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8/13

Beautiful girl

 琵琶湖大橋からの眺めは僕のお気に入りだ。特に朝日がさす時間は

たまらない。

 今日も早起きして大橋に向かっていた。

 駐輪場につくと先客がいた、珍しいことにバイクが停まっている。

 ついうれしくなって隣にSRを停めてから気がついた。


「なんだ、このバイク?」


 異様なありさまだった。

 タイヤの端には剥がれたゴムがびっしりとこびりつき、青い油膜まで

浮いている。

 こまめに掃除されているのは見て取れるが、カウルには黒いダストや

カスが澱のように残り、飛び石で 塗装が所々えぐれてさえいる。

 その中でライトが付くアッパーカウルだけが新品みたくきれいで異彩

を放っていた。

 異彩といえばバイクの姿勢も変だ、後ろが限界まで高く上げてあり過剰

なまでの前傾なのだ。

「ニンジャ250ってこんな怖そうなのだったっけ?」     ※バイクの車名


 もっと爽やかでワクワクするバイクだったよね。

 今にも襲いかからんとする、やばい猛獣みたいな雰囲気ではなかったはず。


「おい、私のバイクになにをしている!」

「す、すいません」


 怒られてしまった。

 当然だ。自分の愛車をジロジロ見られて気分のいい人なんていない。


「フフッ、嘘だよ。怒ってなんていない」


 振り返ると口元に笑みをたたえた女の人が立っていた。


 身長はおそらく170は越えている、僕より少し低いだけ。

 ショートカットと切れ長の目から印象が大人っぽい。

 きっと年上の人だろう。


「申し訳ありませんでした、別に悪いことをするつもりなんてなかったんです」

「わかってるよ、辻村徹。バイク好きは他人の愛車に悪さなんてしない」

「え、なぜ僕の名前を知ってるんですか?」

             ※さとうのりこ

 彼女の名前は佐藤範子。僕の1つ年上の同じ学校の先輩だった。

 ホッケンハイムの常連で、売約済みの札から僕の名前を知ったらしい。


「ずっとホッケンに整備中で置いてあったもんなぁ君のSR。すごいんだぞ

エンジンなんて 全バラでオーバーホールしてあるんだ」

 全バラでオーバーホール?

 知らない単語だ、勉強しないと。


「佐藤先輩もバイクに乗られるんですね。ニンジャ250が愛車なんですか?」

「ああ、でもこいつはレーサーなんだ。普段はサーキットしか走らない」


 シーズンオフに入るのでエンジンを整備したから、慣らし運転に公道

へ戻したらしい。

 そうかレース用なんだ、ノーマルとは見た目がぜんぜん違うもんな。


「京上に私と相田の他にバイク乗りがいるとは知らなかったよ」

「えっ今まで二人しか乗ってる人がいなかったのですか?」


 大丈夫か?日本のバイク業界。


「相田はいいやつだけど、美人すぎてちょっとつるむのイヤなんだ。

うれしいなぁ、他に構ってくれそうなバイク乗りがいて」


 やはり相田さんは女の人から見ても美人なんだ。でも佐藤先輩が

それを言うのは反則ですよ?


「いやぁほんとうれしいなぁ。そういや辻村、君は週末なにしてるんだ?」

「最近はバイクばっかり乗ってます」

「そうか!それなら今週末は一緒に周山へ走りに行こう。エンジン慣らしは

退屈だから誰か お供がほしいと思ってたん」            

            ※周山:京都の定番ツーリング地

 是が非でもという勢いで押してくる。こういう人は苦手だ。

 先輩が顔を近づけてくると目を合わせるのも勇気がいるんだよ?

