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三度目の長生き!  作者: ゴトーゼスタ


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10/11

第10話 もう丸投げでいいよね?



「ふぅ……」

 ほっと一息。心からの安堵。

 間に合った! オレ、ちゃんと自分の尊厳守れたよ!!


 ……いやー、ほんっと、突っ込みどころ満載だったけどね。

 履いてるのがオムツとか、一応パジャマだけど全身姫コーデとか、それ以前に部屋広すぎ!

 カツカツ大股で横切る母上じゃなきゃ手遅れだったし、壁に扉がいくつもあって、どれがトイレなのか最後まで分からない迷宮仕様!! 


 だけど……たぶん、この部屋には見覚えがある。離宮(ここ)に来たとき、皇帝夫妻が使ってた主寝室だと思う。

 まあ、皇族の住まいなんて、どこも無駄に広くて豪華で、ついでに迷路みたいなんだけど。とくにオレ、母上の“小さいルク”だったから、十歳近くまで母上とベッド共有。

 この別荘でも、両親のあいだに川の字で寝てたし……。


 ただ、記憶の引き金になったのは部屋そのものじゃない。

 ギリギリで入ったトイレ個室。立派な大人用便器の横に―― ちょこんと鎮座するアヒル型おまる!


(あーっ!! これ! 昔、使ってたやつ――っ!!)


 ふつうの幼児なら、おまる時代なんて覚えてないだろうけど、 オレ、日本人の記憶持ちの転生者だったから。

 日本人ってトイレへのこだわり強いし、幼児だから仕方ないってわかってても、おまる! 屈辱の象徴!!

 今だってめっちゃヤだけど、オムツよりはマシ。てか、灰ネズはトイレ関連、強メンタル! どこでもトイレ!!

 しかも母上、おとなしく部屋から出てってくれて、一人で使わせてくれたし。


 ――というわけで、なにはともあれ、すっきりさっぱり!


 オレは上機嫌で、個室の片隅にある手洗い場へ向かう。ちゃんと踏み台まで置いてある。オレに使わせる気満々じゃん。

 ウキウキで、前世ぶりの水道の水で手を洗う。


「ピッ、ピィッ!」


 肩のキイロもなぜか誇らしげ。こいつ、なにもしてないくせに!

 でも、顔を上げた瞬間――息が止まった。


「……だれ?」


 鏡の中にいたのは、灰銀色の髪の小さな子ども。

 灰ネズは鏡なんて見たことがない。だから、これが初めて見る自分の顔だ。

 思ってたよりずっと女の子みたいで、きれいに整えられたおかっぱ頭は、灰かぶりでボサボサだった頃とはまるで別人。

 それでも、肩の黄色いのがキイロだから、鏡に映っているのは間違いなく今のオレのはず――だけど、その瞳……。


 灰色じゃない。金でも緑でもない。

 光が混ざり合って、脈打つように揺れる金緑の――…。


「…………っ、なっ……」


 まばたきしても、まぶたをこすっても、色は変わらない。

 前世で見慣れたのと同じ。それは聖光樹に選ばれた皇帝の――。


「なんなんだよ、これ――っ!!」


 絶叫に、扉が外から勢いよく開いた。


「吾子よ、どうしたのじゃ?」

「お、おかしい! これっ、変だろ!?  オレ、灰ネズだよ!? なんで目がこんな色に……!?」


 踏み台に立ったまま振り向く。

 ティエルシアはそのオレの前に跪いて、目の高さをそろえた。


「その色に落ち着いたのは昨日のことじゃ。魔力飽和にて髪も瞳もくすんでおったのだろうと、医師らも申しておった。髪は銀じゃが、瞳は昔と変わらぬ。――そなたの瞳じゃ、ルクレオン」


 両の手でやさしく包み込むように、長い指がそっとオレの頬に触れる。

 深緑の瞳が、まっすぐにオレの目を見ている。


「そなたは妾の子じゃ。いかなる姿で生まれ落ちようとも、何度生を巡ろうとも――妾の子に変わりはせぬ」


 ……やーもう、これ、ムリ! 完全にキャパオーバー!!

 オレはもろ手を挙げて全面降伏することにした。


「……では、母上、お話がありまちゅ!」


 舌がもつれて、「ピッ」ってキイロに笑われたけどな……。

 このトリ、ほんと、なんなの?


     ◇◇◇◇◇


 部屋に戻ると、窓際の応接セットに侍女長が食事を準備していた。

 湯気を上げる料理がこれでもかと並び、銀色のカトラリーと白磁の金彩ティーセットまで揃っている。

 母上は軽く目配せして侍女長を下がらせた。部屋の中に残ったのは二人きり――いや、キイロもいる。


 母上はまず片手に抱いていたオレを椅子へ降ろした。座り心地満点で、どう見ても今のオレに合わせたサイズだ。

 それから、どこからともなく取り出したピンクの靴下を、せっせと履かせてくれる。


(……あれ? 珍しい。なんか今日はちゃんと化粧してる? いや、侍女長も年とったし、母上もそろそろコーネンキとかいうおばさんの年齢に……)


 なんて、心の中で勝手に納得しかけたその刹那――。

 母上が至近距離で顔を上げた。

 ――危険! 目が野獣!!


「まずは食事としよう。そなたは、もっと肉をつけねばならぬ」


 オレはコクコクと首を縦に降るしかない。

 もういい。なにも考えない。つっこまない。丸投げだ。

 いや、ぜひっ、丸投げさせてください!


 だって、だってだよ?

 金緑の瞳って、皇族でも滅多に出ない“皇帝の証”なんだもーんっ!!


