ルキア改め桐生 真斗になった俺
〈現実世界side〉
「ここは…?」
俺、ルキアは見知らぬ部屋、見知らぬベッドで目を覚ました。
ここはどこだ?俺は見慣れないたくさんのものがある部屋を不思議に思いながら辺りを見渡していると、
「やあやあ、起きたね。どう?文明が発達した異世界に来た感想は」
謎の少女は空をふわふわと浮きながら俺を見下ろして言った。
「どうと言われても…、ここは本当に異世界なのか?」
そうたずねると少女はニコニコ笑みを浮かべながら言った。
「そーだよ、実感ないかもしれないけれどね。ここが実際に文明が発達した異世界である証拠を見せるよ」
彼女はそう言うと、テーブルの上にあったボコボコ突起物が出ている長方形のような物をいじった。
次の瞬間、目の前の四角い物体が急に明るくなり、その中には入れそうもないのに何人もの人が存在していた。
俺はびっくりしてその四角い物体に詰め寄った。
「なんだこれは!人が入れる大きさじゃないのに何人もの人がこの中にいるぞ!」
彼女は俺の反応を楽しんでるかのようにニヤニヤ笑うと
「そう、これが文明の発達した異世界の科学力よ。これはテレビと言って、どこかで実際に行われた出来事を受信し、あたかも今行われてるように放送されているのよ」
俺は彼女の言っていることが何一つ理解できなかった。唖然としてそのテレビを見続けている。
「そうね、そんなこと言ってもわからないよね。この分だとここで生活する上ではいろいろ苦労が絶えないでしょう…。そうだ、君にはここの世界のルールと君と入れ替わったパラレルワールドの君の記憶をプレゼントするよ。そーすれば、君は今すぐにでもこの世界に順応できる!」
「それを貰えばこのテレビというものもわかるのか?ならよろしく頼む」
「オッケー、ベッドの上に横になって、目を閉じて」
俺はその指示に従い、目を閉じた。
すると、頭の中にいきなり膨大な量の情報が流れ込んでくるのを感じた。
「どう?テレビを理解できる?」
「ああ、ここは俺がいた世界のパラレルワールド。そしてこの世界のもう1人の自分が桐生 真斗ということも、テレビはビデオカメラによって撮られた映像がアンテナから出る電波を受信してみることができることも今までもともと知っていたかのような気分でわかる」
「そう、その通り!」
彼女は満足そうに空を舞った。
「君は今日からルキアではなく、桐生 真斗。
君達は自分が望んだ世界で好きに生きていいよ。それでは私のオペレートもここでおしまい。あとは自分たちの力で頑張ってね」
そう言い、彼女は空間に穴を開けてその中に入っていこうとしていた。
「待ってくれ!なぜこんなことをしたんだ?君は何者なんだ?」
「私?私は君達の概念でいう神様みたいなものだよ。こんなことをした理由?それはパラレルワールドに位置する君達が偶然、自分の世界に嫌気がさし、そして求めてる世界の条件が一致したからだよ。こんなことは今まで私の知る限りなかった。だから試したくなったのさ」
そう彼女はそう言うと手を振りながら自身が創造した穴の中に入って行き、やがてそれは跡形もなく消えた。
俺はそれを見送ったあと、すぐに自分は何がしたいか一晩中を考えた。
そして決めた。ルキア改め桐生 真斗は会社を経営することを。
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「一人暮らしさせてくれ!」
俺が両親ーーといってももう一人の俺のだがーーにそんなお願い事をしたのはつい先月だ。
俺は元々両親がいない。だから昔からアーシアの親が経営する宿屋に住まわせてもらってきた。
両親のいない俺にとって親とどう接すればいいのかよくわからなく、そこで一人暮らしをすることになった。
意外にも両親共々俺の一人暮らしに賛成してくれた。
「お前はここ最近世界に絶望した顔してたから、何かやる気になることが見つかってよかった」ということらしい。
会社を経営することに決めたがその前にやるべき段取りがある。
この数日、まず働くことを学ぶべくコンビニ、ファストフード店、家庭教師を掛け持ちしてやっている。
「ふぅ〜」
今日も学校生活、バイトと忙しかった。
重労働すぎてブラック企業で働いても生きていけるレベル。
ウトウトしながらベッドで横になっていると
「よーす。元気にしてたか?」
そんな聞いたことあることある声で目が覚める。
そこにいたのは数日前にどこかに行ったはずの謎の少女だった。
「なんでお前がここに!?」
「いくら待ってもエリスが戻ってこなくてね。そしたらもう一人の君と行動してるらしくて…私も暇だから君と行動することに決めたわけ」
何を言ってるか理解できない。エリスって誰だ?
「あー、そうだ言ってなかったね。私のねーちゃん」
姉がいるのか。姉がエリスなら君の名前は?
「私?私はリセル。これから共に行動することになると思うけどよろしくね!」
こんなことがあったがなんだかんだこの世界に来て1ヶ月が経とうとしといた。ーーーーー
「ここわからないんだけど、教えて〜」
「ああ、ここは 直線の傾きを使えば解けるよ」
「頭いいね、先輩は!はやく私も高校生になりたいよ〜楽しそう!」
そんなことを言っているのは教え子の東雲 綾だ。中学3年生で何かと高校生に憧れている。
「高校生は楽しいけど、将来のこと考える機会が増えていろいろ鬱になるよ」
「え〜、ちょっと嫌だなぁ。私将来のこと全然考えてないよ。先輩はなんかあるの?」
興味津々な顔で聞いてくる。正直に答えるべきか迷ったが
「俺?俺は会社を経営することだけど」
と正直に答える。
「かっこいいじゃん!やっぱり先輩は違うね
〜。大人っぽくて。私のクラスの男子はなんか馬鹿ばっかりなんだよね。先輩とは付き合ってもいいかも」
そんなことを言いながら上目遣いでからかうように言う。
「はいはい、早く勉強しろ〜じゃないと俺と同じ高校いけないぞ」
そんなことを言っていつもの調子で流していると、いつもふてくさされた顔をして勉強に戻る。
ふとその時、妹がいたらこんな感じなのだろうなと微笑ましく思った。