「わかりました行きます。だからそんなに顔を寄せてこないで下さい」

「ありがとう、イチかバチか言ってみるもんだな。辻村、君いい奴だな」


 うそでしょ、絶対に連れて行くつもりだったくせに。





 雲ひとつない快晴!絶好のツーリング日和だ。

 無理矢理に連れて来られたと言ったけど、よく考えてみれば初めての

ペアツーリング。

 わくわくしないわけがない。しかも相手はあの佐藤先輩だ。


「お待たせ、早いな辻村」


 先輩が待ち合わせのコンビニにやってきた……え。


「なんだジロジロ見て、レーシングスーツがそんなに珍しいのか?」


 レーシングスーツは安全のために革製だ。しかも余分は危ないから

徹底的に排除されている。

 つまり先輩のボディラインがまるわかりだということだ。

 正直、目のやり場に困る。胸腰尻二の腕太ももふくらはぎ、艶かし

すぎです。


「ちゃんと走ろうと思うなら安全にはレーシングスーツが一番だ、ここを

見てみろ固いパッドが入ってるんだぞ」

 ほらほらと近寄って見せてくる。

 もう勘弁して下さいまだ朝なんです生理現象がやっと落ち着いたところ

なんです。




 走りだすと先輩の雰囲気がガラッと変わった。

 まるで動きに無駄がないのが初心者の僕にもわかる。

 全てを完璧に支配下において意のままに操ってるのだろう、人車一体と

いうより女王様だ。


 スムーズで安全でわかりやすくて変な動きが入らない。

 つい真似をしてしまうが、それだけで僕の運転すら上手になっていくの

がわかる。



 赤い金属橋が見える道の駅に着いた。ひとまず休憩。

 ここでは牛乳を飲まないとバイク乗りの資格が無いのだと、相田さんの

お父さんに教わった。


「辻村って乗りはじめてどれくらい?」

「一月も経ってないと思います」

「そっかぁミラーでずっと見てたけど、結構、危なっかしい感じがあるな」

「えっ、どう危ないんですか?」

「言葉にするのは難しいな。う~ん例えるなら惰性で流すところが多すぎる」

「流してはだめなのですか?」

「流すのはいいよ、でも惰性はダメだ。こいつらはアクセルを回している時が

一番安心するんだ。嫌がることをしてはいけない。バイクが安心するように

操作してやれ」     

「バイクが安心するようにですか」                          

「大丈夫だよ、君ならすぐにわかるようになる。今日だって朝の時とここに

着く前では、 ぜんぜん走りが違ってたからな」  


 先輩、ちゃんと見ていてくれてたんだ。


「さて、そろそろ走りだすか。辻村、エンジンの慣らしが終わったから、

ちょっと本腰を入れて走ろうと思う、君は絶対に追いかけようと思うなよ?

次の道の駅で待ってるから」



 佐藤先輩は女王様ではなかった ------バネじかけの弾丸だ!



 


 先輩のブレーキは慎重だ。

 見ていて不安はないけど、もう少し大胆にいけそうな気もする。

 でもカーブに入ってからが違う。

 バイクを倒し始めて「タメ」に入ったかと思いきや、あっという間にはじけ

飛び目の前から消えさってしまう。  

 そして僕が曲がり始めたころには、すでに先輩は次のカーブにもいなかった。


 バイクってあんなにも速く走れるんだ……知らなかったよ。




 目的地の道の駅に着いた、とろろそばが有名らしいので昼食の予定だ。


「辻村遅かったな」

「先輩が速すぎなだけです」


 完全にくつろぎモードに入ってるよ、この人。

 汗をかいたのだろう、スーツのジッパーを下ろして涼んでいる。

 っ!


「先輩、お願いがあります」

「なんだ、今日は気分がいいから聞いてやるぞ?」

「レーシングスーツのジッパーは休憩の時でも首まで上げておいて下さい」

「なんで?胸が苦しいじゃん、休む時くらい楽させてくれよ」


 この人、ほんとボッチだったんだな……

 自分がどう見えてるか、まったく気づいてないよ。


「それでははっきり言います、気を悪くしないで下さい」

「うん?」

「スーツの隙間から汗で透けたTシャツが見えてます」

「……」

「……」



 無言がつらい。

 先輩はうつむいて微動だにしない。


「スケベ」

「は?」

「辻村、君はスケベだ。私は悪くない、ジロジロ見る君が悪い」


 テンパってむちゃくちゃ言い出したよ、この人。


「もう一度はっきり言います。先輩は自分が目を引く外見だということを

少しは自覚して下さい、そうでないと周りが迷惑します僕なんて被害者です」

「!」


 しまった、テンパっていたのは僕の方だった。

 とんでもないことを言ってしまった。



 それからは気まずい雰囲気のままだった。

 お互い言葉を発することができず、でも離れることもできず。ついに終点の

例のコンビニについてしまった。


「終わりですね」

「ああ……そうだな」


 空気が重い、何とかしないと。

 そう考えてると、突然、先輩がこちらに振り向いて言い放った。


「辻村、今日はありがとう、とても楽しかった。忠告もありがとう気をつけ

るよ。また一緒に走ってくれるとうれしい!」



 先輩、また一緒に走りに行きましょう!




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