スノーホワイト
「おはよう、寒くなってきたね」
「おはよう、もう革ジャンだとつらい感じだね」
父さんの革ジャンには中綿が入ってないから、これからの時期は
耐えがたくなる。
でも相田さんもそれは同じだから、僕だけ泣きごとは言いたくない。
紅葉も散ってしまった晩秋、僕らは関西最高峰の山に行ってみる
ことにした。
その名は伊吹山。
山頂まで続く有料道路の金額が最高峰で有名な山です。
琵琶湖の湖周道路を二人で走る。
バイクをジグザグにならべて次車の邪魔をしないようにする。
千鳥走行というものらしい。
先頭を交代しながら走ると、それぞれが視界に必ず入るようになる。
上手にポジション取りができると、ミラーに写った視線が褒めてくれて
るようでうれしい。
リズムを奏でるように走っていく。
風が強い時は後ろをかばうように、障害物を見つけたら教えるように、
互い同士が思いやり それぞれが快適に走れるように。
真っ白なお城のようなカフェで昼食を食べていると、相出さんが口
開いた。
「辻村くんってバイク乗るのうまいよね。まだ2ヶ月くらいでしょ?
嫉妬しちゃうよ」
「うまいとかわからないよ。でも自転車にずっと乗っていたから感覚は
わかる気がする」
「辻村くんはいつも自転車だよね。あの京上坂を毎日毎日のぼって
登校してくるものだから、私見ていてびっくりしたんだよ?この人は
なんてひたむきなんだろうって」
出ました京上坂のエピソード。
みんなが歩いてる中で自転車でのぼっていくのはそんなにも
目立つのか。
「でもね知ってる?辻村くんって冬でも日焼けして真っ黒でしょ。
それがアイアンと呼ばれだした原因なんだよ。私が体質的にぜんぜん
焼けないから君の健康的な感じが羨ましい」
アイアンの由縁は坂をのぼるからでなく日焼けだったんだ……
日焼け止め塗らないしな。 でも少し詳しすぎませんか、もしかして
辻村マニアですか?
じっと見つめていると、彼女の目が泳ぎはじめ耳がどんどん赤くなっていく。
「そろそろ行こうか、伊吹山登るの高いんだし早く行って長く楽しまないと」
唐突に相田さんは切りだすと立ち上がり、バイクに向けて小走りで
去っていった。