第30話 『目覚めと魔法石と』
腹部に強烈な痛みを感じる。
衝撃によって体内に溜まっていた空気が吐き出され、飛び起きる。
「ほらな?起きたろ?じじいのは甘いんだよ」
咳込みながら起き上がり腹部を見ると、
くっきりと獣の足型に跡が付いている。
思い切り踏まれたようだ。
「おい、犬っころ。儂の孫娘が痛みを感じ取ったら、お前は今晩の飯になると思っておれ」
ヴォーラフの顔が段々青白くなっていくのがおもしろい。
仕方ないなぁ犬っころ。助け舟を出してあげよう。
「痛いですお爺様。やっちゃってください」
「Nooooooo!?」
さて調理が始まったが、ヴェナの姿が見えない。
「お爺様、ヴェナお嬢様は何処へ?」
「む?まだ寝とるはずだが?テントの中におらんか?」
言われた通りテントを確認するがいない。
妙に胸騒ぎがするし、嫌な予感がする。
「お爺様、いません!
夕食より先に探さなければ!」
ギーモンが慌てて調理を辞め、意識を集中させる。
ボコボコになった犬肉が、ふらふらと立ち上がり、ヴェナのテント内の匂いを嗅ぎ始めた。
「……変態かもしれない。」
「変態じゃねぇよ!獣人はな、人間の数倍は鼻が効くんだよ!
この分だと匂いは足跡は山頂に続いてるぜ。
どうするよ爺さん?」
「そうじゃのぅ。今探知にかけたが、
間違いなく山の山頂付近で、
妙な男に絡まれとるのぅ」
ここら辺で妙な男といえば、
ヴォーラフと盗賊団しかいない。
なら先回りをすればヴェナは取り返すことができるはずだ。
もしもの話だが、
ヴェナが盗賊団に拐われ、売られたりした場合、
パーティは解散で難行クエストは再開できなくなり、
アウェウスの手によって俺は首を吊られてしまう。
なんとしてでも避けねば。
「お爺様!盗賊団の隠れ家はどこですか?」
ギーモンが剣に土属性魔法付与を施した。
ニヤリと笑い、地面に突き刺す。
「目の前じゃ」
足場が崩壊し、下にある空洞へと落とされる。
しばらくヴォーラフと唖然としていたが、
ギーモンが走り出したのを見て我に帰り、
一緒に走り出した。
ギーモンによれば、
この山の中はアリの巣のように空洞だらけで、
至る所に隠れ家の通路があると言う。
山頂付近には大量の穴が空いているという。
昔はこの穴から溶岩があふれ出ていたらしいが、
今は火山として機能していないとされている。
「ほぅれ見つけたぞい!」
言葉を言い終わるかどうかの時に、
前を走っていた盗賊3人の首がとぶ。
盗賊のうち二人で持っていた黒い袋が落ち、
中から呻き声が漏れる。
「びえぇぇぇん!怖かったよぉぉぉ!」
泣き出したヴェナにやれやれとヴォーラフが宥めにかかるが、
その腕をはたき落とし、俺に飛びかかってきた。
まるで獲物を見つけた猫のような飛び方だった。
「ろみ、ろびぃ、こわがだ、怖がっだよぉ」
よほど恐ろしい事を言われたのだろうか、
体が震えっぱなしだが、
怖い思いをしたのはヴェナだけではないのだ。
俺だって首がかかってた。物理的な意味で。
「分かりました、お嬢様は私がお守りいたしますから、
安心して一緒に登りましょう?ね?」
えぐえぐと嗚咽を漏らしながら俺に体重を預けてくる。
年頃の女の子がこんなおじさんにお姫様抱っこされて恥ずかしくないのだろうか。
おっといけねぇ。俺は同い年の女子だったぜ!うひひ。
山頂には目当てのバーガッジ草が大量に生えていた。
依頼内容は一つで良いとされているのだが、
高価な薬草なので、余分にとって売ってしまおうというのと、
沢山取った方がもう一つの目当て、
魔鳥が早く来ると言うからだ。
今晩の夕食が一品増えるとご機嫌なギーモンの裏で、
ガタガタと震えるヴォーラフが魔鳥を見つけた。
「むぅ。まずいのぅ。主サイズじゃ。
あの大きさじゃと2階位クラスの魔物に匹敵するじゃろうなぁ。
弱ったのーどうすればいいのかのー」
うわぁ棒読みだわぁ。一瞬で焼き鳥になるタイプだわぁ。
予想通り短期決戦で魔鳥は焼き鳥になった。
ヴェナが再び拐われそうになる。
貴族故か身体中に宝石の類を付けているのが仇となり、
盗賊や鳥に拐われている。
鷲掴みにされたヴェナを助けるために、
ギーモンはまず足を切り落とし、
次に羽を奪った。
最後の抵抗で竜巻を落としたが、
風属性と水属性が得意な俺は簡単にレジストしたので、意味がなかったのだが。
最近、飲み水を作るために水魔法、
重力魔法のレジストの為に風魔法を使っていたので、
魔力が随分と上がり、
風魔法と水魔法が得意になった。
あとはギーモンが炎属性魔法付与で調理して、
焼かれた鳥の肉を四人で分けて下山している。
ギーモンは水色の大きな魔法石に傷を付け、途中空いていた穴に投げ込んでいた。
下山途中に何度か盗賊に出会ったが、
みんな老人に首チョンパされていっている。
この歳であの機動性。若い頃が気になってくる。
麓の村に入った頃に山から轟音が鳴り響いた。
山頂付近で大爆発が起こり、
連鎖的に下の方まで爆発を起こしていた。
魔法石の爆発の原因は、
魔力の暴走である。
魔力の大元から作り出されているので、
純粋かつ強大な魔力が内に秘められている。
それから魔力が漏れ出せば、
山だろうが海だろうが、
難無く、飲み込んでいくのだ。
ふと冥界の王に使われている魔法石である、
王の石を思い浮かべる。
虹色に光るその石は、
魔力を吸収し大きくなる性質がある。
つまりこの世界最大の魔法石にもなるのだ。
全属性付与である故に、
破壊すれば全属性の爆発が起きるため、
一国程度は簡単に滅びてしまうだろう。
冥界の王恐るべし!
ギルドに3つの難行クリアを伝え、
宿をとる。恐らく明日にはもう出発だろう。
あの爺さんはいっこうに疲れを見せない。
飛んだ化け物だよな。
その夜は疲れのせいでぐっすりと眠れた。
4つ難行が終わりました。
残りの難行は8つです。




