桐生 真斗改めルキアになった俺
〈異世界side〉
そこに広がっていたのは紛れもなく異世界だった。
ありとあらゆる建物が大理石でできているかのような白くて艶のあるものや、橙色の石材であしらわれたもの、様々なものが日本のコンクリートジャングルと違い、味がある。
まるで、建物一つ一つがこの世界を作っているかのような感覚に捕らわれるほどその建物は風景に溶け込んでいた。
俺ははっと息を呑み、その情景に圧倒されていると、
「ねえねえ、異世界に来た感想は?」
謎の少女の一言で目が覚めその声が聞こえた方に目を向ける。
「すげーよ!」
俺が興奮気味でいうと彼女はニコッと笑みを浮かべ
「それなら良かったよ。それでこの世界の話をしたいけれどいいかな?」
俺が頷くと満足そうな顔をして話を続ける。
「ここはね、ブラストという国さ。当たり前だけど、この世界にもいろいろな国があってこの国も結構な大国の部類だよ。
そして、この世界の人々には皆にアビリティという特殊能力が1つ備わっているんだ。そしてそれらはどれも同じものは存在しない。似た性質ならあるけどね。簡単に言うと個性みたいなものさ。
君もこの世界に来た時に備わっていると思うよ」
「マジかよ!どーやったらわかるんだ!?」
「まあ落ち着いて。君のアビリティはこの世界にいた君、ルキアのアビリティを上書きしたよ」
「本当か?俺のアビリティは強いのか!?」
俺は知っている。アビリティものはその能力が強いかで結構な力の差が生まれることに。
だから俺はそのアビリティが強いことを願った。
「いーや、弱いね。だってそうだろ?もし強かったらこの世界にいる君は異世界に行きたいと願わないさ」
俺は誰が見てもわかるほど落胆した。
皆それぞれ持っているアビリティが弱いだって?いきなり差をつけられたじゃないか。
そんな俺を察したのか
「違うよ、この世界のアビリティにめちゃくちゃ弱いアビリティはないよ。君のは扱いがすごく難しいんだ」
それを聞いて希望を取り戻した俺は彼女に目を向けて俺のアビリティの説明を求めた。
彼女はまたニコッと笑って
「君のアビリティはコピーキャット。いわゆるコピーさ」
それを聞いた瞬間、俺は歓喜の声を上げそうになった。
「コピー!?めちゃくちゃチートアビリティじゃねーか。なんでそれが弱いんだ?」
「君のコピーは条件が面倒なのさ。君の意思と関係なく勝手に自動で人のアビリティをコピーしてしまうのさ。
コピーが自動でされるときの条件は〈君が敵意を向けた敵の能力をコピーする〉
そして、〈君がその相手と戦う意思をなくした瞬間、君のコピーは解除される〉また、〈君が2対1で敵と戦っていた場合、君が今攻撃しようとしている敵のアビリティをコピーし、戦いの途中、もう1人の敵に標的を変更した瞬間、そっちの相手の能力をコピーする〉こんなものかな。
つまり君が今戦おうとしている敵のアビリティをコピーできるわけさ。
そしてそのコピーは保存することができなく、すぐ敵意をなくすと解除されてしまう。面倒だろ?」
「確かに条件が厳しいな。でも使い方によってはどんなに強いアビリティでも互角に戦えるんじゃないか?」
「そーかもしれないね。その代わり比較的強くないアビリティ相手に負ける可能性もある。戦闘での知力がものを言うアビリティといえるだろうね」
俺は思わず身震いした。もう1人の俺は馬鹿だ。この能力はうまく使えば強い。その代わりうまく使えないと自滅する能力だ。ギャンブルみたいで楽しいじゃないか。
「そして、このアビリティがさらに使いにくい理由がある。それは大体の人は自分のアビリティを対戦中に言わないことさ。
だってそうだろう?わざわざ自分の秘密をバラす相手がどこにいる?」
「あ、そうか。戦いの途中でこっちが相手がどの能力か考察しないといけないのか。それまではなんの能力を奪ったことすらもわからないのか」
「いーや、君の能力にはもう一つアシストアビリティがあるのさ。アシストアビリティはそれだけだと条件が厳しい人なんかに見られる特別な2つ目の能力さ。アシストアビリティはみんなが持ってるわけではないわけ。
君のアシストアビリティはシークレットピープ。これは相手のステータスをのぞき見できるのさ。相手のアビリティを見ることも可能だよ。もちろんその能力の特性もね」
「人が隠してるアビリティを見ることができるのか。それも条件があるのか?」
「そう。これには敵に一発ダメージを与えなければ相手のステータスを見ることができないよ。
そして、他の敵にダメージを与えた瞬間、その人のステータスを見ることに自動で切り替わる。
だから君は相手のアビリティをコピーしてもそれが何のアビリティか知るためには敵が何のアビリティ持ってるのかわからなくても一発ダメージを与えないとコピーした能力を100%活かすことができないのさ」
「そうか、コピーしても相手に捨て身で一発ダメージを与えないと勝てる見込みが薄いのか」
「あれ?その割には目がキラキラしてるけれど?」
俺は気づかないうちに、この異世界のアビリティという能力にワクワクしていた。
これだ。まさしく俺が求めていた世界は。
「よかった。じゃあとりあえず、君にルキアの記憶を送るね。これで君は路頭に迷わないだろう」
そう言うと彼女は俺の額にキスをした。
「な…!!」
