第27話 『獅子と真理』
水筒の中が空になった。
しかし照りつける太陽は、
そんな事御構い無しに日差しを浴びせてくる。
初めに根を上げたのはヴェナだった。
「あついぃぃ。ろみぃぃ。どーにかしてぇ」
…んなこと言われたってな。
俺だってさっきから口の中乾きそうだから、
一言も喋ってないし。
みんな条件は同じなんですよーだ。
それにしても先頭のあの爺さん。
さっきから水筒の水を一滴も飲んでないくせに、喉の渇きを訴えるどころか、
疲れさえ俺たちには見せない。
改めてギーモンが化け物だと感じる。
今はヘリル王国から見て南南東に位置している、
レオラ砂漠の中心を目指している。
何故かって?
難行だよ難行。金貨の為だよ。金貨。
---数時間前---
「ふっふーん。冥界の王もいるし、
ロミーだっているし、
ロミーのお爺様のギーモンさんだっているのよ!
大獅子なんて楽勝よ!
ねっ?ヴォーラフ?」
「ケッ。俺に聞くなよ。
まぁ人族最強の男が無理なら、
もう人族にゃ手を出せねぇクエストにはなっちまうがな。
まぁ行けんだろ。なっ?ロミー?」
「作用でございましょうねー(棒)
それにしてもお爺様。何故この様な秘境へ?」
ヘリル王国領最南に位置するビンゴ高原は、
その雄大な景色故に、昔は観光名所であったが、
近くにあるビンゴ火山が噴火した際に亀裂が入り、
今では崖っぷちの道しか残っていない状態である。
「ロミー。お爺ちゃんにはいつもの話し方で良いのじゃぞ?
それとももう戻れぬ程、心に傷が!?
許さん!ブレイダルは必ずや儂の手で!」
「お爺様、落ち着きなさいませ。
私はヒューゼンベルク家に買われてから、
徹底的な侍女教育を受けましたので、
解放されるまでは、この言葉を貫かなければ、
メリッサに面目が立たないのです」
「ろ、ロミー……。
お主も成長したのぅ。儂はマジ嬉しいぞい」
……マジ?
この爺さんこんな言葉使えたんだ?
「そうそう、何故こんな秘境におるか、
じゃったな?正解は最短ルートで難行を終わらせるためじゃよ。
まずは砂漠の大獅子からじゃ!
行くぞ!我が孫とその主人!それに犬っころ!」
「犬っころ?おい、じじぃ?それって俺の事か?」
ギーモンは答えずに高笑いをして、
軽く敵をなぎ倒して居た。
-----
って事があったのさ。
秘境を抜ければそこは地獄が広がってたよ。
「よし、犬っころ!簡易テントはあるか?」
「おうよ。じじぃの分は無いがな」
「ほざけ。右手に持っとるんじゃろうが」
「っかー!あんた千里眼かなんか持ってんのかよ!?」
「持っとるぞ」
…持ってんのかよ!?
えっ?どういう事?そんなのあんの?
「そう。そんなのあるのさ」
聞こえてるのかよ!?
えっ!?怖い怖い……。
聞かれてるんだった。
恐ろしゅうございますわ?
おほほほほほほ。
「なんてな。儂が出来るのは思念会話ぐらいじゃ。
相手の思考など読めるわけ無かろうて。
ロミーが儂に思念会話して来たから答えたまでじゃよ」
「お、お爺様?私が思念会話を?
した覚えなんてございませんが…?」
「そんなのあんの!?じゃと。
あの頃のヤンチャな孫娘が生きておって良かったわい。
心の中もお淑やかじゃったら、
儂、泣いておったかもしれんのぅ。
もしかするとロミーは知らぬ間に覚えとるのかもしれんな!」
知らぬ間に……かぁ。
んー。考えても仕方がないか。
「はいはーい!私、しつもーん!
なんでこんな砂漠のど真ん中で寝るんですかー?」
「おぉ、ヴェナのお嬢ちゃん。
もう正解が分かっておるではないか。
砂漠のど真ん中じゃから、が正解じゃな」
「……ってぇ言うと、
大獅子がいる中で寝るってのか!?」
「やはり犬っころと言ったところか。
馬鹿じゃのぅ。流石に寝首をかかれちゃ、
儂も普通に死ぬわい。
まぁ一回寝てみるといいわい。
明日の朝、理由がわかるぞい」
ヴォーラフが馬鹿と言われたあたりから、
額に青筋を立てて居たが、
仕方なく簡易テントの中に入り、
寝始めた様だった。
「ロミーや。明日に備えてゆっくりとお眠り?
