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「頑張りましたね。」

作者: 夢野うつつ

 先日、私が小学生の頃に大変お世話になった人が亡くなり、葬儀に参列した。突然の訃報に皆が驚き、半信半疑のまま、すすり泣く声だけが絶えなかった。参列者は会場に入りきらないほどで、その人望に改めて偉大な人であったことをしみじみ実感した。

 その人は障害のある私が不自由なく一般の子と同じように小学校に通えるよう、母の代わりに私に付き添ってくださった人である。その人の無償の尽力に支えられて私は母から離れた小学校という空間の中で友達を作り、先生に誉められ、時にしかられ、学び、遊び、けんかをし、そうした当たり前の経験をすることができた。その人はいつもにこにこ笑っていた。その子供好きの明るさは私だけでなく周りの友達までをも照らし、皆その人のことを慕っていた。私に差し伸べられた少し乾燥肌の手のぬくもり、階段を上るときにいつも支えてもらった包容力のある太ももの感覚を今でもありありと思い出すことができる。

 しかし、棺の中にそのぬくもりはなかった。目を閉じた生気のない顔が、笑顔の絶やさなかったその人だとはどうしても思えなかった。涙が出ないのも当然だった。そこにいるのは別人で、また家を訪ねたら笑顔で迎えてくれるような気がしていたのだから。

 それでも、喪主を務めたその人のご主人がかけてくださった言葉が胸にしみて、前を向かなくてはと思うことができた。

「頑張りましたね。」

私が、おかげさまで今は大学生になり、大学の近くに引っ越して元気に過ごしていると報告すると、涙ぐみながらそうおっしゃった。その言葉は天国からその人が笑いかけてくれているかのように聞こえ、ずっと気にかけてくれていたのではないかと思わせてくれた。

 ふり返れば、私は多くの人に支えられて、励まされて生きてきた。今も両親、友人、恋人、沢山の人びとに助けられながら、感謝しながら大学生活を送っている。その原点には優しく見守ってくれたその人の笑顔があるはずだ。その笑顔をもう二度と見ることはできなくても、記憶は不確かなもので徐々に薄れていってしまうとしても、私はあの小学生の頃と変わらずに暖かい人たちに感謝しながら堂々と生きていく。これだけは変わらないと心に誓った。


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