そう思ったのも束の間、すぐに多くの情報が頭に流れ込んできた。
「どう?ルキアの記憶ある?」
「ああ。」
俺は驚いた。今いる俺は紛れもなく桐生 真斗だが、ルキアでもあるかの感覚を覚えるほどルキアの記憶を得ることができた。
「それで君はまず何をするの?」
「まずはアビリティ試しと金を稼ぐために闘技場に行くよ」
俺はそう彼女に伝えると始めた訪れた場所なのに、まるで初めてじゃないかのような感覚を覚えつつ、闘技場に向かった。
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俺と彼女が闘技場に向かっている最中、俺は気になっていたことを聞いた。
「そーいえば、君名前は?」
「いまさら!?まあいいけれど、エリスよ。私は君をこの世界に連れて来たついでに君のこと観察させてもらうよ」
彼女はいつものように屈託のない笑顔を向けて言った。ちょっとだけ見とれたのは内緒。
「そーいえば、あなたにルキアの記憶を与えたけれどどのくらいこの世界の知識を得たの?」
「この世界の仕組みというかルール?みたいなものかな。なぜか闘技場とかの場所はわかるのに闘技場がどういうシステムで戦うかはわからない」
「そーだと思ったよ。ルキアーーもう一人の君というべきかな?ーーは平和主義だったんだよ。だからこの国では男は皆戦士になる義務があるけれど、ルキアは戦士の称号はあれずっと農作業をしてたからね」
「もう一人の俺みたいな変わり者は珍しいのか?」
「いーや、戦士の義務というのは戦争が起きた時、誰でも駆り出すための法律さ。だがら市場とかには普通に男手がでてるよ。でも確かに若いのだと珍しい部類かもね」
「そうか、俺はさっき言った通り、戦士の仕組みとかは知らないんだ。教えてくれないか?」
「そーだな、戦士には8つのレベル分けがされているのさ。上から順にL、S、A+、A、B、C、D、E、Fとね。そしてランクを上げるにはそれ相応の働きが必要なのさ。そのポイントを貯める方法が大きく分けて2つある。
1つは闘技場に出場して戦いって勝つこと。
2つ目は国または国民からの依頼を受けること。
国民からの依頼は主にいくつもあるギルドというところから受けるのさ。もちろん、名があるギルドは入ることは難しいけれど、その分いい仕事が入ってくる。
戦士にとってはこのランクは重要なんだ。このランクで強さが決まり、ランクが高いほど国からの報酬や地位、名声が手に入る。
だからこそランクが高い奴は尊敬されるし、下手にランクの高い奴に逆らえないのさ」
「それで俺のランクは?」
俺はあえて聞くまでもないことを聞いた。
「Fだよ。もう一人の君がサボってたからね。でも大丈夫!Fなんてひとつ何かこなしたらEにすぐ上がれるくらい、無いに等しいランクだから。チュートリアルみたいなものさ」
彼女はそう言うといつものように笑顔を浮かべた。
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しばらく歩くと目の前にとてつもなく大きな建物が見えてきた。
白亜の巨石であしらわれた神殿風の建物や水路があり、透き通るのような水が流れている。その中でもひときわ目立つのがコロシアムだ。
屈強な男たちがそのコロシアムの入り口でたむろっているところを通り、2人は中に入る。
床はモザイクかかった白石が敷き詰められており、コロシアムの会場からは大きな歓声が聞こえる。
その雰囲気に圧倒されていると、不意にエリスが話しかけてきた。
「闘技場のルールについて説明してなかったね。
闘技場はいわば賭け事の場所なの。オッズが互いの兵士に賭けられて戦うのよ。
君はそこの受付でどのランクの人と戦うか選べるわ。もちろん、ランクが上であればあるほど買ったときにもらえるお金が高くなるわ。あと、この世界では戦いで負った怪我ならどんなものでもシスターの回復魔法で治癒できるわ。
怪我の程度によってお金はとられるけれどね」
「そうか、なら俺はとりあえずCのランクと戦うよ」
そう俺が答えるとエリスは驚愕の顔をし、俺の方を前後に揺らしながら言った。
「やめなさい!ランクがそこまで離れてると危ないわ。どんな怪我も治るけれど死んだら元も子もないのよ」
「大丈夫だよ。2ランク上なだけだしFが実質チュートリアルだったら1ランクしか変わらないし。俺あっちの世界では剣道全国ベスト4だったんたぜ?親父がうるさくてやってたけど役に立つ時が来るとはなぁ」
「あなたが剣術に自信があってもアビリティがあるのよ?しかもあなたはアビリティをまだ体験していないわ。危険よ」
「大丈夫、少し格上の方がやる気が出るものさ」
そう言って俺は彼女の制止を聞きもせず受付を済ませた。
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出番が近づいてくると、戦士の待合場所のようなところに通された。
何年もの間でこびりついたのだろう血の匂いがする部屋だった。白かったのだろう壁も血でどす黒く汚れているところが多くある。
俺はそのような光景を目の当たりにしながらも怖さなど微塵にも感じていなかった。
手足は震えていたが、決して恐怖が原因ではない。
俺は人生で初めて武者震いというものを肌で感じた。