表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/60

第36話 『初恋の相手』

俺は今、街をぶらぶらしている。

ロミーとヴェナは11個目の難行である、

人助けクエストをしているし、

ギーモンの野郎はヒュドラの研究中だそうだ。


ってことでやる事のなくなった俺は、

ヴェンダイル獣人国に居る。

丁度ヒュドラの生息地域に近いんだとかで、

人族の国よりもこっちの方を選んだわけだが、

ここは俺の因縁の場だったりする訳だ。


-----


禁断の初恋が会った。

俺は平民階級だったんだが、

相手は貴族の女性。

なんとも美しい兎耳の獣人だ。

白い肌に赤い目、黒髪に長い足。

全てが美しく見えた。


しかし階級が階級で、まともに話すらできやしねぇ。

俺はずっと狙ってたさ。少しでも話せるチャンスをな。


そんなある日のことだった。

あの子が宝石を落としたんだ。

そりゃ見事な位静かに。

落としたことにすら気付いていなかったな。


チャンスだと思った。

これで話すきっかけが出来たと。

嬉かったし、何より人助けをしたんだ。

これで何か交流が出来れば、それで十分だった。

その宝石を拾って、家に持って帰ったさ。

明日の朝一、伺いに行こうって。

その日はその宝石を握り締めたまま寝たな。

あの子が持ってた物だって、

ウキウキしてた。


だがこの選択は間違っていた。

すぐに渡しておきゃ良かったんだ。


次の日の朝一、

俺は貴族街に行って、あの子の家を探した。

獣人の中では有力貴族で、

中々大きい家だったな。


ワクワクしながら戸を叩いた。

すいません!落し物の宝石を届けにきましたって。


すぐに衛兵の方が扉を開いて、

俺を中に入れてくれた。

そこであの子に初めて話しかけられた。


「其方が妾の落とした宝石を拾ってくれた平民か?」


気品のある上品な声で、

声を聞くだけで心が浄化されそうだった。


「はい、昨晩落としていらっしゃったので、

それを届けに参りました」

「ほう?昨晩、とな?

何故に昨晩の内に妾の手に届けに来なかったのだ?」


斜め上の返答が帰ってきた。

落し物を届けたから謝ってくれると、

楽観的に考えていたのだ。


「え、えっと、夜分遅くだった物で、

届けに参るのは失礼かな、と思いまして」

「ほう、一理あるな。

だが、妾は昨晩貴族街しか歩いておらぬ。

落とす所を見たのであれば、

すぐにでも追いかけて渡すことぐらい、

出来たのでは無いのか?」


その通りだ。

だが、俺はゆっくり話をしたかったので、

昨晩は帰ったのだ。


言葉が出ない。

しかし弁明しなければすぐにでも牢獄行きだ。

なんとかしなければ、

なんとか言い訳をしなければ。


「申し訳御座いませんでした!

私は貴殿の事を密かに思っており、

階級の違いから、話せずにおりました!

しかし、昨晩貴殿が宝石を落とした際に、

少しでも長く話してみたいと、

欲が出てしまったのです!」


何を言ってるんだ俺は!?

言いたくも無いことが俺の制御を無視して、

喉を通り過ぎていく。


「もう良いぞ。理由は分かった」


魔法道具を使われていた。

思って居る事を無理矢理吐かせるような魔法道具もあるのだ。


「ふむ、平民風情が妾の美貌に恋をしたと言うのか。

それは仕方あるまい。妾が美しすぎるのがいかんのだ。

しかし少し気掛かりな点があるのは、

何故妾が宝石を落とした時に、

貴族街に其方はおったのだ?」


獣人にとって、

己の尾行に気付けないのは、

名誉に傷を付けるような事である。

己の鼻は効いていないと言うものを、

露見させる様な事なのだ。

ここで俺の尾行に気付いた場合、

彼女の地位は崩れ落ちるだろう。


衛兵が先程の魔法道具を、

俺に近づけてきた。

このままでは、彼女が大変なことになる。

そう考えた時には、

行動に移っていた。


「なっ!え、衛兵!

この者を捕らえよ!殺してくれるなよ!

此奴を捕まえて、この愚行の理由を、

聞き出さねばならん!

その後は奴隷商にでも売ってしまえ!」


最後まで抵抗したが、

虚しく捕まってしまった。

ここまで無力とは思ってなかったし、

ショックだった。


「反逆者よ!何故兵に襲いかかった!」


口は開かない。開いたら彼女の獣人生は終わりだ。


「衛兵!道具を使え!」


このままでは無理矢理口を割られてしまう。

ならやられる前にやればいい。


「君を守る為だったんだ!」

「其方、今なんと?」

「守る為だったんだ。

君の地位を、君の笑顔を」


彼女はしばらく考え込み、

何かを思いついた様に、

目を見開き、顔を赤くした。


「其方、まさか……」


答え終わる前に、

俺は衛兵に連れていかれ、

奴隷商に売られてしまった。


-----


その後はアウェルザータ家に買われ、

養子になり、

ロミーに出会ったわけだ。

そして今に至る。


「そこの者!待たれよ!」


後ろから声が聞こえる。

しかし、俺は只の旅人で、

話しかけられるはずもない。


無視して歩いて居ると、

肩を掴まれた。


「追いついた。

其方はあの時の獣人であろう?」


彼女だ。兎耳獣人の懐かしい顔が、

そこにはあった。


「ん?あんた、あの時の!」

「思い出してくれたか!

其方には悪い事をしてしまった。

妾の獣人としてのプライドを守ってくれたのであろう?

誠に感謝しておるのだ」

「そうかい。そりゃどうもな」


去ろうとするが、

回り込まれ、行く手を阻まれる。


「待ってくれ!名前だけでも、

名前だけでいい!教えてくれ!」

「ヴォーラフ・アウェルザータ。

昔は平民だったが、

今じゃ貴族の仲間入りだ」


目を見開き、残念そうな顔をして居る。


「そうか、其方……もう契りを結んでおったか……」


気を落として、

薄笑いを浮かべながら去る姿は、

とても悲しげで、話しかけられずには居られなかった。


「待て、俺は養子になっただけだ。

今は旅をして居る」


少し顔を明るくした。

顔を少し赤らめ、嬉しそうな顔をした。


「ならば、その旅に妾も同行したい!

頼む!行かせてくれぬか?」

「俺じゃなくて、俺のパーティメンバーに言ってくれよな」

「承知した!では妾も付いていくが、

良いかの?良いじゃろう?」

「構わねぇよ。んで、名前は?」

「ワーザック・アーカベーター!

内面は獣人よりも、魔王の血の方が濃いがの!」


アーカベーター。

その昔、英雄と呼ばれた穏健派魔王の名前だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