覆面作家にはゴーストライターがいる
名前借りました
私、スピネル・レッドが趣味で小説を書いているのに気付いた姉のルベライトは、私が書いた原稿を、バカにしようと出版社へ持っていく。
編集者ペリドット・グリーンに、原稿を読んでもらう。
ボロカスに貶されると思っていたが、出版したいと言われて、自分が書いたと言ってしまうルベライトに睨まれて、私は黙っていた。
貴族令嬢だから名前は出したくないと、覆面作家になる。
作者名も、覆面作家だ。
原稿は私が書くのに、原稿料は姉の物。
趣味とはいえ、文章を書くのは大変なのに、何も浮かばない時もあるのに。
姉は毎日、優雅にお茶会をしている。
両親に訴えたが、姉第一の両親は、ルベライトの言う通りにしなさいと言うだけだった。
伯爵家は、あまり裕福ではない。そこへ、臨時収入の原稿料が入った。
姉は新しいドレスや宝石を買った。
姉に作品を奪われている私は、いつか誰かが真実を知り、救い出してくれることを祈りつつ、小説を書いていた。
姉の覆面作家の、ゴーストライターを妹がしているなんて小説みたいな話、誰も信じる訳ないよね。
デビュー作は、夜会で紫のドレスに、銀の細工のアクセサリーをつけている令嬢が、家族に虐待されていて、高位貴族の令息が助ける話。
私は、王宮の夜会に、紫のドレスに銀細工のアクセサリーつけて出た。
姉は新しいピンクのドレスを着ている。
デビュー作の原稿料で買った物だ。
沢山の男に囲まれて、楽しそうにしている。
私が壁の花になっていると、男が声を掛けてきた。
「何かお困りでは?」
「何の事ですか?」
意味が分からず、その場を去った。
2作目は、夜会で出会った令息と、お下がりの紺色ドレスで手袋に刺繍がしてある令嬢が恋に落ちるが、実は会った事のない婚約者だった話。
今日の夜会は、姉のお下がりの紺色のドレスで、手袋に刺繍がしてある。
姉の引き立て役だから、今日も壁の花になる。
「また会いましたね」
男が声を掛けてきた。
変な人に声を掛けられた〜
私は、無言で逃げた。
また、なんて、遊び人がよく言うセリフじゃない。
3作目は、横取り令嬢が、水色のドレスにショールを掛けた主人公に、ざまぁされる話。
今日の夜会は、水色のドレスにショールを掛けている。
持っているドレスが少ないから、ショールを掛けて誤魔化している。
壁の花をしている時、男が声を掛けてきた。
「貴方を手助けできませんか?」
「…何の事ですか?」
突然何なの?驚いていると、男が言った。
「貴方は覆面作家でしょう?」
「え?」
覆面作家を知っている?私の読者ってこと?
「私は公爵家の…」
「まぁ!公爵家のアイオライト・バイオレット様?妹が何か失礼をしましたか?この子は本当に礼儀のなっていないダメな子で…」
姉が割り込んできた。
「貴方は?」
「私はレッド家の長女ルベライトです」
「そちらは?」
「妹ですの。それよりアイオライト様、ダンスを踊っていただけませんか?」
雑に紹介された。
というか、礼儀がなっていないのは姉では?勝手に名前を呼ぶんじゃない。
「ところで、貴方は覆面作家をご存知で?」
公爵令息は言った。
「あら?覆面作家ですか?ご存知ですの?」
姉よ、質問に質問で返すな。
「読者です」
「まぁ!公爵家の方があのようなものをお読みに?」
姉も驚いたが、私も驚いた。
「あのような物?」
公爵令息は顔を顰めた。
「お恥ずかしいですわ」
「恥ずかしがる必要はない。素晴らしい作品だ」
公爵令息が言うと
「あれは私が書きましたの」
姉よ、手のひら返しが凄いな。
「本当に?」
「はい。詳しい話は、我が家でいかがですか?」
「…そうですね」
「では、ダンスを」
そこは諦めてないんだ?強いな姉。
「申し訳ないが、急用ができたので。今度家にお邪魔させていただく」
「お待ちしてますわ」
公爵令息は去っていった。
姉は上機嫌だった。
「アイオライト様に婚約を申し込まれるんだわ!」
まさか…何の接点も無いのに、婚約を申し込むわけないでしょう?
