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「つじむーなに見てんよ?」


 話しかけてきたのは京上高校クラスメイトで幼なじみの高吉だ。


「バイクを買おうかと思って、スマホで中古を検索してる」

「バイクってなに、ビッグス?」               ※ビッグスクーターの略

「いや、SRっていう普通のバイク」


 普通のバイクだよね?


 相田さんに二人乗りさせてもらって以来、僕の頭からバイクが離れることは

なかった。

 寝ても覚めても勉強していても、そして自転車に乗っていてもあの衝撃が

忘れられない。  

 バイクが欲しかった、それもSR、できることならあの緑の色のが。           

「欲しいバイクがあるんだけど、検索してもぜんぜんヒットしないんだよね」       

「なんというか、俺にはあのアイアン辻村が楽に逃げることが信じられん」        

「楽に逃げるとか言うな、ていうかそのアイアン辻村ってのも止めろ、友達

やめるぞ」   

「俺が言うのを止めてもみんなは言い続けるぞ、お前くらいじゃん京上坂を

チャリで登んの」

「……」                       ※通学路の心臓破りの急坂

 

 標準的な若者を絵に描いたような高吉は、バイクの話にまるで食いつか

なかった。

 どうやら高校生はバイクなどに興味が無いのが普通のようだ。              

 ヤブをつついて何とやらにならないように慎重に先生に尋ねてみたけど

、僕ですら噂に聞く  3ない運動もこの学校ではとっくに風化し、影も形も

無くなっているらしい。

「相田さんに聞くしかないかぁ」

「なにお前、相田さんと知り合いなの?そんなの俺は知らんぞ、いつの間

に裏切った!」


 すごい食いつきようだった。

 面倒なことになりそうだから早々に話を打ち切り、午後の授業に向け糖分

補給にジュースを買 いに行くことにした。 


 廊下の向こうの方に淡い金色のツインテールが見えた。相田さんだ。

 声をかけるのを少しためらったけど、バイクのためだ勇気を振り絞ろう。


「あ、相田さん、話があるんだけど…………」


 情けないほど声が出ていなかった、特に後半の尻すぼみ具合ったらない。


「プイッ」


 あれ、聞こえなかったのかな?

 僕の存在が目に入らなかったかのように相田さんはスタスタと自分のクラス

に入っていった。





「おにいちゃん、最近なに見てるの?」                         

 自宅リビングで調べ物をしてると声をかけられた。

「ん~~、バイクを買いたいからスマホで探してるんだ」                

「ええっ!おにいちゃんが!アイアン辻村が楽をすることに逃げるの?」

 妹にまで言われるとは、僕の立ち位置ってなんなんだろうね。


「この前の日曜、友達にバイクを見せてもらってハマったんだ」

「なんだテツ、お前バイクに乗るのか?」


 来ましたよ、お父上の帰宅ですよ。

 辻村家の家長、聡はサラリーマンとして家族3人を養う大黒柱だ。

 世間では父親の地位は没落して久しいが、この辻村家では正しくその権威は

維持されている。

 つまりお父上のお許しを得ない限り、念願のバイクライフは始まらないという

ことだ。   

 あと僕の名前はテツではなくトオルです。お父上、息子の名前くらいちゃんと

呼んで下さい。

「いいぞ。でもヘルメットは良いやつをかぶるんだぞ」

「えっ」


 なに、この即答。

 お父上はここまで物分りの良い人ではなかったはず、おかしい…………


「金はあるのか?物が物だけに援助はしてやらんけど、保険くらいは出して

やるぞ」


 物分かりがいいだけでなく大盤振る舞いですよ。高い任意保険に悩んでいた

から大助かり。


「ありがとう父さん、保険代はあまえるよ。バイクは今までの貯金を使えば何

とかなる」

「そうか、人様に迷惑をかける乗り方だけはするなよ、それが条件だ」



 緑SRの中古が見つからないので、ネット検索で色々と調べることにした。

 わかったのは、件のカラーは大昔の一時期だけに発売されていたレアもの

ということだ。

 SRは何十年と続くロングセラーだけに、無数にある中古から決め打ちでレア

を手に入れるの は大変なことなのだといまさら思い知ったのだった。


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