顔をして、
困ったような顔をしたが、
俺の頭を撫で続けてくれた。
そのまま俺は泣き疲れて、深い眠りについた。