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プロローグ

 28歳 貯金なし元フリーター

 人生に疲れた筋トレ好きな元エリートの負け犬さ。

 10年前に大学受験に落ちて以来、

 次から次へと不幸が襲いかかってきて、

 なんとかなると思って浪人して受けた受験も失敗。

 フリーターになって、給料を親に渡したり

 していたが、親が渡したお金を貯めすぎたが為に、

 俺が仕事に行っている間を、空き巣に狙われ、不運にも遭遇し他界。

 親殺しの犯人はマスクをして居た為、

 しばらく発見されず、数ヶ月後に発見。

 懲役はたったの5年。

 おかしいと思ったが、それを指摘する気も失せた。

 それ以来 何をするにも無気力となり、

 フリーターもする気が失せ、

 兄弟には役に立たない筋肉バカと呼ばれている。



 親が無くなって遺産分配をされ早一年経つが、

 俺は働かなかったために、貯金が尽きかけている。

 兄弟に助けを求めて見たものの、

 親殺しの原因は実質俺であった為、

 余り良い様には扱われなかった。


 かといって仕事をする気力もないので、

 働くつもりもないが、どうにかなると、

 どこかでそう思っている。


 そうやって何もせずに居たが、

 そろそろ今月分のお金が底をつく為、

 銀行に行かねばならないのだが、

 今回分が最後の引き下ろしになり、

 これが終わると、俺にあてはない。


 俺はどうなるのだろうか。


 兄弟からは既に関係を断たれ、

 親族からは爪弾きされている俺にとって、

 いや、俺以外もそうだが、

 お金がなくなる事は死を意味する。


 いや。簡単だ。ただ働けば良いのだ。

 そうすればお金も入ってくるし、

 飢えることもなく、幸せな人生が待っているだろう。


 じゃあ、何故しないのか。


 正直、嫌だった。親を殺した様な奴が、

 たったの五年で社会に復帰し、

 手を取り合って、日本を支える気など

 さらさらないのだ。


 親が死んだ時、俺の心は折れていた。

 給料を親に渡すほど、俺は親が好きだったのだ。

 浪人に失敗までして、相当なお金を使わせてしまったのに、笑顔で俺にご飯を出してくれた。

 その親を殺されたのだ。


 せめて親が生きて居たら……。


 後悔の念が襲ってくる。

 あの時、浪人して居なければ……

 あの時、大学に合格していれば……

 あの時、俺が家に居たなら……

 あの時、給料を使って旅行に行っていれば……


「……………あぁ……畜生」


 夏前だというのに、気温はぐんぐんと上がって行く。春明けだから長袖を着ていたのだが、

 周りは半袖ばかりだった。

 引きこもっていた弊害である。

 後悔と怒りが同時に湧き出てくる。


「あの時、もっとしっかりとしていれば…」


 言葉にせずにいられなかった。

 最初にも言ったが、俺だって元エリートなのだ。

 3人兄弟の末っ子として生まれ、

 兄と姉がそれぞれ1人ずついる。

 小学生の頃に塾に入り、中学受験を受け、

 それに成功。中学時代は友達と馬鹿やったり、

 部活を楽しんだり、青春を満喫していた。

 だが高校に入り、周りが変わった。

 今まで馬鹿やってた奴等は勉強に集中し、

 たちまち俺は、落ちこぼれていったのだ。

 成績も底辺近くをウロウロし、

 それでも、今までどうにかなったから、

 今回もうまくいく。そういって受けた大学は、

 見事に落ちた。

 それでも認めようとせず、

 運がなかっただけと、浪人し、もう一度受けた。 中学受験を首位で合格した俺は、

 間違いなく行けると信じていた。

 もちろん受験は惨敗に終わった。


 親に諭され、バイトを始めた俺は、

 お金が手に入ったのがとても嬉しかった。

 親に自慢をし、養ってくれる代わりにと、

 給料のほとんどを親に貯金させた。

 旅行に行こう。どうせなら海外に行こう。

