第26話 『黒白の老人』
人族最強の男。
それは最弱種族の人族であるのにもかかわらず、
大量の龍を殺し、戦争などにも駆り出された。
元々の血筋が有力貴族だったため、
国王専属の護衛官になることも出来たが、
家族を優先させたと言われている。
その後しばらくは平穏に暮らして居たと聞いたが、
今は各地を転々とし、人探しをしているらしい。
ヴォーラフはその噂を聞き逃さなかった。
12の難行のクリアには彼の協力は外せないだろう。
ヴォーラフは、
最寄りのギルドで人族最強の男を探していた。
「よぅ!受付の嬢ちゃん!」
「あら?ヴォーラフさん。いらして居たんですね。
12の難行クエストのメンバーが集まりましたか?」
「うぅむ。それがねぇ?
最後の一人を探しててね。
ここに来てない?」
「どちら様ですか?」
「なんていえば良いのかな。
あーっと……そうだ。白龍剣と黒龍剣を使う人。
名前知らないんだけどさ。
なんだっけ?黒白で有名な人だよ」
受付嬢は驚いた様に目を見開き、
勢いよく立ち上がった。
「あ、貴方正気ですか!?
あの黒白のヴォレックを?
彼を仲間に入れるつもりですか!?」
「あぁ、勿論だ。
そうでなきゃ俺達のパーティじゃ
12の難行クエストなんかクリア出来ねぇよ。
来たら俺んとこ教えてくれよ。」
「いや、あの、えぇっと……。
大変申し上げにくいのですが……」
「ほっほっほ。
構わんよ。報酬は金貨5000万枚じゃったかのぅ。
それだけあれば、救えるかもしれん。」
ヴォーラフは今までにない程の殺気を、
背筋で感じとった。
獣人特有の危機察知能力が、
今までにない程、警鐘を鳴らしている。
気がつけばナイフを取り出し、
ヴォレックに対し戦闘体制に入って居た。
「おや?結構結構。
中々の反応スピードですな。
ですが、やはりまだ遅いですぞ。
貴方が戦闘体制に入るに入る間に、
その短剣は粉々じゃからな」
右手から音を立てて弾け飛ぶ短剣は、
獅子でも数分は眠らせることが出来るほどの毒が塗ってあるはずだ。
しかし目の前にいる老人は、
そんな毒がなかったかの様に、
平然とニコニコしている。
「ほぅ。即効性の神経毒。
それもこれは毒龍の物じゃな。
お主はこの短剣の毒でここまで登って来た様じゃな。
さて、手伝ってやっても良いが、
お主以外のメンバーは、強いのかの?」
「あ……あ、え、お、俺より、
強いのが一人だ。」
「まぁまぁ、落ち着きたまえ、
とりあえず、あそこの酒場で話そうではないか。
儂のおごりで構わん」
酒場は小洒落ていて、
なかなか良い雰囲気の場所だった。
「店主殿!今日ここに来る全員にタダ酒を配ってやってくれんか?
金貨500枚でどうじゃ?」
「………毎度あり」
ヴォレックはニコニコと笑って、席に着いた。
酒を注文してから、早速話の続きを始めた。
「待たせてしもうたな。
お主の仲間は、どんな能力を持っておるのじゃ?」
「お……おう、例えばだな。
変な土人形を使ったり、
異常な精度の魔法付与を使う、
化け物だ。正直、若いからって侮れねぇし、
下手な冒険者とは比べ物にならねぇ。
だが身分は奴隷だ。
今から数年前に送られて来たが、
過去のことを全く話さないもんでな。
奴隷の前は有力な貴族だったって事しかしらねぇ。」
老人は腰の辺りまで伸ばした髭を触りながら、
ため息を吐いた。
「………そうじゃなぁ。
最近多いのかのぅ?貴族が奴隷になるって事は」
「まぁ数年前まで奴隷商だった俺から言わせてもらうが、
結構多いもんだぜ。
結構下らねぇ内容で奴隷にさせられる奴。
ヘリル王は何を考えてらっしゃるのか」
「……全くじゃな。……全くその通りじゃ。
少し、懐かしい事を、思い出してしもうた。
儂の孫も数年前に奴隷になってしもうたんじゃがな。
可愛い子じゃった。
赤子の頃は、儂の事が苦手じゃったんかは知らんがな?
