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三度目の長生き!  作者: ゴトーゼスタ


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第2話 オレ、チート?

「シャー、シャアアァ!」


 首筋に湿った冷気がかかる。腐臭と土の匂いが混ざった獣の息。

 オレ、灰ネズ、七歳。今、巨大なサーペントに喰われるところ!!


 だけど、前世と前々世の記憶が蘇って気づいた。

 氷血大蛇グラキオルーベル・サーペントって魔物はたしか、体長十メートルくらい。冬眠明けの飢餓状態だと狂暴化、村落を壊滅させる災害級になるとか。だけど、要は爬虫類! 蛇だよ、蛇!

 前々世のゲームじゃフツーの雑魚だし、前世の皇子様に至ってはどんな蛇型魔獣(サーペント)も威圧で蹴散らしてた。


 その威圧って、すなわち魔力。


 でもって、灰ネズ、やたら熱出して寝込む半病人だったんだけど、それ、魔力過多症のせいじゃね? 先天的に魔力の多い子供がなるやつ。


 まあ、前世の英雄皇子は『剣と魔法の世界だ、わーい!』って、人から教わる前に魔力ぐるぐる鍛えてたからね。

 ゼロ歳から魔力循環して制御・圧縮。十歳で魔力量世界一。十五歳で帝国最強。なのに、十八歳で……って、そんなことより!


 オレ、魔法、使えるんじゃね? 雑魚蛇ごとき、倒すまでもなく追い払えるよね?


「≪回復≫」


 前世では無詠唱だったけど、あえて言葉にしてみる。

 腹の奥の熱い場所がどくりと脈打ち、血とリンパに熱が――魔力が勢いよく流れ出す。

 全身の毛細血管が熱を帯び、指先まで魔力が満ちていく。体内の代謝が一気に活性化、損傷した細胞が次々に修復されて、頭からの出血も止まる。弱っていた内臓にも力が戻った。

 魔力を燃料に自分の身体が完全に再生されたのがわかった。


 こうなりゃ、もうあれだよね?

 最強のオレかむばっくウェルカム!!


 さらに魔力をめぐらせて、ズタ袋しょったまま身体強化で立ち上がる。筋肉も骨もパワーアップ、全身軽くて、空も飛べそう!

 あ、つい無意識でクリーン発動。

 髪とか服とか、視界をかすめてた赤い血がぱっと消える。頬に触れても砂がついてないし、なによりすべすべ! 擦り傷切り傷まで完全治癒!

 てか、あかぎれひび割れ、しもやけ太りしてた手先がピカピカきれいになってるよ!


 え? 蛇? 大口開けたまま硬直してる。エサのネズミが目の前でドラゴン級の魔力ブワーッだもんね、うんうん。


「おまえに恨みはないからなぁ。ま、でも、どうせなら、あっちのほうに行ってくれる? あいつら、ぜってー戻って来ないだろうけど、来たらめんどうだし」


 威圧ってほどじゃないけど、魔力を指先に集めて方向示したら、蛇には十分脅威になったらしい。木々をなぎ倒しながら森の中に逃げていく。でも、砂埃すごい。


「うわっ! ぺっ、ぺっ」


 慌てて砂を吐いたら、どこからともなく「きゅるるるっ」。

 いや、フツーに腹の虫の音だけど、灰ネズは常におなかぽっこり飢餓状態。空腹って感覚がないくらい食べてないのが通常モード。

 だから、≪回復≫で胃が健康になって、ようやっとの空腹感! 哀れ、灰ネズ(オレ)!!

 だけど、幸い食い物はある。


「やー、だって、あいつら、荷物ごとオレを蛇のエサにしたんだから、この袋はオレがもらっていいでしょ?」


 吹き付けてくる風をよけるために少し歩いて岩陰に入る。それから、背中に荒縄でくくりつけられてたズタ袋を降ろした。

 中身はメシと水って話だったけど……まず大きめの革袋に黒パンと干し肉がまとめて突っ込まれていた。さらに底にはずっしり重い水袋、すきまに火打石!


