第1話 『未知との遭遇?』
眼が覚めた
正直眼は覚めて欲しくなかった。
だって俺は蜂の巣だったし、
後遺症が残ってないわけなどないのだ。
というより、意識を失う直前に、
「父さん、母さん待ってろよ」
なんて思っていたのだ。
気恥ずかしいったらありゃしない。
だがなんで生きてるんだろう。
俺ってそんなしぶとかったっけ。
周りを見渡すと、黒髪の男と金髪の女性がいる。
男の方は東洋人では無さそうな、
とてもハンサムな顔立ちだ。正直嫉妬物だ。
それに金髪の女性は俺を見たまま涙を流して、
笑っている。自然な金色だ。
美しい顔立ちなのに、
顔をくしゃくしゃにしている。
嬉し泣きとかいうやつだろうか?
顔を見るに欧米の方だろうか。
誰なんだ?
一番にそう思った。
俺に金髪の親族なんていないし、
まして、どちらも欧米人のような顔立ち。
病院の人かとも思ったが、ナース服でもない。
ましてや白衣でもないので、親族だろう。
二人は笑顔で顔を合わせて話をしていたが、
その内容は…正直、耳を疑った。
「ーー。ー。ーー。ー。」
そう。分からないのだ。
思った通りだった。
俺には後遺症が残り、
言語が分からなくなっているのだ。
あぁ…クソ。本当に運が悪い。
死ぬより苦しい生き地獄だ!
いや…まだ分からない。
実際は一時的なものかもしれないし、
話しかけてみよう。
「ぶー。ぶー。」
二人組がこっちを見て、目を輝かせた。
なん……だと!?そんな馬鹿な!?
声にまで、後遺症が残ってしまったというのか…
俺は自分の運の無さに堪えきれず、泣いてしまった。
それも大声で。
「ーーー!ー、ー。ーーーーー!!!」
「ーー。ーーー。ーーーーー!」
二人は安心した様に互いを見つめ合い、
抱き合っている。なんだ…このカップル。
他人の不幸を目の前に、自分達の幸せを噛み締める。
はぁ…満身創痍で後遺症が残ってる。
その上、相当性格が悪いやつが目の前だ。
ついてないのにも程がある。
神など信じてないが、
もしいるのであれば、八つ裂きにして、
断罪したい気分だ。
考えているうちに、女の方が動いた。
俺を持ち上げたのだ。
筋トレのしすぎで、90kgを超えた俺を、
簡単に持ち上げ、高く突き上げる。
恐ろしい女だ。バケモノみたいな腕力を…
そう思っていると今度は男も俺を持ち上げた。
なんて恐ろしいカップルだ。
やけくそになって笑みが漏れた。
もう笑ってやろう。何が起こっても笑おうと。
カップルは笑っていた。
そして俺を抱きしめたのだ。
俺の生存がそんなに嬉しかったか。
俺も嬉しくなるな。
そういえば…と。
俺は満身創痍なはずなのだが…
痛みを感じない。
痛覚がいかれたか…それとも鎮痛剤か何かか…
自分の手が目に入る。小さかった。
足が目に入る。それも小さかった。
赤ん坊への脳移植の成功か
はたまた夢でも見てるのか。
夢だ。夢としかありえない。
いや、これがいわゆる楽園
ってやつなのだろうか。
涙が出そうになる。だが泣かない。
さっき決めたばかりじゃないか。
何が起こっても笑うんだ。
たとえ俺が赤ん坊であろうと、夢であろうと。
もし俺が赤ん坊となると、
目の前にいるこのカップルは…
俺の親ということになる。
目の前にいる男はハンサムで、
目の前にいる女は超美人だ。
こりゃ…俺の将来は…超美男子だな…。
楽しみだ。この世界で俺は…。
親達は俺を抱き上げたまま家を移動する。
結構広い家だ。母に持ち上げられているのだが、
とてもいい匂いがする。えへへ。
廊下には侍女がいて、俺達を見る度にお辞儀をする。
俺は王様になった気分だ。
ずっと母親に抱かれていたのだが、
どうやら父も相当抱っこしたいらしい。
母は意地悪そうに笑い、
俺を離さない。
父はそれに対し、
笑顔で抗議している。
バカップルとかいうやつなのだろうか。
実に羨ましい。俺にもさせろ。
父と母は暫く話した様で、
母は渋々俺を父に渡した。
父は力が少し強かったが、
優しく俺を扱っているのがわかる。
そんな俺に絶望的な危機が訪れる。
急な腹痛が俺を襲う。
まずい。実にまずい。
このままだと俺は確実におもらしをしてしまう。
こんな年齢になって……。
…ん?年齢?
待てよ…俺って今…
ふっふっふ。父よ…うん が無かったな。
許せ父よ。仕方のない事なのだ。
俺は父の腕の中で遠慮なく放出した。
父は何か叫んで、
それに母が笑っている。
とても幸せそうだ。もちろん俺も幸せである。
そんなこんなで、俺の転生は、
華麗に、そして散々な結果で成功したのである。