想像力が豊かだなぁ…
数日後、公爵令息から先触れがあったらしい。
姉は、気合を入れてドレスアップしていた。
私は何も聞いていなかったので、通りすがりに公爵令息と遭遇して驚いた。
「おや、ご機嫌よう」
公爵令息から声を掛けられた。
「ご機嫌よう…?」
どうにか挨拶を返すが
「すみません、礼儀がなってなくて。お前は部屋に居なさい」
公爵令息に謝ると、父は私に言った。
「私は、妹君に話があるんだ。邪魔をするな」
公爵令息は、低い声で言った。
「も、申し訳ございません!ですが、ルベライトに婚約の申し込みをしにいらしたのでは?」
父が怯えながら言う。
「いつ誰がそんな事を言った?不愉快だ。妹君だけと話がしたいから、連れて行く」
公爵令息は、私の腕を優しく掴んだ。
「アイオライト様!私に話があると言ったじゃないですか!」
「そもそも、貴方に名前を呼ぶ許可を与えていない。無礼者!」
公爵令息から睨まれて、固まる姉。
「ヒィ!」
その隙に、公爵令息は私を連れ出し、乗ってきた馬車に乗せた。
大きな邸に着いた。公爵邸に連れて来られたらしい。
応接室のソファに座らせられて、お茶とお菓子を出してもらった。
正面に座る公爵令息から、話し掛けられる。
「名前を聞いていませんでしたね」
公爵令息は、優しく言った。
「スピネルです…」
「スピネル嬢…」
そこから、前のめりに公爵令息は聞いてきた。
「いつから小説をお書きに?」
「1番の自信作は?」
「何をヒントに書いたのですか?」
次々と質問され、戸惑う私。
「あの…公爵子息様は、何で…」
「アイオライトと呼んでください」
「えっと…」
「どうぞ、アイオライトと」
「…アイオライト様は…何で…私が覆面作家だと?」
「最初に会った時に、紫のドレスに銀細工のアクセサリーを着けていたでしょう」
「最初に会った時…?」
私は、首を傾げた。覚えていない。
「デビュー作で主人公が夜会で着ていたドレスとアクセサリーと同じだと思って、声を掛けたんだが」
そうだっけ?思い出せない。
小説の事も、夜会で着ていたドレスの事も。
「その次に会った時は、第2作目に主人公が着ていた紺色のドレスと手袋に刺繍」
そうだっけ?私はまた首を傾げた。
「昨日会った時は、水色のドレスにショールを掛けていた。3作目と同じだ」
「よく覚えていますね。書いた私も覚えてないのに」
「やはり、貴方が?」
私は、ビクッと身体を強張らせた。
「どうしました?」
公爵令息…アイオライト様が、心配そうに聞いてきた。
「あれは…姉の作です…」
「そうですか?」
「姉が覆面作家なんです…」
私は俯いた。
そう言わないと、姉から罵られた。
「自分が書いた物を『あんな物』『恥ずかしい』呼ばわりする人が?」
私は、アイオライト様の顔を見た。
「3作目は、横取り令嬢がざまぁされる話でしたね」
アイオライト様は、本当に私が書いたと思っている?