儂の手に抱かれながら漏らしたりしたしのぅ。
手強い魔物を討伐した時のことじゃ。
ある竜種を討伐したんじゃが、
恐ろしく強くてのぅ。命の危機も感じたほどじゃ。
討伐した後、改めて感じたわい。
いつ孫に会えんくなるか分からんってな。
その時は只々、無性に孫に会いたくなってのぅ。
うっかり斧を持ったまま部屋に入ってしまったんじゃ。
孫は斧を持つなり、大声で泣いたんじゃ。
しまった!そう思うた記憶があるわい。
やはり魔物といえど、生き物じゃからなぁ。
孫は優しい子じゃと思ったわい。
どんな生き物にも家族が、そして孫がおる。
なぁに、簡単なことじゃ。
儂らとなんの変わりもないんじゃよ。
それを孫は教えてくれたんじゃ。
……優しい子じゃった。
今の国王はご乱心なさっておる。
儂の孫は国家転覆罪で、奴隷にされてしもうた。
王は孫の一切の弁論を認めなかった。
そして親を投獄し、従者を殺した。
今の王では、投獄は死刑と同じじゃろうな。
飯を与えておった様子は見られんかったからのぅ。
恐らく白骨死体が見つかる。
儂は孫の足取りを、この数年間全く見つけられんかった。
様々な所の奴隷商に聞いて回ったが、
皆知らないの一点張りでの。
……ヴォーラフとやら、
なんで優しい子ほど苦しい思いをせねばならんのかのぅ?」
ヴォレックは静かに、泣いていた。
今のヴォレックは、
先ほどまでの殺気はどこに行ったのかというほど弱り切っている、
ただの老いぼれだった。
「俺は、神なんぞ信じちゃいないが、
きっと何かの巡り合わせって奴なんじゃないか?
なんて言うんだったか……運命?」
「……運命か。
儂は孫に可哀想な運命を背負わせてしまったのかものぅ。
もしかしたら何処かで……もう……」
「おいおいおい、待てって!
こんなとこで泣いちゃいけねぇよ、爺さん。
まだ望みは捨てるなって。
死んだって決まったわけじゃねぇだろ?
ならまだ行けるって。孫探しに行こうぜ?」
「すまんのぅ。
お主には全く関係のない話じゃったな。
励ましは有難く受け取るとしよう。
さて、お主がパーティリーダーか?
名を教えてくれ!」
「……急だな。」
「ほっほっほ。言うな、言うな。
折角楽しい雰囲気を出してやったのに。
ほれ言うてみぃ。名をなんと言う?」
「ヴォーラフ、ヴォーラフ・アウェルザータ。
アウェルザータは昔の飼い主の名前だ。」
「ほう!アウェルザータの奴隷じゃったのか!
儂もアウェルザータには何度も世話になっておる。
獣人種族の有力貴族、すなわち覇者じゃったかのぅ?」
「そうだ。爺さん詳しいな。
その通り、一応今の扱いは養子になってる。
獣人種族の覇者アウェルザータ家の者だ」
「ほっほっほ!
良い情報が知れたわい。
さて、儂の番じゃな!」
「いや、ヴォレックだろ?知ってるよ。」
「ほっほっほ!
そりゃ一部じゃろう?
ギーモン・ヴォレック・リグ・ハーキュリーズ。
元王宮財政担当大臣で、
黒龍剣と白龍剣の使い手、
黒白のヴォレックじゃ!
最近はこっちの方が有名じゃな。
昔はギーモンの方が有名じゃったのに、
いつからこっちの名が普及し始めたんじゃ……?」
……リグ…ハーキュリーズ?
確かあいつの名前は……。
「なぁヴォレック?」
「ギーモンで良い。どうしたヴォーラフよ」
「あんたの孫…知ってるかもしれねぇ」
ギーモンの叫び声は、町中に轟いた。




