間話 『侍女は師範代』
メイド服を脱ぎ捨て、湖に飛び込む。
体についた血と汗を洗い流すためだ。
湖といえど、魔法のおかげで今はお湯。
つまり温泉な訳だ。
久々に入る風呂の心地は、
元日本人の俺にとって極上物である。
奴隷契約の刻印を消し、
解放された俺は、今や億万長者。
刻印の後は数ヶ月は残るそうだが、
今はただ、湯が気持ちいい。
メリッサに抱きつく。
昔と同じ艶やかな肌に、
柔らかい胸、引き締まったお腹。
違うとすれば脇腹に付いた切り傷だ。
「もふぅ。めりっさぁ」
7年ぶりの再会だ。
少しぐらい甘えたっていいだろ?
前世でも両親に甘えっぱなしだったしさ。
「よしよし、怖かったですね。
よぉく、頑張りましたよ。
お嬢様は世界一です」
優しい言葉に、つい涙が出てしまう。
頰を鎖骨の辺りに押し付ける。
「私も怖かったです。
というより、一度死にましたから」
「死んだ?何を言ってるの?
生きてるじゃん。変な冗談はやめろよな」
急にメリッサはおかしな事を言い始めた。
何を言ってるんだろう。
死んだ?じゃ、今目の前にいるのは?
「生き返ったんです。ボーンさんのおかげで。
彼は貴方との契約を強制的に切られた後、
アフェリッサの森に隠れていました。
そこで、村が襲撃されました。
アルク様にメーネ様は連行され、
村は焼き尽くされ、
阿鼻叫喚の地獄絵図です。
私はそんな中、戦いました。
元はと言えば私も拳士、
ロメディア様を見て、
懐かしく感じたこともありました。
しかし数は圧倒的の村の方が少なく、
私はこの通り、脇を両断されました。
意識を失い、夢を見ました。
大きな木と、可愛らしい少女が立っていて、
心残りがあるかどうか聞いてきたんです。
真っ先にロメディア様を思い浮かべました。
彼女は嘲笑しましたが、
どこか嬉しそうなお顔をされていました。
目が覚めた時には森のど真ん中、
正直驚きました。
先程まで村の中で倒れていたのに、と。
そこでボーンさんに出会ったんです。
彼は精霊ですから、
回復魔法もお手の物なんでしょうね。
私なんかはすぐに治ってしまいました。
ですが、死傷者は大量にいましたので、
救えぬ命も多々ありました。
恐らくアルク様もメーネ様は……」
そこまで言って口を噤んだ。
その言葉の先に続く言葉は、
恐らく、もう駄目だということだろう。
メリッサは下唇を噛みしめ、
心底悔しそうな顔をしている。
俺だって正直泣きたいさ。
だけど、そんな事はしないし、
今なら受け入れられる気がする。
なにより、メリッサが帰ってきたんだ。
俺はこれで十分さ。
「そっか。お疲れ様。よく頑張ったね」
「ありがとうございます。
お嬢様、ご提案なのですが、
先ほど申しました通り、
私も拳士の端くれ。
どうかお嬢様を鍛えさせてください!」
涙を流しながら、
メリッサは、俺に初めて要求を叩きつけた。