私は、持っていた紙束を抱きしめた。
姉に渡そうと持っていた原稿を、そのまま持ってきてしまったのだ。
「それは、新作ですか?」
私が抱きしめる紙束を見た、アイオライト様が聞いた。
「読ませてもらっても?」
「ダメです!もうすぐ締め切りだから、早く姉に渡して出版社に持って行かないと…!」
私が言うと、アイオライト様は
「本当に、貴方の姉が覆面作家なんですか?」
と聞いた。
「そうです。姉が覆面作家です」
それは、本当の事だ。
姉が覆面作家として出版社に原稿を持って行っている。原稿を書いているのはゴーストライターの私だが。
「原稿を書いているのは、貴方なのに?」
私は、頷いた。
「なるほど…横取り令嬢なのは覆面作家か…」
私は無言で頷いた。
「怯えさせて悪かったね。お茶でも飲もうか?」
アイオライト様は、冷めたお茶を淹れかえるように、メイドさんに指示した。
勿体ないので、メイドさんが近付く前にさっとお茶を飲んだ。
アイオライト様は、優しく
「お菓子も食べて良いよ」
と言った。
遠慮なくお菓子を食べる。原稿は抱えたまま。
その隙に、メイドさんが新しいお茶を淹れてくれる。
「公爵家の私がいれば、横取り令嬢にざまぁできると思わないか?」
アイオライト様の言葉に目を丸くする。
「ざまぁ?」
「ずっとそのままで良いのか?」
「私…ずっと誰かに気付いてほしかった…でも、どうすれば良いかは分からなくて……ざまぁするつもりはなくて…」
私は、本心を話した。
「ドレスを同じ物にして、気付かせようと?」
「ドレス?ドレスは…ちょうど目の前にあったからで…」
「目の前にあった?」
「自分の持っていたドレスを参考に書いただけで…」
「偶然なのか…。本当に、どうすれば良いかは分からなかったんだな?」
「はい」
「…では、私がスポンサーになろう」
「スポンサー?」
「作家の生活を支えたりする人だよ」
「???何故です…?」
私は首を傾げた。
「覆面作家…スピネルの作品は、素晴らしいからね。スポンサーになるのは当たり前だよ。公私共に支えたい」
「…でも、姉が覆面作家だし…」
「何故、原稿を出版社に持って行ったんだい?」
「私がボロクソに貶されると思ったんでしょう。それなのに、出版したいと言われて…自分が書いたと…」
「なるほど…昨日もそうだったな。あんな物呼ばわりしてたのに、私が褒めると自分が書いたと言った」
私は頷いた。
失敗は私のせい。成功は姉の功績。
「出版社を呼ぼう。担当は誰だ?」
「ペリドット・グリーンさんです」
「分かった」
後ろに控えている執事さんに、目を向けると、執事さんは頷いて、部屋を出ていった。
「呼んでどうするのですか?」
「本物の覆面作家はスピネルだと分からせる」
「分からせる…?」
「そこに、原稿がある」
「姉から奪ったと思うに決まってます」
「では、新しい横取り令嬢の話を書こう」
「新しい?」
「横取り令嬢は、妹が書いた小説を、自分が書いたとして、出版している。そして…」
ストーリーを語ったアイオライト様は、最後に、こう言った。
「『私、覆面作家は、妹が書いた小説を、自分の物として出版しました』と、最後に告白するんだ。姉は、原稿や、出版された本を読むかい?」
「読みません」
「それなら、出版の邪魔をされずに済むな」
「上手くいくでしょうか…?」
「私に任せてくれ」
「…はい」
「良かった。今日からスピネルは、ここに住んでね」
「え?!」
「今から、さっきの内容を執筆するんだから、邪魔をされたくない」
「そうですけど…」
「実家に帰りたいかい?」
「いいえ…」
両親は、姉ベッタリで、姉にしか興味ない。
私は放置だ。
姉に原稿料を奪われていても、当然だと言った。
その時、ペリドットさんが来て、応接室に通された。
私は、アイオライト様の隣に座る。
「私に何かご用でしょうか?」
挨拶の後、緊張気味にペリドットさんが言う。
「この方をご存知か?」
アイオライト様の言葉に、ペリドットさんは私の顔を見るが
「存じません」
と言った。最初に会った時しか私はいなかったから、覚えてないのね。
「本物の覆面作家だ」
「本物の…覆面作家?どういう事です?覆面作家は…名前は言えませんが…」
アイオライト様の言葉にペリドットさんは反発する。
「これを見ろ」
原稿の1枚目を、ペリドットさんに渡す。
「これは…覆面作家の原稿…?どうして?」
「覆面作家はルベライト・レッド嬢だろう?だが、原稿を書いていたのは、ここにいるスピネル・レッド嬢だ」
「えぇ!?」
ペリドットさんは驚いていた。
今まで姉を覆面作家だと思っていたのだから、当然だろう。
「最初に原稿を持ち込んだ時に、私はいましたが、覚えてないんですね」
「えぇ!?」
私が言うと、ペリドットさんは、私と原稿を見比べた。
「今後は、私がスピネルのスポンサーになる。この原稿は、次に回して、新作は、今から書き上げる」
アイオライト様が宣言する。
「今から?」
「私に協力するなら、覆面作家の原稿を渡そう。どうする?」
「そ…そんな…」
