第36話 『初恋の相手』
俺は今、街をぶらぶらしている。
ロミーとヴェナは11個目の難行である、
人助けクエストをしているし、
ギーモンの野郎はヒュドラの研究中だそうだ。
ってことでやる事のなくなった俺は、
ヴェンダイル獣人国に居る。
丁度ヒュドラの生息地域に近いんだとかで、
人族の国よりもこっちの方を選んだわけだが、
ここは俺の因縁の場だったりする訳だ。
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禁断の初恋が会った。
俺は平民階級だったんだが、
相手は貴族の女性。
なんとも美しい兎耳の獣人だ。
白い肌に赤い目、黒髪に長い足。
全てが美しく見えた。
しかし階級が階級で、まともに話すらできやしねぇ。
俺はずっと狙ってたさ。少しでも話せるチャンスをな。
そんなある日のことだった。
あの子が宝石を落としたんだ。
そりゃ見事な位静かに。
落としたことにすら気付いていなかったな。
チャンスだと思った。
これで話すきっかけが出来たと。
嬉かったし、何より人助けをしたんだ。
これで何か交流が出来れば、それで十分だった。
その宝石を拾って、家に持って帰ったさ。
明日の朝一、伺いに行こうって。
その日はその宝石を握り締めたまま寝たな。
あの子が持ってた物だって、
ウキウキしてた。
だがこの選択は間違っていた。
すぐに渡しておきゃ良かったんだ。
次の日の朝一、
俺は貴族街に行って、あの子の家を探した。
獣人の中では有力貴族で、
中々大きい家だったな。
ワクワクしながら戸を叩いた。
すいません!落し物の宝石を届けにきましたって。
すぐに衛兵の方が扉を開いて、
俺を中に入れてくれた。
そこであの子に初めて話しかけられた。
「其方が妾の落とした宝石を拾ってくれた平民か?」
気品のある上品な声で、
声を聞くだけで心が浄化されそうだった。
「はい、昨晩落としていらっしゃったので、
それを届けに参りました」
「ほう?昨晩、とな?
何故に昨晩の内に妾の手に届けに来なかったのだ?」
斜め上の返答が帰ってきた。
落し物を届けたから謝ってくれると、
楽観的に考えていたのだ。
「え、えっと、夜分遅くだった物で、
届けに参るのは失礼かな、と思いまして」
「ほう、一理あるな。
だが、妾は昨晩貴族街しか歩いておらぬ。
落とす所を見たのであれば、
すぐにでも追いかけて渡すことぐらい、
出来たのでは無いのか?」
その通りだ。
だが、俺はゆっくり話をしたかったので、
昨晩は帰ったのだ。
言葉が出ない。
しかし弁明しなければすぐにでも牢獄行きだ。
なんとかしなければ、
なんとか言い訳をしなければ。
「申し訳御座いませんでした!
私は貴殿の事を密かに思っており、
階級の違いから、話せずにおりました!
しかし、昨晩貴殿が宝石を落とした際に、
少しでも長く話してみたいと、
欲が出てしまったのです!」
何を言ってるんだ俺は!?
言いたくも無いことが俺の制御を無視して、
喉を通り過ぎていく。
「もう良いぞ。理由は分かった」
魔法道具を使われていた。
思って居る事を無理矢理吐かせるような魔法道具もあるのだ。
「ふむ、平民風情が妾の美貌に恋をしたと言うのか。
それは仕方あるまい。妾が美しすぎるのがいかんのだ。
しかし少し気掛かりな点があるのは、
何故妾が宝石を落とした時に、
貴族街に其方はおったのだ?」
獣人にとって、
己の尾行に気付けないのは、
名誉に傷を付けるような事である。
己の鼻は効いていないと言うものを、
露見させる様な事なのだ。
ここで俺の尾行に気付いた場合、
彼女の地位は崩れ落ちるだろう。
衛兵が先程の魔法道具を、
俺に近づけてきた。
このままでは、彼女が大変なことになる。
そう考えた時には、
行動に移っていた。
「なっ!え、衛兵!
この者を捕らえよ!殺してくれるなよ!
此奴を捕まえて、この愚行の理由を、
聞き出さねばならん!
その後は奴隷商にでも売ってしまえ!」
最後まで抵抗したが、
虚しく捕まってしまった。
ここまで無力とは思ってなかったし、
ショックだった。
「反逆者よ!何故兵に襲いかかった!」
口は開かない。開いたら彼女の獣人生は終わりだ。
「衛兵!道具を使え!」
このままでは無理矢理口を割られてしまう。
ならやられる前にやればいい。
「君を守る為だったんだ!」
「其方、今なんと?」
「守る為だったんだ。
君の地位を、君の笑顔を」
彼女はしばらく考え込み、
何かを思いついた様に、
目を見開き、顔を赤くした。
「其方、まさか……」
答え終わる前に、
俺は衛兵に連れていかれ、
奴隷商に売られてしまった。
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その後はアウェルザータ家に買われ、
養子になり、
ロミーに出会ったわけだ。
そして今に至る。
「そこの者!待たれよ!」
後ろから声が聞こえる。
しかし、俺は只の旅人で、
話しかけられるはずもない。
無視して歩いて居ると、
肩を掴まれた。
「追いついた。
其方はあの時の獣人であろう?」
彼女だ。兎耳獣人の懐かしい顔が、
そこにはあった。
「ん?あんた、あの時の!」
「思い出してくれたか!
其方には悪い事をしてしまった。
妾の獣人としてのプライドを守ってくれたのであろう?
誠に感謝しておるのだ」
「そうかい。そりゃどうもな」
去ろうとするが、
回り込まれ、行く手を阻まれる。
「待ってくれ!名前だけでも、
名前だけでいい!教えてくれ!」
「ヴォーラフ・アウェルザータ。
昔は平民だったが、
今じゃ貴族の仲間入りだ」
目を見開き、残念そうな顔をして居る。
「そうか、其方……もう契りを結んでおったか……」
気を落として、
薄笑いを浮かべながら去る姿は、
とても悲しげで、話しかけられずには居られなかった。
「待て、俺は養子になっただけだ。
今は旅をして居る」
少し顔を明るくした。
顔を少し赤らめ、嬉しそうな顔をした。
「ならば、その旅に妾も同行したい!
頼む!行かせてくれぬか?」
「俺じゃなくて、俺のパーティメンバーに言ってくれよな」
「承知した!では妾も付いていくが、
良いかの?良いじゃろう?」
「構わねぇよ。んで、名前は?」
「ワーザック・アーカベーター!
内面は獣人よりも、魔王の血の方が濃いがの!」
アーカベーター。
その昔、英雄と呼ばれた穏健派魔王の名前だった。