明日の朝、起きた瞬間から戦闘の始まりじゃぞ!」
ギーモンの言葉の意味がわからないまま、
強い眠気に襲われた。
しまった、魔法の類だ。
敵襲か!?いや、ギーモンは落ち着いたままだ。
では誰が?
その答えは見つからないまま、
深い眠りへと落ちていった。
-----
「………える?……る?」
ん……?なんだ?
目の前には巨大な木が生えている。
枝の先や根の先には小窓の様な物があり、
そこからは街や海が見えた。
「……こえる?……える?……か、き……、
きこ……?」
音の発信源は目の前にいる光の塊だ。
さっきから何か話しかけてきているが、
何も聞こえない。
「ま……やかっ……かな」
途切れ途切れに聞こえる声は、
俺に何かを話しかけている様だ。
ふと、木の根っこにある小窓に目が向いた。
そこにはギーモンが映っている。
ヴォーラフがよだれを垂れ流しておるのも見えるし、
ヴェナが可愛い顔をしているのも見える。
……ここは一体?
夢……なのか?
「……まで!」
光の塊が叫び声の様な物を上げるのと同時に、
意識が途絶えた。
-----
「おい!ロメディア!起きろ!」
ヴォーラフの音魔法で拡張した叫び声で飛び起きる。
いつも思うが、ここまでしなくても。
昨晩の出来事は夢だったのだろうか、
しかしあの巨木は嫌に脳裏に浮かんで来る。
「戦闘中だぞ!寝ぼけてる暇はねぇぞ!」
ヴォーラフの大声と、激しい金属音で、
再び飛び跳ねる。
ギーモンが大獅子と戦闘中だった。
夜の間は襲いたい放題だったはずなのに、
何故今になって?
その理由がすぐに分かった。
あたり一面が砂漠ではなくなって居た。
上を見れば流砂がある。
つまり、地下に落ちてきたのだ。
しかし地下といえど気温は高いし、
何より薄明るい。
光が無い分、砂漠より幾分かマシだが、
喉は乾燥し、水を求めている。
「おぉ!ロミーよ!起きたか!
どうじゃ?驚いたじゃろう?
もうちぃと待っておれ!
今回は、ロミーの出番はなさそうじゃな!
犬っころ!そこにある水筒取ってくれい!」
余裕そうな表情で俺たちに話しかける化け物。
剣線に光が残り、いくつもの剣を振り回している様に見える。
犬っころが投げた水筒を、
大獅子の頭を蹴り上げながら飲み干す。
「っかー!酒は最高じゃのぅ!」
あの爺さん、水筒に酒入れてたのかよ…。
ってか一気に飲み干したけど、
絶対酔っ払うだろ!?
ギーモンが懐からガラス瓶を取り出し、
大獅子に投げつける。
ガラスの破片が目に入らない様に、
反射的に目を瞑った大獅子の背中に、
ギーモンは剣を突き立てた。
大獅子は咆哮をあげ、ヴェナに突進してきた。
「キャァァァァ!ちょっと!ギーモンさん!
助けて!助けてください!
ろ、ろみぃぃぃぃぃ!」
目尻に涙を浮かべながら、叫び声を上げるヴェナ。
……可愛い。
「ほほほ!安心せい!今行くぞい!」
声は空から聞こえてきた。
ギーモンが回転しながら大獅子の首の一太刀を入れる。
巨体がゆっくりと傾く。
大獅子の首は綺麗に落ちた。
…勝負ありだ。
あの大獅子の頭は兜にでもしよう。
「ほっほっほ!魔法耐性は最大の魔物じゃが、
儂の斬属性攻撃を舐めるでないわい!
嘗て魔王幹部を切り捨てた儂の剣が、
三階位如きの猫に負けるわけが無かろうて!」
高笑いをするギーモンを見て、
ふと懐かしい記憶が蘇った。
ギーモンが斧を持って、
俺の部屋に入ってきたときのことだ。
あの時は渋い爺さんだなぁって思ってたけど、
ここまで強いとは思わなかった。
あの斧についてた錆びは、
魔物のものだったと気付くのに時間はかかったが、
今ならわかる。
きっと篦棒に強い魔物だったのだろう。
大獅子を倒した日はヴェナに許可を取って、
ギーモンに抱きつきながら寝た。
改めて、家族に再開した気分になった。
大獅子
レオラ砂漠の中心に生息する巨大な獅子。
水がなくとも生きていける様になっている。
体内水分が少ないため肉は硬く、味はオススメ出来ない。
しかしその皮は魔法耐性持ちで、
どんな魔法でも搔き消す程の耐性を誇る。