ペリドットさんは、顔面蒼白だ。
「締め切りには間に合わせる。新作にタネを仕込みたい」
「タネ?」
「自分の担当している作家が、盗作しているなど、大問題だろう?」
「は…はい!」
ペリドットさんは、やっと気付いたようだ。
「作品を見る目はあるが、人を見る目は無かったようだな」
アイオライト様が言うと
「その通りです…何でも協力します…させてください!」
ペリドットさんが頭を下げた。
「実家に、取りに行きたいものはあるか?」
ペリドットさんが帰った後にアイオライト様から聞かれた。
「いつも使っているペンとインク…思い付いた事を書くノート…」
私が考えていると
「それなら、部屋の物全部持ってこさせよう」
「えぇ!?」
そう言うと、アイオライト様は執事さんに指示を出した。
「スピネルには、書斎をあげるから、そこで原稿を書いてね」
と、広い書斎に連れてこられた。
しばらくは、この部屋のを使ってと言われて、約束の原稿を書き始める。
アイオライト様は、仕事があるらしく、部屋を出ていった。
レッド家に、騎士団が来た。
「アイオライト様に無礼を働いたと聞いている」
騎士団長がレッド伯爵に言った。
「あ…あれは…スピネルがやったんです!」
レッド伯爵は、青褪めた顔で言った。
「スピネルとは?」
「次女です」
「次女の部屋は?」
「こちらです」
レッド伯爵が、騎士達を案内する。
「この部屋の物は証拠として押収する」
騎士団長が宣言し、騎士達が部屋の物を押収する。
手つきが丁寧なのに、レッド伯爵は気付かない。
部屋の物は少なかった。
素早く押収を終えた騎士達は、素早く撤収した。
騎士団長が何故、スピネルを出せと言わなかったのか、何故部屋の物を全部押収したのか、そもそも、公爵子息に無礼を働いたとしても、国の騎士団が動く事などない事に、レッド伯爵は気付いてすらいなかった。
ドアがノックされ、気が付くと、外は夜になっていた。
「はい」
「やぁ…邪魔してごめんね。晩餐に誘いに来たんだ」
アイオライト様だった。
「ありがとうございます」
アイオライト様にエスコートされて食堂へ行く。
公爵家は豪華で、食事も豪華だった。ちょっと緊張してしまう。
アイオライト様と2人で食べた。
公爵ご夫妻は、会いたがっているけど今回は遠慮してもらったよ、とアイオライト様に言われ、恐縮してしまう。
それでも、今まで食べた事のない美味しい食事に、感動してアイオライト様にお礼を言った。
アイオライト様は優しく笑ってくれた。
その後、連れて行かれた部屋は、私の部屋らしい。
実家の私の部屋にあった物が、全部運び込まれていた。
何と言って持ってきたのだろう?
姉がアイオライト様に求婚されると思っていた両親と姉は、今頃どうしているのだろうか?
私が公爵邸に住む事に、文句を言わなかったのだろうか?
机に、籠に大切そうに入れられた、私のペンとインクとノートがあった。
昔書いた原稿もある。本当に全部持ってきてくれたんだ。
アイオライト様にお礼を言う。
「夜会で、小説と同じドレスとアクセサリーを見た時は、本当に驚いたんだよ」
クローゼットには、私のドレスがしまってあった。
「あの夜会では、スピネルの姉は新しいドレスを着ていたよね?スピネルは?どうして…」
アイオライト様に聞かれた。
「姉のお下がりのドレスしか、私は持っていません」
「どうして?」
「両親は、姉ばかり構って、私は放置してました。お前には、お下がりで十分だと、新しいドレスは買ってもらえなかったのに…原稿料が入ったから、姉は新しいドレスや宝石を沢山買っていました」
「そう…原稿料でね…」
アイオライト様は、私の頭を撫でてくれた。
「今までよくがんばったね」
締め切り当日に、ルベライトが出版社に行くと、ペリドットが出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました!」
「あの…原稿なんですが…」
ルベライトが気不味そうに言うと
「ありがとうございます!使いの方が持ってきてくださいましたよ!」
ペリドットの言葉に、ルベライトは驚く。
「え?」
「いつもご自分でお持ちになるのに、今回は忙しかったのでしょう?使いの方が来た時は驚きましたが、締め切りには間に合いましたので、本当に良かったです」
「そう…間に合ったか気になっていたの。良かったわ」
「はい。ありがとうございます!今日はわざわざその為に?」
「そうなの」
「そうでしたか。ありがとうございます」
ペリドットが頭を下げた。
「それでは、私はこれで」
ルベライトは、そそくさと帰った。
ルベライトが出版社に来た事は、すぐにアイオライト様に知らされた。
「締め切り当日に行くなんて…」
私は、姉の不誠実にため息をついた。
私がいないから、原稿ができていない。
それなのに、姉は、締め切り当日にしか出版社に行かなかった。
しかし、既に原稿はペリドットさんに渡している。
アイオライト様の発案の「告白」つきの原稿だ。
出版されたら、読者はどんな反応をするだろうか?