 前世でオレ以外にこの瞳を持っていたのは、父上とヴェルサディス兄上だけ。

 歴代皇帝が全員この色だったわけじゃない。母上みたいな深緑の瞳の皇帝もいたし、金緑でも皇帝にならなかった人もいる。

 皇帝を決めるのは瞳の色より、魔力量と属性、そして聖光樹との相性だ。


 とはいえ、金と緑が混ざる光の双眸は、ただもうそれだけで筆頭皇帝候補。

 しかも皇子ルクレオンは、周りが次々に魔法を使えなくなっていく中で、一人だけ平然と最強魔法をぶっぱなしていた。

 そりゃ期待値マックスだ。貴族も神殿も民衆も、父上や兄上たちですら、みんな「次はお前だ」みたいな空気だった。


 だから、前世のオレはぶっちゃけた。

 十五の春、家族にぜんぶ話した。前世の記憶があること。精霊魔法じゃなく、別の理屈で魔法を使っていること。

 それでもなお、ヴェルサディス兄上はオレを皇帝に推してきたけど、よーく考えてもらった。

 母上やほかの家族も巻き込んで、ほんとにほんとによくよく考えてもらった。


 オレの常識は、この世界の非常識。

 象徴的なのが、オレの『オレ』って一人称だ。


 転生チートによる異世界言語理解――オレにはなかった。

 しかも頭にしみついた日本語が邪魔して、日本語にない母音や子音がなかなか聞き分けられない。発音できない。

 それでも、英語みたく自分を指す一人称が『I』だけならなんとかなった。

 だけど、帝国語の一人称は日本語並みに豊富だ。

 『私』『俺』『僕』『妾』『あたし』『わし』『うち』『わたくし』『おいら』『わて』『あたい』『儂』『拙者』『某』『余』『吾輩』……自分の名前呼びまで含めると無限にある。

 にもかかわらず――発音がぜんぶ一緒!!


 いや、周囲はほんのちょっとの抑揚や、誤差レベルの母音・子音の違いで何十種類もの『私』を使い分けている。

 だけど、オレの耳にはぜんぶ一緒……。


 いやルクくんはね、『私』って言ってるんだ、ほんとはね。

 だけどちっちゃいから、自分のこと『オレ』って言ってるのかな? って、空気、めちゃぬるっ!


 大いに挫折。

 『父上・母上』も、オレが言うと『とーちゃん・かーちゃん』。

 十歳過ぎても幼児語認定。敬語なんて論外。宮廷で浮きまくり!!


 そう、魔法バカのルクレオン皇子、時代が違えばただのおバカさん疑惑!

 とりあえず、しゃべりは絶対的におこちゃまだったんだよ!!


 だけど――、

『ルクは小さいからのう。まだ舌がうまく回らぬのじゃろう。あな、いとしや。愛らしいのう』

 皇后ティエルシアの“小さい可愛い”の前では、誰もが口を閉じるしかなかった。


 実際に前世のオレは小さかった……。

 両親も兄上たちも二メートル近いのに、オレだけ日本人時代と同じくらい……たぶん百六十センチ弱。

 この国の女性は、血統正しいお姫様――母上みたいな高位貴族ほど、百八十センチ越えてくる。

 なのに、成人後も百六十センチ(弱)!!


 しかも顔は母上似。綺麗系の女顔。

 体形は父方祖母に似たとか。細身で華奢で筋肉がつきにくい。


 加えて、諸々のカルチャーショック。

 庶民でしかない小物の発想、元・日本人らしい政治への無関心さ、清濁併せ吞むとか、オレにムリムリムリムリーっ!!


 ――って、泣いて土下座して、なんとか皇帝候補から外してもらった。

 だもんで、六大陸巡りの旅は帝国の権力争いから逃げる意味もあった。

 うん。逃げ癖はオレの習性。もはや個性!


 そして、だからこそ――母上はオレの生まれ変わりを確信している。

 ルクレオンの“異世界転生”の告白。あの息子なら、きっとまた生まれ変わる――そう信じて待っててくれたんだろう。


 だからとにかく先に朝食。

 自分でスプーン握って、とろけるパンプディングをぱくぱく。バターと蜂蜜がしみて最高。

 あ、キイロ、卵焼きの前にいる。くちばしでつんつんしてるけど――共食いじゃ……?

 長椅子に座った母上は、横からオレの口元を拭ったり、食器を整えたりしながら、合間に紅茶を優雅に飲んでた。


 腹が落ち着いたところで、オレは母上の顔を見ながら事情をささっと話す。


「オレ、たしかにルクレオンの記憶あるけど、思い出したのはついこないだなんだ。七年前の聖光日に児童管理院に捨てられたんだって。そんで、ちょっと前に記憶戻って……とりあえず昔の自分の秘密基地に飛んで来た。以上!」

「吾子よ……」


 かすかに震える声。揺らぐ深緑色の瞳。

 聞きながら、オレの灰ネズとしての七年をまともに想像したのだろう。

 でも、オレはもう過去を振り返らない。

 大事なのはこの先、未来だ!

 せっかくの三度目の人生、今度こそ長生きして、のんびり楽しく!


「あ、別に苦労自慢してるわけじゃないから。それより、母上、お願い! オレ、もう皇子も貴族もやりたくない!!」


 上目遣いで可愛らしく小首をかしげ、《可憐さ+300%》の愛玩皇子(※女装済)バフを限界突破。

 続けて、わがまま末っ子だけど遠慮がちな超おねだりモードを解放――!


「ほんとはね、オレ、どっか人のいないとこでスローライフしたかったんだ。だけど、オレ、服とか靴とか作れないし、料理もできないし……。だから、物資ってか、生活支援してもらえない? 家は魔法で作るつもりだけど、場所はこの辺のどっか、土地貸してくれないかなぁ?」


 結果。

 なぜか一番上の兄ちゃん――皇帝ヴェルサディスが呼び出されることになりました……。

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