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第3話 『始めまして異世界!』

 流れる様に月日が流れた気がする。

 俺は一歳になっていた。

 言葉自体は理解できたが、

 まだ喋ることは出来ない。

 この間まで掴み立ちであったのに、

 今では普通に立つことができる。

 筋トレも少しずつできる様になって来た。

 ただ足を上げ下げするだけだが…。

 それでもする度に、不思議と、

 力がついた様な感じがするので、

 少し楽しい。


 おぼつかない足で、親の元へと向かう。

 親はしゃがんで、俺が来るのを待っている。

 たどり着いた俺を、母が抱き上げる。

 とっても良い匂いだ。やはり落ち着く。

 流石にもう母乳は飲めないが、

 離乳食の様な物を食べている。

 母乳を飲んでいた俺からすれば久々の食事なのだが、

 正直、あまりおいしくはなかった。


 この一年で、この国はとても不思議だと言うことが分かった。

 どうやら、田舎の方の集落らしく、

 電気は通っていないし、

 かといって、不便な暮らしをしている様には見えない。

 お風呂もなかった。日本人として変な感じだ。

 寝ている間に侍女さんが俺の体を拭いてくれているようなので、

 不潔でいることは無さそうだ。

 祖父は斧を持っていた。

 あのサイズだと、日本では銃刀法違反だ。

 あれの用途は何なのだろうか?

 木こりでもしているのだろうか…。

 だったら良いのだが…。


 母の胸に顔を埋める。


「あらら…この子ったら…恋しいのかしらね?」

「羨ましいもんだな!ところで俺も埋めていいか?」

「だーめ!今はこの子がいるでしょ?」

「はいはい…分かったよ。後でな?」


 父よ…お前は変態なのか…?

 いや、気持ちは分からんでもないさ。

 確かに俺も埋めてるもん。

 だがそれを直球で言うのだ。

 相当な度胸である。

 ん…?後でな…?


「がっはっは!若いって良いのぅ!」

「ゲッ…親父!?聞いてたのか!?」


 祖父が父をからかう。

 少し涙目になっていたのが面白かったが、

 子供の前でそんな話をした方が悪いのだ。

 自業自得ってやつさ。


「おぅおぅ孫よ。可愛いのぉ!」


 母からひったくる様に俺を奪い、

 変顔をする。 荘厳な顔が一瞬で崩れた。

 俺が笑うと祖父もつられて笑い始めた。


 父と母の名前はまだ知らないが、

 祖父はよく部屋にやって来て、

 俺と遊んでくれる時に、

 侍女が名前を呼ぶので知っている。

 ギーモン・ハーキュリーズ

 それが俺の祖父の名前だ。


 俺の名前も最近ようやく分かった。

 ロメディア・ハーキュリーズというらしい。

 よく会う祖父は俺を孫と呼ぶし、

 父や母は俺をロミーと呼ぶ。

 たまに来る侍女さえも、

 あまり俺の事を呼ばないので、

 今まで分からなかったのだが、

 おやつを持って来る際に、

 ロメディア様と呼んだので、恐らく間違いないだろう。


 よくよく考えたらこの家族、

 互いの事を名前で呼ぶ事がほとんどないのだ。

 まともの喋る事が出来る様になった時に、

 侍女に父や母の名前を聞いておこう。


 部屋には本が置いてある。

 どうやら神様の話が書いてある様だが、

 正直、俺は信じていない。

 前世で散々な事があったのだ。

 信じられるわけがない。


 しかし、文字が全く違うので、

 少しずつ読んで、勉強している。

 数単語読める様になったぐらいだろう。


 立てる様になってからは、

 家の捜索範囲が広がった。

 今まで行けなかった二階に行けるのだ。

 二階の端の部屋は、いつも鍵がかかっているのだが、

 今日は開いていた。

 中をのぞいて驚愕した。


 剣が立て掛けられているのだ。

 それも一本二本どころではなく、

 数十本もだ。どこかで戦争する気なのだろうか。


 俺は焦って階段を降りた。

 焦っていたせいでおぼつかない足が絡まり、

 足を滑らせてしまった。


(やっちまった!俺のバカヤロウ!)


 階段を転がり落ちる。

 幸い低めだったからか、大きな怪我はしていない様だが、

 身体中が痛い。打撲などをした様だ。


「キャアアア!」


 恐ろしいほどの悲鳴が聞こえる。

 叫びをあげた侍女達が俺を見ている。

 皆慌てていて、あたふたしている。

 母が悲鳴を聞き、急いで駆け寄って来た。


「ロミー!大丈夫なの!?あぁ!傷だらけね…」


 母の言う通り、俺は満身創痍だ。

 もう少し高い位置から落ちたら、

 間違いなく死んでいた。


「ママが来たからね!もう痛くないよ。大丈夫。光よ この者の傷を癒し、加護をせよ“休復(セラピア)!”」


 傷がみるみる内に消えてゆく。

 それに階段を降りる前より、

 ちょっと元気になった気がする。

 俺は先程までの焦りをなくし、

 母へと、羨望の眼差しを向ける。

 この国は…

 いや、この世界はどうやら、

 俺の住んでいた世界とは全く違い、

 魔法や剣が扱える世界の様だ。


 前世ではRPG系のゲームが好きだった俺にとって、

 この世界は夢の様な世界だ。


 父と祖父が二人で大慌てでやって来た。

 父は大汗を、祖父は目に涙を浮かべながら。


「孫は!孫はどうなったのじゃ!」

「おい!ロミー!どこだ!」


 狼狽える二人が目に入った母が、

 半分呆れて、現状を話す。

 それを聞いた父達は、

 安心した様に俺を抱きかかえて来た。

 良かった。本当に良かったと、

 祖父は繰り返している。

 本当に俺のことが好きなのだろう。


 今日はすごい1日だった。

 魔法を使われたのだ。

 ここは間違いなく異世界なのだ。


 俺は筋トレをしながら眠りについた。

 まだもう一つ、とんでもない事実がある事を知らずに…。



クソぅ…ロメディアと父め…

羨ましいすぎるだろっ!

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