姉は、きっと読まないだろう。今までも読まなかった。
新作は、ほとんど私の体験である。
ゴーストライターの妹は夜会で出会った公爵令息に救われて、横取り令嬢の姉は横取りがバレて捕まるのだ。
新作が出版されてから一月後。王宮での夜会。
「小説読んだよ。素晴らしいね」
王太子に声を掛けられたルベライトは、満面の笑みで言った。
「ありがとうございます」
無邪気に喜んでいる。覆面作家だから、誰も姉とは知らないはずなのにね。
「皆、聞いてくれ!こちらが、今をときめく覆面作家先生だ!」
王太子が、大きな声で宣言した。
あちこちから、拍手がおこる。
ルベライトは、笑顔を振りまく。
「ところで、最新作の、最後の告白は、本当のことなの?」
王太子が聞いた。
「告白?ですか?」
ルベライトは首を傾げた。
「自分が書いたのに、知らないの?」
王太子の質問に、しどろもどろに答えるルベライト。
「え…沢山書いたので…」
「まだ4作だよ」
「えっと…沢山書き溜めているのて…」
「そうなんだ。読むのが楽しみだなぁ」
「ホホホ…」
笑って誤魔化すルベライト。
「今日は、小説のドレスとは違うんだね」
王太子が言う。
周りの貴族も、何かを囁やきあっている。
「え?」
ルベライトは、また首を傾げた。
「夜会には、直前に出した小説のヒロインと同じドレスを着ているって書いてあったよ」
王太子の言葉に
「今日は特別なので…」
ルベライトは慌てて答える。
「そうだったね。今日が最後の夜会だからね」
「最後の夜会…?」
「罪を認めて、償うんだろう?」
「罪って何ですか!?」
「自分が書いた事だろう?」
「何の事ですか!?」
「妹が書いた小説を盗作して、自分の作品として出版した罪だ」
「な…何の事ですか!?」
「最新作の最後に書いていただろう?本当は妹がもらう原稿料を窃盗して、ドレスや宝石を買った。そのドレスもかな?」
王太子の冷たい視線に、ルベライトは息を飲んだ。
「窃盗した原稿料を全額返し、王宮での夜会で妹に詫びると」
「そんな事は書いてません!」
「そうだろう。妹が書いていたんだから」
「違います!私が書いたんですが、そんな事は書いてません!」
「そうかな?小説に書いてあったドレスを、君の妹は着ているけど」
王太子の後ろから、アイオライト様にエスコートされて、私が姿を現すと
「スピネル!酷い!…陰謀です!妹が私を貶める為にしたんです!才能ある美しい私に嫉妬したんです!」
ルベライトが叫ぶ。
「原稿の締め切り日に、君は何も持たずに出版社へ行ったそうじゃないか」
王太子の追及は続く。
「あらかじめ、使いの者に持って行かせてたんです。締め切りには、間に合ったか確認に行ったんです!」
「使いの者とは誰だ?」
「…し、執事です」
「そうか。それなら執事を呼んでこよう。そして、新作のストーリーは、どんなだった?」
「え?」
「自分で書いたんだから言えるだろう?先々月の事だし、覚えているだろう?」
「それは…」
ルベライトは目を逸らした。
「君の部屋から、原稿料の領収書が見つかったよ。でも、原稿は無かった。ペンとインクも」
「それは…他の部屋で書いていたからで…」
「我が国の貴族は、罪を犯しておきながら、言い逃れして、知らん顔をするのだな」
「違います!これは私を貶める陰謀なんです!」
「しかも、両親も知っていながら、放置していたのだろう?」
ルベライトの後ろにいた両親が、顔色を変えた。
「盗作と窃盗を認めないのか?」
王太子がルベライトを睨む。
「妹の嘘です!私に嫉妬した妹が罠に掛けたんです!」
ルベライトが必死に叫ぶ。
「盗作と窃盗を認めないのか?」
もう一度、王太子は言った。
「妹の嘘です!信じてください!きちんと調べてください!」
「原稿の字は、妹の字だったよ」
「私の作品です!盗作と窃盗は妹です!」
「その新しいドレスを、原稿料で買ったのに?」
「!!」