「そりゃ重いわけだ……」


 水袋は開けた瞬間、獣くさくてアウト。水なら魔法で作れるから中身だけ捨てて、袋は取っとく。

 そして、革袋の中から黒パンの塊をひとつ取り出した。

 巨大パンの端を切り落としたやつで、灰ネズの拳大くらい。乾燥しきってて、石みたいに硬い。


 まず手のひらにぬるめの水球を作り出す。 喉を潤してから、黒パンをぬるま湯でふやかした。

 とりあえずパンだけで様子見。これまでほんっとにひどい食生活だったから、ちょっとずつ試していかないと。

 もぐもぐ。うん、前々世と前世のオレだったら、まずくて吐き出してるね! めっちゃ酸っぱくて苦い。

 だけど、かびてないだけで今のオレの舌には最高級品!!


 ライ麦? 噛むほどにじわじわっと甘みが出てきて、うまみたっぷり。 香ばしくて味わい深い。

 しかも硬すぎて、ぬるま湯で戻しても永遠に噛み続けられるのがほんといいね! ずーっとおいしい噛み噛みだよ? 食べ物の味がずーっと続くんだよ? 灰ネズ的に至高のごちそう!


「…………なんだかなー」


 魔法で作った水ですら、孤児院の泥水よりはるかにうまい。

 この水魔法ひとつとってみても、普通の魔法使いは水の精霊に祈って水を出してもらう。

 でも、オレは違う。水素原子二個と酸素原子一個が共有結合して、104.5度の折れ線型ってか、104.5度のくの字型になってる映像を思い描いて、大気から水を作り出す。


 ほら、前々世のオレってそれなりに勉強してたから。

 剣と魔法の世界のアニメやゲームも好きだったし、この世界の人たちより原子分子レベルでの緻密なイメージが得意みたい。

 水を温かくしたかったら水分子の運動を速くするとか、水蒸気爆発を利用した必殺技とか、単純に酸素濃度を上げるだけでも火力マシマシ。


 なにを言いたいのかっていうと、オレの魔法って精霊使わないから、省エネなんだよ。まったくムダがなくてさ。

 魔力量が多いのに消費量も少ないから、とことん最強。

 そのくせ前世は早死に、今も冒険者パーティに見捨てられた生贄の羊(スケープ・ゴート)って……。


「まあ、あいつら以前に、孤児院にも捨てられたけど……」


 あの冒険者たちは今日、森で牙猪(タスクボア)を狩る予定だった。荷運びは必要はなかったけど、


『おい、ラガン。お前、児童管理院の出だろ。この子、七歳になったばかりらしい。ポーター見習いで使ってやってくれないか』


 冒険者ギルドの受付から声を掛けられて、しかたなくお情けで雇ってくれた。ろくに荷物も持てないチビだから、荷運びってより、いざってときのカナリア、蜥蜴の尻尾として……。

 おかげで結果的には五人分のメシが手に入ってラッキー? あいつらに感謝? なわけないって!


「ほんっと、この国の闇だよなぁ……」


 オレが育った孤児院の正式名称は、『ノルドガルド第十二児童管理院』。

 名前は立派だけど、実態は孤児の収容所。

 食事は一日一回。カビの浮いた黒パン一切れと、泥水みたいなスープ。

 暴力は日常茶飯事。殴られた子供が倒れたまま動かなくても、だれも気にしない。餓死、凍死、病死、行方不明。死因を分類する意味すらないほど、死はありふれてた。


 しかも灰ネズは名簿に名もない。

 でも、捨てられた日が覚えやすい日だったからって、今朝、副院長センセーがオレのことを思い出した。


『英雄皇子殿下の旅立ちから七年――おまえ、昨日で七歳になったのね。まさか七年も生きるとは思わなかったけど……ちょうどいいわ。ついてきなさい』


 そしてめでたく七歳からの外働きに”出荷”。


 この国の児童管理院って、保護施設じゃなくて、孤児を管理し、労働力として供給する国家機関。

 だけど、魔力もない平民の孤児なんて、さしたる労働力にならない。

 見栄えがいいとか手先が器用とか、よっぽど才能のある子は別だけど、非力で病弱な役立たずなんていつ死んでもいいって扱い。

 そも、帝国の弱者対策自体が底辺切り捨て弱肉強食システム。


『児童管理院への慰問? スラムでの炊き出し? 愚かな幻想だ。親にも親族にも捨てられた孤児を教育し、まともな職に就かせればどうなる。自分には親がいるだけましだと信じている善良な子羊どもが、己の境遇を省みて反旗を翻すようになる。――親に対しても、ひいては権威そのものに対しても、な。