 そんな事を考えていた矢先の出来事だった。

 家に帰った俺はその場に崩れ落ちた。

 まさに地獄絵図だった。



 その所為で、バイトにも行かなくなり、クビになり、

 家で筋トレやゲームを繰り返す毎日に呆れ、

 兄や姉には、仕方のない事だとか立ち直れだとか、言われたが、立ち直れるわけがないと、

 心の底から思っていた。

 逆に立ち直った兄や姉の方が不自然だと

 そう思った。

 考えて見れば当然だ。

 親の愛は俺が独占していた様なものだったからだ。

 そんな兄弟から見れば、

 親を殺されたのにもかかわらず、

 立ち直らず、ずっと遊んでいた俺の方が、

 苛つく存在だったろうと思う。

 会うたびに親の死は俺のせいかどうか聞いて、

 掘り返して聞いていたのだが、

 兄弟もそれは良しとせず、

 ふざけるなと怒られたのだ。

 だから今では兄弟も、今では他人同然だ。


 もう一度親に会いたい。

 できれば、楽しかった中学へ

 せめて高校生活をやり直して、

 親を……もう一度…。


 涙が出そうになるのを堪えながら、

 俺は銀行に着いた。

 お金をおろしていると、突如怒鳴り声が響く。


「さっさと金を出しな!」


 悲鳴に包まれる銀行内。

 俺も大汗をかいていた。

 しかし強盗の顔を見てその汗は引いていた。

 黒いマスク。

 忘れもしない。親を殺した奴がつけてたマスクと同じものだった。

 俺は怒りに包まれていた。

 しかし行動できない。怖かった。



 人質がとられた。

 可愛い女の子だった。

 彼氏の様な人が狼狽していたが、

 強盗は無視して、金を要求する。

 俺にも彼女がいたが、

 親が死んで、数ヶ月で別れた。

 俺が唯一の心の寄りとしていたが為、

 愚痴を言いすぎたのだった。

 余り愚痴を言わなければ、そのまま結婚も

 出来たのだろうが、親を亡くした俺には、

 必要はない。そう思っていたが、

 今思うと、とても寂しいし、話し相手ぐらいにはなってほしい。


 と変な事を考えていたが、

 強盗が威嚇射撃をしたことで、理性を取り戻す。

 このままでは危ない!

 助けを呼ぼうにも、どうにもできない。

 スマホも奪われてるし、

 というより、銀行員が助けをよぶだろう。

 どうすれば……どうすれば……。


 考えているうちに、銀行は警察に囲まれていた。

 犯人は半狂乱になって、人質の足を撃ち抜く。




 銀行内に衝撃が走った。

 足から流れ出る血液が、惨状を物語る。


 俺の理性は吹っ飛んだ。

 助けなくていいのか!?

 親が殺されて以来、筋トレや武術をかじっていたので、一人の無力化なら、出来るだろう。

 このまま銀行が血だらけになり、

 人質以外が助かったとしても後味が悪い。

 目の前の強盗と、親殺しの犯人が重なる。

 親が殺されたのに、繰り返していいのか!?

 いい訳がないだろう!ふざけるんじゃねぇ!


「てめぇ!いい加減にしやがれ!」


 俺は強盗に飛びかかり、無力化した。



 だが…強盗は、1人じゃなかったのだ。

 背後から忍び寄る影は…

 俺を…いや、俺をその強盗とともに

 蜂の巣にして、葬り去った。


 消え去る意識の中、警察が銀行内になだれ込んできているのが見えた。

 よかった。これで残りの人は助かるだろう。


 もう痛みは感じない。

 突き刺す様な暑さは喉元を過ぎた。

 今では氷風呂に入っている様な寒さだ。

 よかった。俺の死は無駄にならない。

 思えば本当に無様な人生だったなぁ。


 目の前は眩い光に包まれている。

 死ぬってこんな感じなんだ。

 父さん…母さん…待ってろよ。


 不思議な事だが、

 俺は血溜まりの中、

 少し幸福に包まれながら、

 ゆっくりと目を瞑り、

 意識を手放した。











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