ルベライトが言葉に詰まった。
「出版社で原稿料をもらって、そのままドレス店と宝石店へ向かったね」
ルベライトは、唇を噛み締めている。
「その時の注文は、そのドレスだよね?」
ルベライトは答えない。答えられない。窃盗が立証されてしまう。
「その時には、もう君は監視されていたからね。嘘をついても無駄だよ」
王太子が言った。
「盗作と窃盗したこの娘と、それを黙っていた両親を、牢へ!」
ルベライトと両親は、騎士達に、連れて行かれた。
「さぁ、皆!犯罪者は捕まった。そして、こちらが本物の覆面作家先生だ!」
王太子が、私を示した。
「この、スピネル・レッド嬢と、私の従兄弟、アイオライト・バイオレットが婚約した!皆、祝ってくれ!そして、覆面作家先生の新作を期待しようではないか!」
貴族達が拍手する。
これで、横取り令嬢のざまぁが完了した。
私はアイオライト様にお礼を言った。
「私は覆面作家の小説のファンでもあるが、スピネルという女性が好きだ。だから当然だ」
アイオライト様が言った。
こんなに上手くいくとは思わなかった。
しかも、王太子様がノリノリで断罪してくれた。
王太子様の婚約者が覆面作家の小説のファンだから。
私が公爵家にお世話になってから数日後、王太子様が公爵家にいらっしゃった。
アイオライト様とは従兄弟だから、たまにいらっしゃるらしい。
王太子様は、アイオライト様から私の事を聞いて、執務をやり繰りして時間を捻出したらしい。
隣に座る婚約者のタンザナイト様が覆面作家のファンで、どうしても会いたいと言い張ったかららしい。
婚約者想いの王太子様だ。
アイオライト様が、今回の断罪劇の話をしたら、是非協力したいと仰った。
計画を立て、断罪は、新作出版1ヶ月後の王宮の夜会で、と、決まった。
そして、レッド伯爵家を調査し、姉を監視する、と仰った。
…そんな、私的な事に、王家を巻き込んで良いのだろうか…?
心配していたら
「盗作と窃盗をしているのに、野放しにしている方が問題だよ」
それはそうかもしれない…
断罪後のある日。
王宮に呼ばれ、私とアイオライト様は、王太子様とタンザナイト様とお茶会に参加していた。
「この度は、誠にありがとうございます」
私は頭を下げた。
「いやぁ!楽しかったよ!小説の主人公みたいで!」
「私にも出番が欲しかったわ」
王太子様とタンザナイト様が楽しそうに話す。
…本当に楽しそうだったな…
私は、夜会での王太子様を思い出した。
結局、姉は盗作と窃盗の罪で牢に5年、両親は盗作と窃盗の幇助で牢に3年入れられて、原稿料は全額返金…できなかったから、爵位と領地没収。
私が跡を継ぐか?と、王太子様に聞かれたが、あの家には未練が無い。
それに、姉や両親が牢から出た時に帰る所が無くなった方が良いと思った。
貴族でいる必要はない。
私も平民になってしまうが、それでも作家として生活はできる。
スポンサーもいるし。
「これからも、スポンサーでいてくれますか?」
アイオライト様に聞いたら
「勿論」
即答された。
だから、問題ない。
「次は、端役で良いから私も出たいわ」
タンザナイト様が微笑む。
「それなら、私がエスコートしないと」
王太子様の言葉に
「残念だが、次回作はもうできている」
アイオライト様が言う。
「「えぇ!?そんな〜」」
王太子様とタンザナイト様が絶望した。
「あの新作の前に、1作書き終わっていたからな」
「それでは、次の作品にしましょう…そのままの名前が良いですか?名前は違うけど、どう読んでも2人って分かるようにしますか?」
私が言うと
「えっ?良いの?」
「え?本当?」
王太子様とタンザナイト様が喜んだ。
「どうしようか?」
「ちょっと考えさせて」
「分かりました」
そんな感じで、お茶会は和やかに過ぎていった。
私は、公爵邸で平和に穏やかに暮らしながら、新作の執筆をしたのだった。
読んでいただきありがとうございます