 ゆえに社会の底辺を放置するのは、秩序維持のための必然だ。むしろ、早く天に召されるよう仕向けてやることこそ、持たざる者への唯一の温情と言える』


 うん、ほんっとに前世で(まつりごと)のお勉強、苦手だったよ……。

 ぬるま湯育ちの日本人気質に合わないっていうか、ほら、王道ファンタジーストーリーだと、主人公は正義の味方。貧民救済して聖人聖女扱いだよね? 

 なのに、前世のオレは弱者から搾取する独裁者サイド。


 オレって悪役? ゲームとかマンガの悪役転生したの!? ってすっげー考えたし。……思い当たるのなかったけど。


 テラグリウス帝国は徹底した能力主義で、その能力の基本は魔力。

 魔力は血統で受け継がれて、高魔力保持者が代々出世してくから、皇族貴族はみんなが優秀な魔法使い。


 で、身分が下に行くほど能無しってか魔力が少なくて、平民レベルじゃそよ風起こすのがせいぜいなくらい。孤児貧民は生きる価値なしの魔力なし。

 だから、弱者が叛乱とか下剋上もムリ。平民がどんなに徒党を組んで暴動を起こしても、魔力持ちの貴族があっという間に制圧してしまう。


 貴族は貴族として徹底した選民思想教育受けるから、弱者の味方になるなんて、ぜーったいナイナイ。


 ただしその代わり、国の危機には皇帝(トップ)自ら魔物討伐の先頭に立つ。

 前世のオレの父親はそれで死んだし、英雄皇子だって世界を救うための尊い犠牲になった。


 ……あれ? でも、今のオレ、魔力あるんだけど?


「あ、そっか。だから、オレの熱が魔力過多症ってわかんなかったのか。孤児には魔力検査もないし。やー、でも、それなら前世みたく赤ん坊のころから記憶あれば……」


 孤児に魔力なんて猫に小判、豚に真珠。

 ろくでもないことに巻き込まれるのがイヤで幼いころから能力隠して、そうすると今と大差ないことになってるような……。


「……そっか。何度やり直してもオレはオレ。なにかってーとすぐ逃げて、ダメなままなんだなぁ。前世も結局、国の暗部から目を背けて魔法魔法って感じだったし……」


 貧民救済、弱者保護を声高に叫べば、皇子としての自分の立場が揺らぐ。国の制度を変えるほどの情熱も正義感も道徳心も前世のオレにはなかった。

 それより、オレツエー! オレスゲー! マホ―サイコー!! って魔法修行が楽しかった。


「……って、まさか、オレが生まれ変わったのって、この国の身分制度なんとかしろって神様のおぼしめし? いやいや、ムリムリ! うん、だって、今の皇帝ヘーカってさぁ……」

 

 一応、考えてみたけど、挫折。

 くどいようだけど、オレ、神様に会ったおぼえないし、神様だって人選ぶっていうか、使命与えるならオレ以外の人にすると思う。


 なにせオレ、小六で引きこもった筋金入りの負け犬だから。逃げ癖が魂に染みついてる。

 なのに、無理してはりきって努力して、周囲の期待に応えつづけた結果が前世の早死に!

 だったら、もう三度目の人生、自分のためだけに生きていいよね?


「十八年と十八年と七年で、計四十三年か……。ちょっと早いけど、早期リタイア? うん、どっか人のいないとこでスローライフしよう! 畑作って、自給自足して、相棒はやっぱもふもふの犬だよな!」


 人里離れたポツンと一軒家でスローライフ!

 この直後、オレは“スローライフ”のスローが、のんびりじゃなく、“なにも進まずに詰む”ってことだと知ることになる……。

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