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「辻村くんのジャケットって腰が寒くないの?袖もバタバタしていて
つらそうに見えるよ?」
相田さんから服装へダメ出しを受けた。 ※京極:京都市の繁華街
手頃な上着がないから、京極の古着屋でアメリカ軍のナイロンジャケットを
買ったのだけど、丈が短いわ、袖も太いわで使いやすくないけど我慢してたんだ。
よく見てるなあ。
「できれば僕も革ジャンが欲しいのだけど、SRでいっぱいいっぱいなんだ」
相田さんの表情がパッと明るくなった。
「それならうちの店の在庫を安くしてあげるよ!売れない革ジャンがたくさん
あるんだ。パパも辻村くんが好きだしきっと許してくれるよ!」
「それはだめだよ、相田さん」
「えっ」
「お父さんにはもう充分なほど無理を聞いてもらってるんだ。これ以上あまえ
るのは違うよ」
「お父さん…………」
暗くなりかけていた相田さんの表情がまた明るくなった、今度は少し
耳も赤い。
ころころ変わって見飽きない。
「とくにお金のことで友達に頼るのは絶対に良くないことだよ。これは僕の
父さんから強く 戒められてることでもあるんだ。相田さんは大切な友達
だからそれだけはできないよ」
相田さんはなにも言わなくなった。
言い過ぎたみたいで、少し目がうるんでいる。
「ごめん、きつかったね」
「ううん、私が悪かったの。辻村くんが正しいよ」
よかった仲直りができたみたいだ。
もう夕方だから肩をならべて帰る。
ご近所さんなのでずっと一緒がうれしい。
二人してバイクの話に花を咲かせ、できるだけゆっくり歩いた。
「テツ、革ジャンなら私のお下がりがあるぞ」
「ほんと!」
妹と革ジャンが似合う似合わないで言い争いしていたら、父上が思わぬ
話を持ちかけてきた。
「私が昔着ていたやつがある。手入れも怠ってないからまだ大丈夫だ。
いい加減処分に困っていたからお前が着るといい」
「ありがとう父さん。大事にします」
父上から受け継いだ革ジャンはアメリカ製で重く硬かった。
床に置くとそのまま立つなんて本当に服なんだろうか?
でも、はおってみると軽く感じ、動きの邪魔もしないのが不思議だった。