王の資質を持つ少女
……本当に頭が悪い。
華やかな舞踏会の中、私の前には見目麗しい男性達とその男性達を引き連れながらも居心地が悪そうに演じている性悪女が1人。
その取り巻きの男性の中にはこの国の私の従兄であり、名目上の王位第1位継承者様。
他にも貴族の後継者候補がずらり。
そんな立場ある方達が1人の公爵家令嬢である私を囲んでいるわけです。
これだけの人間が居ながらもなぜ、このような性悪女の本質が見抜けないのかとため息が漏れてしまう。
「聞いているのか?」
「いえ、興味がないので聞いていません」
どうやら、私はこの性悪女に数々の嫌がらせをしたと言う事でこの華やかな場所でこの方達に説明を求められているようです。
嫌がらせの理由は殿下を取られまいとしてらしい。
ただ、正直な話、私はこの婚約者様になんの思い入れなどない。
婚約破棄など勝手にして欲しいのです。
「聞いているのか。証拠は上がっているのだぞ」
「それならば、その証拠を見せてください。証言ではなく、物的な証拠をお願いいたします」
怒鳴りつけられようが婚約者様に元々、興味などないのですから嫌がらせをする理由がない。
仮に私の取り巻きと言われている方達に聞いても私が嫌がらせをするように言った事などない。
偽者を用意するのなら、こちらにも考えがある。
私の言葉に婚約者様は言葉を飲む……どうやら、本当にこの性悪女の証言だけで私に詰め寄ってきているようです。
「勘違いされているので申し上げておきます。私は殿下の事など何とも思っていません。国王様がお父様にどうしてもと頼まれたので私が婚約者の位置に収まっているだけです。だいたい、顔と血筋だけで王の資質もない方と婚約など何の価値もありません」
婚約は現国王様からの申し入れ。
なぜならばこの婚約者様にはこの国の王の証と言われている緋色の瞳を持たずに生まれてきたからです。
この国では緋色の瞳は魔を退けて民の安寧をもたらすと信じられています。
ただの迷信と言う者達もいますが事実、緋色の瞳を持たない者が王位を継ぐと災害や戦火に巻き込まれる。
そのためか、国の多くの者達は王族の資質の中に緋色の瞳を望む。
……そして、婚約者様が持っていない緋色の瞳を持って私が生まれてきたのです。
資質を持たない実子に資質を持った姪。
国王様は国や息子の事を思い、私のお父様に頭をさげました。
女性で王位を継ぐのは大変だろうとお父様はいくつかの条件を出して婚約を了承し、私には婚約者様を支えて行くようにと教育を施されました。
私もそれを王族の責務と考えていたのですがどうやら婚約者様はそうは思っていなかったようです。
自分は次期国王だから、自分の思い通りに何でも進む。
そんな考えを持っていたから、こんな性悪女に付け込まれたのでしょう。
哀れだと思いますがどうやらその程度の事にも気が付いてはいない様子。
「殿下はお忘れのようですがあなた様が第1位継承権を持っていられるのは私が婚約者にいるからです。それがわからないようでしたらその位置から下りていただきます」
この言葉で状況を理解できるならまだ我慢しましょう。
ですが、婚約者様は私の言葉を待っていたと言いたげに口元を緩ませました。
「本性を見せたな。この女は私に国に反旗を翻した。捕らえよ」
そして、警備兵に向かいバカな事を言い放ちます。
ですが、彼の言葉に従う者など誰もいません。
彼らは緋色の瞳以外にも婚約者様と私の王としての資質を天秤にかけ終えているのです。
「なぜ、私の命を聞かない」
「……理由は簡単ですよ。バカな娘にたぶらかされて公費を使い込んでいる事も王位継承者として勝手きままに振る舞っていた事も皆様は見てきているのです。資質を持っている方ならまだしもそのような方に王位を継がせるわけにはいきません」
警備兵が動かない様子に怒りを露わにする婚約者様に向かい日頃の行いである事を告げる。
それでも認めない彼は剣を抜こうとするのですが警備兵の中には剣や魔法に秀でた者達もおり、簡単に性悪女と他の取り巻き同様に取り押さえられてしまいます。
恨みがましい視線を向けられるのですが雑魚を相手にする気はこれ以上ありません。
「私が何もしないからと言ってずいぶんと好き勝手されてくださったようですね」
「……」
わざわざ、私を婚約者様から汚い手を使って追い落とそうとした少女へと視線を移す。
彼女は先ほどまで被っていたであろう猫を脱ぎ捨て私を睨みつけるのですが、そんな物は怖くもありません。
「勘違いされても困ります。おかしな事をされたのはあなた達です。あなたのした稚拙な策に疑問を持たない辺り、他の方達も爵位を継ぐ事に疑問が残りますね。まずはそこから手をつけなければいけませんね。後、あなたには今回のくだらない事の主犯としてしっかりと罰を受けていただきます。安心してください。私は証拠もしっかりと抑えて平等に裁くつもりですから」
証言や感情のみで裁く事はないと笑顔で告げる。
これは聞きようによってはすべての証拠を押さえているようにも聞こえるでしょう。
彼女の顔はみるみるうちに青くなっていく。
そんな彼女に優しい言葉をかける事なく警備兵達に指示を出す。
彼らは頷き、今回の騒ぎの首謀者達を引き連れて行くのですが自分達は騙されただけだなど責任の擦り付けあいが始まる。
その様子にため息が漏れるのですが私には次にやらないといけない事がある。
「先ほどの者達の屋敷、協力者達を直ぐに押さえなさい。国境の閉鎖も忘れないように後はお父様に伝令を」
警備兵達に次の指示を出すと彼らは優秀ですでに行動に移っている。
ですけど、迷信のはずなのですけどね。資質を持たない者が国を継ごうとする度にこんな騒ぎが起きるのでしたら後世にしっかりと伝えて行かなければいけませんね。
今までもこのようなやり取りがあったのかも知れないと考えるとため息が漏れてしまうのですがおかしな混乱が起きる前に終わらせなければいけない事があります。
そう考え直し、国王様のいる王城へ視線向ける。
問題は……バカな息子に後を継がせようとした国王様でしょうか?
バカな真似をしない事を祈るまでですね。