Heart of mine
「レアものなんて手に入らないよなぁ、俺ってクジ運良かったためしがないし」
グチがこぼれだしたある日、ふと見かけた近所のバイク屋で我が目を疑った。
「あった!緑のSRだよ!」
思わず駆け寄る。
しばらくぶりの想い人は残念ながら相田さんのより褪せていたけど、僕には
充分だった。
<売約済み>
現実は残酷だった。
「やっぱそう簡単に上手くいかないよな」
「いらっしゃい、お客さんかい?」
振り返ると店員さんらしき人が近くにいた。
歳は40過ぎかな?背が高くてガッチリした、でも優しそうな男の人だった。
「はい、この緑のSRが欲しいのですけど、売約済みなんですよね」
「そうなんだよ。古いモデルだから探してる人がいて、長くは居ないことが
多いんだ」
「えっ、時々は入荷するんですか?」
「俺が昔に乗っていたから懐かしくてね。古いのを見つけるとつい仕入れ
ちゃうんだ」
なんとこんな近所に専門店があるとは、僕っていつの間にかクジ運が良く
なってたのかな?
「緑の色がほしいのです、探して頂けませんか?いつまでも待ちます」
「他の色はだめなのかい?センスいいのはたくさんあるんだよ?」
「どうしても緑がほしいのです。緑が買えるならずっと待ちます」
「う~ん」
「お願いします」
店員さんは少し待っていてくれと言い、奥に戻っていった。
あらためてバイク屋をよく見てみる。 カウル:樹脂製外装の呼称
店名は「ホッケンハイム」聞きなれない単語だ。
SRをよく仕入れると言っていたけど、店の中にはカウルとかいう外装が
着いた速そうなバイク ばかりが並んでいた。奥の机にはエンジンと思しき
金属塊が何機も置いてあるのが見える。
「お客さん、条件があるけど緑のSRを買えるかもしれないよ」
「本当ですか!どんな条件でもOKです」
「即答はだめだよ……」
店員さんが言うには、店のストックに引き取り手が決まっている緑の外装
一式があるらしい。
SRはどの年代も基本が同じだから、中古車を仕入れてそれに取り付ける
こともできる。
ただしそれをすればノーマルとは言えない状態になってしまう。
「いま外装の引き取り手と相談してね、熱心なお客さんだと言ったら渋々
ながらも譲っていいと
返答がもらえたんだ」
「それで結構です。その方に僕からもお礼が言えませんでしょうか?」
「あ、お礼ね?う~ん、どうしようかなぁ」
「パパ、お茶を淹れてきたからお客さんに出すね」
聞き覚えのある声がした。
「あ」
「あ」
相田さんがそこにいた。
「相田さんの家ってバイク屋さんだったんだ」
「ごめんね、黙っていて」
「いや、咎めているわけじゃないよ、ただバイクをあんなに上手に乗る理由
に納得しただけ」
相田さんに教えてもらった秘密のパズルピースが、ピタリとはまっていく
のがわかる。
「なんだ、お客さんは涼夏の知り合いだったのか?」
「同級生の辻村徹です。相田さんに愛車を紹介してもらって、僕もSRに興味
を持ちました」
「それなら話が早い、もし辻村くんがバイクを買ってくれるならサービスさせて
もらうよ」
「はい、よろしくお願いします。緑のSRを組んで下さい」
トントン拍子に話が進み、天にも登る気持ちになりかけた時、隣から待った
が掛かった。
「ダメよ!辻村くんが緑の外装にしたら、私とペアルックになるじゃない!」
破壊力抜群の一撃だった。
「なんだ涼夏、外装を譲ってもいいと言ってたのに、それが辻村くんだと嫌
なのか?」
「それは……」
お父さんはなんだかうれしそうだ。
「だめだぞ、バイク屋はお客さんが第一だ。娘の意見でそれを曲げること
なんてできない」
ぐうの音も出ない正論に、相田さんはうつむいて耳を真っ赤にするだけだ。
でもお父さん、口元がニヤニヤしてるのはなぜですか?
「相田さんが嫌だとおっしゃるなら諦めます、でもなんとかして譲って頂け
ませんか?
ペアルックが目につかないよう相田さんと距離を置いても結構です」
「それはダメ!」
思わぬところで拒否がはいった。
「違うの、バイク屋の娘がお客さんにムリをさせるのはダメだと思うの、ペア
ルックは嫌だけど
本当に嫌だけど、お客さんがどうしてもというなら私のわがままはダメだ
と思うの……」
最後の方は声が小さくなって、何を言ってるのか聞き取れなかった。
よくわからないけど、相田さんは我慢してくれるみたいだ!
「それでは、バイクは契約ということでいいんだね?」
「はい、お願いします」
やった!ついにSRを手に入れたぞ!!




